<警察官>
「すみません、飲酒検問させてもらってます。フーッと吐いて下さい」
12月最初の金曜日。
忘年会シーズンのピークを前に大阪で行われた飲酒検問。
<警察官>
「ちょっとパトカーで話しましょか」
飲酒運転をしていたのはこの夜だけで62人、
検挙された人も26人にのぼりました。
厳罰化をされても、まだまだ無くならない飲酒運転ですが、違反した人物を即、懲戒免職にしてきた自治体の対応がここへきて揺れ始めています。
これは去年10月、三重県で行われた民事裁判の調書。
飲酒運転で検挙され、免職処分を受けた県の男性職員が法廷で意見陳述を行いました。
「県の職員として、自覚がなかったとはいいながら、酒気帯び運転というふうな罪を犯してしまったことについては深く反省しています。しかし、(中略)処分自体はやっぱり厳しいと思っています」

裁判記録によると、三重の県立病院で事務職員として働いていたこの男性は、おととし7月、休日に友人と行った旅行先で午前1時過ぎまでジョッキ3杯のビールと焼酎の水割りをグラスに3、4杯飲みました。
その夜はホテルの部屋で寝た後、翌日の午前10時過ぎからハンドルを握りました。
飲酒から8時間以上が経っていました。
しかし、車線変更の違反でパトカーに呼び止められた際に検査を受け、基準値を超えるアルコールが検出されたのです。
県は「飲酒運転は原則・免職」という指針通り、男性を「懲戒免職」としました。
裁判で男性は処分の取り消しを求めました。
「家のローンの支払いの関係で貯金は使いましたし、あと子どもの学資保険も生活を切り詰めるために解約しました。子どもたちにも心配をかけております。何とか再考いただけるよう、よろしくお願いします」
飲酒運転の厳罰化はおよそ10年前、事故の遺族たちからの声がきっかけでした。
3年前には飲酒運転をした福岡市の職員が、3人の子どもが犠牲となる事故を引き起こして批判が高まり、全国の自治体で飲酒運転を行った職員への処分が一気に厳しくなったのです。

近畿の2府4県と徳島県、政令指定都市4市を見ても5つの自治体で事故がない場合でも「原則・免職」に、残りの自治体でも兵庫県を除き、「免職か停職」となりました。
<神戸市監察室 古川厚夫室長>
「厳罰化をするというのは抑止効果もあるでしょうし、他都市でも指針が厳罰化に変っているということがありましたので参考にさせていただいて」
ところが、裁判所はその流れに「待った」をかけています。
冒頭の三重県の病院職員のケースでは、一審・二審ともに「懲戒免職は社会通念上、著しく妥当性を欠き裁量権の乱用だ」などとして役所側に免職処分を取り消すよう命じたのです。
実は、同様の判決は全国で相次いでいて、VOICEが調べただけでも今年に入って14の判決があり10の裁判所が処分の取り消しを命じています。
こうした裁判所の判断に怒りをあらわにしたのが、兵庫県加西市の市長でした。
<加西市 中川暢三市長>
「市民がゆるさないんじゃないかと思っている」
加西市のケース。
現職の課長がおととし5月、休日の昼間に焼き肉店でビール一杯と日本酒一合を飲み自宅まで車で帰ろうとして検挙されました。

懲戒免職になった課長は裁判を起こし、一審・二審とも処分の取り消しを命じました。
その後、最高裁も市側の上告を棄却し、「免職処分は違法」との判決が確定したのです。
<加西市 中川市長>
「飲酒運転防止、交通安全というのは国民の悲願でありますので、今回の判決はこのような時代の要請、世間の感覚からするとズレた判決と正直受け止めているところでございます」
「世間の感覚とずれている」と会見で述べた加西市長。
飲酒運転をして即、免職となることへの是非について街で聞いてみました。
<男性>
「ゆるめたらだめでしょ」
<女性>
「懲戒免職になるという前提がないと、飲酒運転やめなくてつい飲んでしまう人もいるかもしれないですし」
<男性>
「あいまいなところを作るのが一番だめなのであって、完全にだめなものはだめとするべきだと思う」
しかし、一方ではこんな意見も…。
<女性>
「懲戒免職というと職を失うことでしょ?そこまでははきついと思うわ」
<女性>
「実際にうちの主人が仕事全部なくなったときに、あーやっぱり罪を軽くして欲しいと思うかもしれないですけど、その場にたってみないとわからない。実際は」
ここまで意見が揺れる背景に、行政側の処分のあいまいさがあるのではないかという指摘があります。
たとえば、今年5月、神戸市が発表した職員の処分。
酒気帯びで検挙された職員が免職となったのに対し、書店で女性のスカートの中を盗撮して逮捕された職員が停職3か月、電車の中での痴漢行為で逮捕された職員は停職1か月でした。
職員側の代理人を務めたことのある弁護士は処分のバランスが保たれていないと主張します。

<丹治初彦弁護士>
「免職というのは退職金も失います。年金にも不利益がおよびます。あるいは家族全体の生活を破綻させてしまう極めて大きな処分。十分な吟味なく持ち込んだのが大衆迎合的施策だと言っている」
処分取り消しの最高裁の判決後、自治体に動きが出始めています。
「原則・免職」だった大阪府は基準の見直しをはじめ、また、強い口調で批判していた兵庫県加西市も先月、「停職」を含めた処分基準に改めました。
こうした揺れ動く動きを飲酒運転による事故の被害者の遺族はどう見ているのでしょうか。
井上保孝さん・郁美さん夫妻。
東名高速道路で大型トラックに追突され、目の前で幼い娘2人を失いました。
事故からちょうど10年。
今回の議論については自治体は処分だけを考えるのではなく、未然に防止する教育などに今以上に力を注ぐべきだと話します。
<井上郁美さん>
「一罰百戒というルールを作る前に、あるいは同時にやらなければいけないことがあるんじゃないかと思う」
<井上保孝さん>
「飲酒運転がなくならない。その背景は何なのか、原因は何なのか、そしてどうすればいいのかというようなところの深い所にある問題を組織で考えていかなければならない」
去年、全国で飲酒運転で検挙された人はのべ5万人以上。
事故は6,200件起きています。
酒を飲み、寝て休憩してもアルコールが残ったままハンドルを握れば飲酒運転です。
公務員だけでなく、すべてのドライバーがあらためて肝に銘じる必要があります。
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