読書の秋。ニュータウン各所の図書館は利用者で賑わう。多摩市の蔵書は概数で70万冊、稲城市は45万冊とかなり充実している。
各図書館ではコピー機の前に「著作権があります」のポスターを掲げ、著作権法31条により、コピーは調査研究用、著作物の一部分(半分以下)のみなどと書いてある。コピー代は一枚10円だ。しかしこのコピーには全国でも珍しい裁判の例がある。
☆訴訟問題
平成4年。多摩市の図書館で土木工学辞典をコピーしたい人がいた。ところがこの辞典は一項目毎に執筆者が明記されて一項目が著作物の全体になる。従って各項目は半分以下しかコピーできない。一冊の辞典は独立した著作物の集合なのだ。その人は研究資料が半分では困るから法的に確認するために提訴した。
裁判所は「立法論はともかく現在の法律では一項目の半分しかコピーできないと判断せざるをえない」意味の判決を下した。法による当然の判決だが、利用者の便利・不便の問題は裁判の枠外だ。
ふつう書籍は参考や引用のために必要部分をコピーするが辞典は少し異なる。著述や創作をする場合、テーマに沿って地名、人名、歴史などを様々な角度から調べるため私的資料として手元に置く必要がある。高価な各種辞典を個人では買えない。図書館でも一項目の半分コピーでは役に立たない。複数の辞典の項目の半分を手書きで写すのは相当に大変だ。
最近、図書館の辞典を利用したかったがコピーに制限がある。改めて、文化庁、国会図書館、各地図書館などで複数の専門家にいい方法はないかと匿名の条件で聞いた。
「卒論を書く時に困りました」と言う人もいた。文化庁筋では法の別条を準用する複写案を述べたが図書館での実現は難しい。みんな自分の経験からも真面目に考えてくれたが利用者に便利な解決策はない。
☆10数年が過ぎたが
いま各地の図書館はコピー機を設置して利用者に使わせている。時にはコピー申請の受付も省略する所もあるようだ。業務のスリム化と利用者の著作権への良識を信じているからだろう。注意書の掲示では八王子市南大沢図書館がいい(写真)。図書館は注意事項を親切に提示すれば公共施設の責任は充分だろう。
訴訟の判決から10数年が過ぎた。この間にも全国で研究用に辞典のコピー希望がなかったとは思えない。あくまで憶測だが、利用者の責任に任せるコピーの内容を図書館が知らなかったケースがあるのではないか。
疑問は多いが、昭和46年制定の著作権法は辞典の性格を想定したのだろうか。著作権は保護して欲しいと思う者だが、著作時には少々古い複数の辞典のコピーを私的に欲しい時がある。インターネットは別物だ。国会で著作権の特例など検討して欲しい。
090901号掲載
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図書館事情 「辞典」のコピー
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日本図書館協会等が平成18年に策定したガイドラインにより、今ではほとんどの場合、辞典の1項目全体の複写ができるようになっています。
(ただし、法改正によるわけではなく、ガイドラインには例外も決められています。)
「同一紙面(原則として1頁を単位とする)上に複製された複製対象以外の部分(写り込み)については、権利者の理解を得て、遮蔽等の手段により複製の範囲から除外することを要しないものとする。」
(上記ガイドラインより一部引用)
ガイドラインのURL
http://www.jla.or.jp/fukusya/uturikomi.pdf
投稿日時:2009/09/03 11:09 by coopy