池田信夫 blog

Part 2

気候変動データについてIPCCの科学者が議論したEメールが、イギリスの大学のサーバへのハッカーの攻撃によって外部に持ち出され、Google documentとして公開された。NYタイムズなど主要紙もこれを報じ、大学もEメールが本物だと確認している。内容は1999年から現在に至るまでの膨大なものだが、温暖化懐疑派のサイトの分析によれば、その中にはIPCCの中立性を疑わせるものがある:
From: Phil Jones
To: ray bradley ,mann@virginia.edu, mhughes@ltrr.arizona.edu
Subject: Diagram for WMO Statement
Date: Tue, 16 Nov 1999 13:31:15 +0000
Cc: k.briffa@uea.ac.uk,t.osborn@uea.ac.uk

Dear Ray, Mike and Malcolm,
Once Tim's got a diagram here we'll send that either later today or first thing tomorrow. I've just completed Mike's Nature trick of adding in the real temps to each series for the last 20 years (ie from 1981 onwards) amd from 1961 for Keith's to hide the decline. Mike's series got the annual land and marine values while the other two got April-Sept for NH land N of 20N. The latter two are real for 1999, while the estimate for 1999 for NH combined is +0.44C wrt 61-90. The Global estimate for 1999 with data through Oct is +0.35C cf. 0.57 for 1998. Thanks for the comments, Ray.

Cheers
Phil

これはホッケースティック曲線として知られる、20世紀になって急速に地表の平均気温が上がったとするデータについての議論である。文中の"Mike's Nature trick"とは、Michael Mannが科学雑誌"Nature"に発表したホッケースティックについての論文で、「80年代以降の気温上昇を過大に見せ、60年代からの下降を隠す」工作を行なったとのべている。ホッケースティックのデータが捏造されたのではないかという疑惑については、全米科学アカデミーが調査し、IPCCの第4次評価報告書からは削除された。このEメールは、捏造疑惑を裏づけるものといえよう。

このように「初めに結論ありき」で研究が進められることは珍しくない。特にIPCCのように一つの大学に数億ドルの補助金が出るような大プロジェクトでは「結果を出す」ことが求められるので、なるべく温暖化が起きているようにデータを解釈するインセンティブが生じるが、このホッケースティックのように意図的に原データを改竄するのは、科学的な論争のルールを逸脱している。

来月、コペンハーゲンで気候変動枠組条約会議(COP15)が開かれるが、新興国は「温暖化問題は新興国の成長を抑制するために先進国の仕組んだ統制経済カルテルだ」と批判しており、IPCCのデータの信憑性についても疑問を表明している。COP15で合意が実現する見通しはないが、この事件は合意をさらに困難にするだろう。

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コメント一覧

  1. 1.
    • kaz0303kaz
    • 2009年11月22日 13:47

    おもしろい記事をありがとうございます。たぶん,GoogleDocumentsへのリンクされかったのは,
    http://www.anelegantchaos.org/cru/
    ではないでしょうか。グーグルのは予算額の表につながっています。

  2. 2.
    • ismaelxx
    • 2009年11月22日 14:32

    気温の図なんですかね? いったいそんなに昔の気温がどうやったらわかるのか、かねてからの疑問です。20世紀に入ってからも寒暖計とにらめっこしてたわけで、0.1Cとかそんな分解能があるとも思えず。地球の温度なんてどうやって測ってるんでしょうか。

    それと太陽黒点が少なくなった1650年あたりからのマウンダー極小期、えらく寒くなったという記録が多数あるらしいですが、グラフの気温は、さして下がってませんね。

  3. 3.
    • ysrobins
    • 2009年11月22日 14:46

    5
    スパコン仕分け問題にも通じますが、要は金ですよね。正面切って反対出来ないようにしておいて、有象無象がたかる。環境は21世紀最大の利権であり宗教でありイデオロギーですね。

  4. 4.
    • kentosho
    • 2009年11月22日 15:09

    私は科学者をやっていて、基本的に理論家ですが実験などについてもそれなりに学んだつもりですが、このメールに書かれているような稚拙なやり方をやる科学者はいないと思います。やってバレたら一発で研究者生命が終わりますから。ましてやそれをメールという証拠に残すなんてもっての他です。

    結論を望む方向に持っていきたい時に使うテクニックについてはもっとスマートで危険を犯さないで済む方法がいくらでもあります。普通の科学者はこんな稚拙なことはしません。

    IPCCの中立性は私も疑っていますが、温暖化懐疑派のこの「発見」はもっと疑わしいものだと思います。

  5. 5.


