きょうのコラム「時鐘」 2009年12月9日

 ノーベル賞受賞者、五輪メダリストに続き、今度は音楽家が政府の事業仕分けに文句をつけた。次はどんな著名人が登場するのだろう

大いに一般受けしたが、当事者は腹に据えかねている。何とも奇妙な政治劇の一幕である。ムダを切る勢いで次から次と廃止、縮小という裁きは、苦しい台所を理由に、ぜいたくを戒めるようにも映る

今は昔、お上が「ぜいたくは敵だ」という標語をはやらせた。張り出されたポスターの文字に、「素」の字を加えた人がいたそうである。「ぜいたくは素敵(すてき)だ」。こんな知恵者の機転を忘れたくない。年間3万人を超す自殺者を出す今の世も、非常時であろう

事業仕分けに怒るお歴々は、青少年に夢を、と美しい建前を述べる。そうに違いないが、「ぜいたくは素敵だ」と訴える機転が利かないものか。科学の夢、スポーツの興奮、音楽の陶酔。不況風に吹き飛ばされていいものではない

キリスト教に無縁の人々も、聖夜を待つ日々である。恵まれた政治家や高級官僚は実感が乏しいだろうが、あの夜は、たとえささやかでも「ぜいたくは素敵」に包まれる夜なのである。