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社説

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経済対策―急場しのぎではだめだ

 鳩山政権の経済対策がようやくまとまり、年明けの通常国会に今年度第2次補正予算案として出される。「明日の安心と成長のための緊急経済対策」と銘打ったが、新政権が初めて取り組んだ経済対策としては、いささか看板倒れの感は免れない。

 もともと財源は麻生政権下の第1次補正予算の一部を凍結して捻出(ねんしゅつ)した2.7兆円が想定されていた。

 それが、デフレや円高による景気の「二番底」への懸念を背に、国民新党の亀井静香代表による規模拡大要求でもめたあげく、財政支出額は7.2兆円に膨らんだ。

 先月下旬に表面化した中東・ドバイが震源の金融ショックで、閣僚らはたじろいだのだろう。中身より規模の拡大が焦点になり、5千億円規模の公共事業予算まで盛り込まれた。

 鳩山内閣は1次補正見直しや事業仕分けを通じて不要不急の公共事業を凍結してきた。その一方で電柱、電線の地中化や街路緑化のような不急の公共事業に予算をつけるというのだ。これは明らかに矛盾したやり方だ。

 1990年代以降の自民党の政権下で公共事業中心の経済対策が乱発されたことが借金財政をもたらし、その後の社会保障予算の抑制につながった。それを教訓に、やり方を変えようというのが「生活が第一」「コンクリートから人へ」を掲げた鳩山政権のめざしたものだったのではないか。

 失業を増やさないために雇用調整助成金の要件を緩和することや、新卒者の就職、企業の資金繰り対策などを盛り込んだことは意義がある。

 しかし、急場しのぎの対策に終始してはいけない。今回は補正とはいえ、新産業の育成と雇用の創出につながるような成長戦略の芽を盛り込み、来年度予算につなげるべきだった。

 たとえば、少子化で余った学校施設などを活用し、保育所や介護施設の増設で雇用の場を生み出すというアイデアも出ている。やるならば、もっと大胆に、総合的に推し進めるべきだ。

 今後の成長戦略の柱となるアジア内需の開拓や、日本の競争力の柱として期待できそうな環境技術を磨くための人材育成や支援策も大切だ。

 経済対策には、不況の行く末を案じる国民を安心させるためのメッセージを政府が送る、という意味もある。だからこそ、需要不足を補うだけの財政出動ではなく、民間の消費と投資を引き出す知恵が必要になる。

 そういう工夫が乏しかったのは、たんに政権発足から時間がないためというより、中長期の成長戦略や総合デフレ対策を持たず、負担と受益のあり方などを幅広く討議する場もないことが大きな要因だろう。

 来年度予算編成に課せられた重い宿題である。

COP15―日欧連携で交渉を前へ

 国連の気候変動枠組み条約締約国会議(COP15)が始まった。地球温暖化を食い止めるため、京都議定書を引き継ぐ新たな国際枠組みの骨格について政治合意をつくる場である。

 最大の懸案は、2020年までに二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスを減らす中期目標の設定だ。

 鳩山由紀夫首相は「1990年比で25%削減」という意欲的な目標を表明した。米国や中国、インドといった主要排出国も続いたが、日本の目標よりかなり低い。国内に「日本だけが重い義務を負わされかねない」との懸念があるのも無理からぬところだ。

 今週末の非公式閣僚会合から最終日の首脳会合まで、確かな戦略をもって交渉に臨まねばならない。

 基本に踏まえるべきは、日本の「突出」感は他国の目標が低すぎるために増幅されている、ということだ。

 世界の科学者らでつくる国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は「先進国全体で90年比25〜40%削減する必要がある」としている。日本は他の先進国に削減目標を引き上げるよう説得するべきだ。

 まず欧州連合(EU)の動きがカギだ。あすからのEU首脳会議で「90年比20%削減」という現行目標の「30%削減」への引き上げを検討する。日本は引き上げを強く促すべきだ。そのうえで日欧が米国に働きかければ、オバマ大統領が米国の削減目標引き上げを議会や世論に訴えやすくなる。

 排出量2位の米国が意欲的な目標を掲げない限り、先進国全体としてIPCCの示した水準に届かない。そのことを忘れてはならない。

 日米欧がそろって積極的な姿勢を示せば、中国やインドに一層の努力を促す効果も期待できる。両国は国内総生産(GDP)当たりの削減目標しか掲げておらず、経済の成長にともなって総排出量が増える恐れがある。

 IPCCは50年までの長期目標として、世界全体の排出量を半減させる必要があるとしている。排出量1位の中国や、日本を抜いて4位のインドは低炭素型の成長をめざすべきだ。

 政治合意に削減目標の数値が書き込まれるかどうかは、今後の交渉にかかっている。だが、少なくとも、すべての主要国が削減の意欲を共有し、その決意を政治合意文書にしるすことで来年の交渉につなげたい。

 鳩山首相も「25%削減」の前提条件として、「すべての主要国が意欲的な目標に合意すること」をあげている。主要国が意欲的な姿勢を示さないなら、日本も国際合意づくりへ、削減目標を含めた戦略の練り直しを考えておく必要があるだろう。

 日本の最終方針は11日の関係閣僚会議で決まる。「25%」が交渉の牽引(けんいん)力となるよう外交戦略を詰めるべきだ。

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