    >結論を望む方向に持っていきたい時に使うテクニックについてはもっとスマートで危険を犯さないで済む方法がいくらでもあります。普通の科学者はこんな稚拙なことはしません。

    捏造が日常茶飯事のような書き方ですね。

  6. 6.

    >>結論を望む方向に持っていきたい時に使うテクニック
    >捏造が日常茶飯事のような書き方ですね。

    実験データや統計データというものは、選別の仕方や処理の仕方によって、いろいろな色付けが出来ない事はない、という意味だと思います。だからこそ重要な科学的仮説の裏づけが必要な時には、何人もの科学者が別々に実験して、再現性を確認するのですね。

    ところがIPCCの資料の多くは、大規模な調査が必要なものが多いので、個別の実験室で再現するのがそもそも難かしく、その分、誤魔化し易かったという事でしょうか。

  7. 7.
    • sfdx
    • 2009年11月23日 02:02

    > やってバレたら一発で研究者生命が終わりますから。

    ばれないと思ってやったのかもしれません. コンピュータに疎い科学者もいます.

    捏造では黄教授が国際的に有名です. 数年前には日本でも論文データ捏造事件がいくつか発覚して問題になりました.

    私自身は, まだ第一報だから続報で判断しようと思います.

  8. 8.

    誰も触れていないのでご紹介しておきます。

    月刊正論12月号で、アラスカ大学交際北極圏研究センター名誉教授・赤祖父俊一氏がデータに基づいてIPCCの欺瞞を突いています。

    目次を見るだけで読む気のしない記事の多い正論ですが、これだけはしっかり読みました。(頭悪いのでデータは記憶に残りませんけど)

  9. 9.

    ホーケー図がIPCCの報告書から削られたという事実はありません。Working Groupの第6章の図6.10あります。
    http://www.ipcc.ch/pdf/assessment-report/ar4/wg1/ar4-wg1-chapter6.pdf
    科学アカデミーの結論に関してはhttp://web.sfc.keio.ac.jp/~masudako/memo/hockey.htmlが詳しいです。上の記事はねつ造とまではいいませんが、事実誤認では?

  10. 10.
    • ikedanobuo
    • 2009年11月23日 20:58

    たしかに、図6.10の比較対象の一つとしては入っていますね。しかしSPM(政策担当者用サマリー)からは削除され、本文でもいろいろな留保条件つきで参考として掲載されているだけです。

    このEメールそのものは本物なので、こういう事情があってIPCCもホッケースティックを「格下げ」して、うやむやにしたのではないでしょうか。

  11. 11.

    SPM(政策担当者用サマリー)によれば、「第3次評価報告書以降の研究により、データの増加に伴い、世界のさまざまな地域における、複数の指標から導かれた一貫した振る舞いに関する信頼性が高まっている。」「古気候に関する情報によって、過去半世紀の温暖な状態が、少なくとも最近1300年間において普通ではないとの考察が裏付けられている。」(気象庁訳)とされており、3次報告書に比べて第4次報告書で特に古気候学結論が不確実になったとはされていません。


    ちなみに上記のE-mailに対する関係者のコメントはこちら。
    http://www.realclimate.org/index.php/archives/2009/11/the-cru-hack/
    最近データに関しては、指標データを用いずに現実の温度(real temps)を用い、1960年の後の温度が下がるというデータに関してはNatureなどの論文を根拠にそのデータは信用できないから用いなかったというだけのことでしょう。

  12. 12.
    • m_akkie
    • 2009年11月24日 11:23

    http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20091120/210271/

    IPCCの杉山氏の発言は面白いですね。
    「今すぐCO2排出を止めても結構ひどいことになるかもしれないし、出し続けても大したことは起きないかもしれない。」

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