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天声人語

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2009年12月7日(月)付

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 冬日を透かして、クヌギの葉が黄金に染まっていた。光合成の役割を終えた葉は土に還(かえ)り、今度は底から木を支える。緑から黒へ。その間に放つ一瞬の輝きは、任を果たした喜色に見える▼樹木医の石井誠治さんと、明治神宮の森を歩いた。クスノキなどの常緑樹が覆う参道に、森厳の語を思う。森は人跡から守られ、路上に散った葉も中に戻される。結果、その土は都心一の豊かさと聞いた▼初もうでの人出で知られる神宮は1920(大正9)年の創建。境内の緑の大半は、全国からの献木10万本を青年団が植えた人工林だ。大隈重信ら時の重鎮は荘厳な杉林にこだわったが、原生林を描く学者たちが説得したという。正しい判断だった▼早くも20年後、詩人の高橋新吉が〈身は都会の塵域(じんいき)を遠く離れたる心地す〉と詠んだ。いま、先人が夢見た「永遠の杜(もり)」の情趣はさらに深い。植生は多彩で、石井さんによればキウイの木まである。どこかで実を食べた鳥が種を運んだらしい。刻々と相を変え、森は進化する▼神宮の技師は「本当の天然林になるにはあと200年はかかる」と記している。樹木の命をつなぐ落葉は、終わりであると同時に始まりでもある。〈冬めくや幹のうしろに幹の見え〉倉田紘文▼きょうは大雪(たいせつ)にあたる。週末の雨に急(せ)かされ、何億もの葉が枝に別れを告げたことだろう。落ちて大地に抱かれ、腐葉土への長い旅を始めたはずだ。その足元で続く小さな営みを思えば、丸裸になった冬ざれの木々も清々(すがすが)しい。寒いゆえに温かい、そんな季節が巡ってきた。

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