【ソウル西脇真一】北朝鮮で7日、通貨ウォンのデノミネーション(通貨呼称単位の変更)に伴う新貨幣の使用が始まったようだ。ただ、新通貨が行き渡らないなど商取引ができない状態が続いているとの情報もあり、依然大きな混乱が続いているとみられる。北朝鮮はデノミを機に統制経済への回帰を狙ったようだが、商売人からは抗議の声も出て、デノミへの賛否が渦巻く中で当局の思惑通りにいくかは不透明だ。
韓国の人道支援団体「良い友達」は8日、「(混乱が激しく)価格が決まらずまだ商売はできない」など北朝鮮からの声を伝えた。平壌で今月3日にコメの価格が従来の3倍に跳ね上がったとの情報も紹介した。
韓国紙の朝鮮日報も8日、北朝鮮消息筋の話として「必死に働く女性たちが極度に腹を立てている。市場は金正日(キムジョンイル)総書記糾弾の場と化している」などと報じた。市場で働く中心は子供のいる女性らだが「保安員が制止しても抗議が止まらない」状態だという。
北朝鮮の朝鮮中央銀行当局者は、在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)機関紙「朝鮮新報」に対し、デノミに伴う貨幣改革の目的を「社会主義経済の管理原則と秩序を強固にする」と説明。「国家の経済能力が強化され、市場の役割は弱まる」と展望を語った。
この当局者は「国のために働く勤労者を優待する措置」とも述べた。新興の商売人と一般住民との貧富の差が拡大していたからだ。
現金での旧貨幣と新貨幣の交換比率は100対1。新貨幣への交換を「10万ウォンまで」と制限したのも、富裕層への締め付けとみられる。半面、当局は労働者の賃金をデノミ以前の額面のまま維持する方針で、賃金は事実上100倍になる。
一方、脱北者団体の「NK知識人連帯」は「国営企業で働くため商売ができず、生活が苦しかった労働者たちは今回の措置を歓迎する雰囲気だ」と伝えている。また、北朝鮮北部の咸鏡北道(ハムギョンプクド)からの情報では、食糧配給が始まり混乱した雰囲気が収まりつつあるという。
しかし、北朝鮮は毎年100万トンという慢性的な食糧不足が続いており、いつまで配給が維持できるのかは不明。また、モノ不足の中で早晩、物価が急上昇するとの指摘もある。ソウルの外交筋は「当面は、商売人ら今回の措置で打撃を受けた層の不満をどうコントロールしていくかがかぎ」と指摘する。
北朝鮮が流通させた新貨幣には、いくつかの特徴がある。
朝鮮総連機関紙「朝鮮新報」の平壌発の報道によると紙幣は最高額面5000ウォンをはじめ9種類、コインは5種類がある。しかし、発行年はどれも「02年」=写真<中><下>=か「08年」だった。
韓国の北韓大学院大学の梁文秀(ヤンムンス)教授は「当時もデノミを準備したものの、何らかの事情で実施に至らなかったのでは」とみる。02年7月、北朝鮮は公定価格や給料の引き上げなどを実施している。08年については「金総書記の健康悪化で延期されたのかもしれない」と推測する。一方、新紙幣には金総書記の生家だとする建物や生母である金正淑(キムジョンスク)夫人の生家もデザインされた。「家系の神格化が進んだ」と指摘するメディアもある。
毎日新聞 2009年12月9日 東京朝刊