文科省への「メール作戦」を話し合う大学院生ら=3日夜、京都市左京区の京都大学、左古写す
来年度予算の無駄を洗い出す行政刷新会議の事業仕分けで、文部科学省の若手研究者育成事業が「削減」と判定された。博士課程在籍者らに経済的不安を感じさせず、研究に専念させることを狙った事業だが、「成果目標が明確でない」などとみなされた。このままでは研究が立ちゆかなくなる――。京都大大学院生らは、予算削減に反対する要望書を文科省に送る「メール作戦」に乗り出した。
3日夜。京都大のキャンパスの一室に、人文・社会科学系の院生ら7人が集まった。メンバーは「予算削減は若手研究者の意欲を喪失させ、科学の発展を損なう」などとする要望書を練り上げた。要望書に各自の主張を書き加えて、文科省にメール送信し、財務省に働き掛けてもらうことを決めた。
他大学院などの研究者らにも要望書を送り、メール作戦の輪を広げる。研究会やシンポジウムでは、予算削減反対の署名を募るという。
科学技術関連予算の削減、廃止判定をめぐり、理系は、ノーベル賞受賞者ら5人が記者会見して反対を表明、多くの学会が意見書や要望書を文科省に提出している。しかし、個人の研究が中心の人文・社会科学系は、反対運動が立ち遅れている。
メンバーの一人、安田慎(しん)さん(26)はアジア・アフリカ地域研究研究科でイスラム教徒の巡礼について研究している。生活費は、日本学生支援機構から貸与される月12万円の奨学金が頼り。住まいは家賃2万8千円の築40年の木造アパート。風呂がないので大学のシャワーを借りている。書籍費や学会出張費などをひねり出すため、生活費を切り詰めている。
10月末、独立行政法人・日本学術振興会(学振)の特別研究員の採用内定通知をもらい、若手研究者育成事業の助成対象者に決まった。来春から2年間、アルバイトを禁じられて研究への専念が義務づけられる代わりに、生活費などとして月20万円、研究費として年間数十万円が支給される予定だった。だが、11月13日の事業仕分けで、同事業の予算が削減対象にされた。「いつ『内定切り』の連絡が来るかとびくびくしている」
文科省によると、博士課程を修了しても、任期の限られた就職先しか見つからない「ポストドクター」(ポスドク)は全国に約1万6千人いるとされる。若手研究者育成事業は、ポスドクも支援対象にしている。
メンバーの一人で、文化人類学を研究する女性(31)もポスドクだ。現在、学振の特別研究員だが、任期が切れる来春、同事業の助成は打ち切られる。その後の収入のめどはない。「職に就けない若手研究者が大多数。その人たちをどうするかという議論も十分にされず、結論が予算削減では、何の解決にもならない」。そんな思いを込めてメールを文科省に送った。
上智大大学院グローバル・スタディーズ研究科の博士課程に在籍する溝渕正季さん(25)は、メンバーの一人から要望書をメールで受け取った。自分も文科省にメールを送るつもりだ。「長期的な展望を欠いた政治判断は、百害あって一利なしだ」と考えている。
文科省によると、事業仕分けに関して寄せられたメールは、2日までに計約2万5900件に上る。(左古将規)