国際貢献といえば、自衛隊の海外派遣をめぐる論争が頭に浮かぶ。途上国で医療や技術指導などに汗を流すボランティアをイメージする人もいるだろう。
そういった「打って出る」だけではなく、「受け入れる」国際貢献もある。
政府は2010年から、タイに逃れているミャンマー難民を日本国内に受け入れる「第三国定住」事業を始める。
第三国定住とは、自国を逃れた難民が避難先の国から別の国(第三国)に移住して生活を再建することだ。この事業で難民を受け入れるのは、アジアでは日本が初めてである。
タイの国境地帯には、隣国ミャンマーの軍事政権に迫害されたカレン人などの少数民族が多数逃げ込んでおり、9カ所のキャンプを形成している。キャンプの難民の総数は約11万人とされる。
難民は、軍事政権の少数民族への圧政が続く限り本国には帰れない。一方、普段から不法入国の就労者に悩まされているタイ政府は、タイ社会への受け入れを拒んでいる。ゆえに難民たちは、長期間難民キャンプに留め置かれている。
キャンプでは、国際的な非政府組織(NGO)の支援により食料などの供給は受けられる。だが、キャンプ外に出ることを禁じられているため、働くことができない。事実上軟禁に近い状態で、先の見えない人生を送らなければならない。
こうした状況を打開しようと、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が中心となって、第三国定住事業が進められている。すでに欧米諸国に向けて、キャンプから約5万人が旅立っている。
07年までの受け入れは、米国3万2千人、オーストラリアとカナダ各6千人、スウェーデン1700人、ノルウェー千人、フィンランド700人と続く。
難民受け入れは地味ではあるが、国際的な評価は決して低くない。とくに北欧諸国はこうした分野で実績を積み上げ、それが国際社会での発言力につながっている。もちろん人道主義が素地にあるのだが、戦略的な選択でもある。
これに来年から日本が加わる。試行事業として年間30人ずつ、3年間にわたり計90人を受け入れる計画だ。すでにタイ北西部のメラ・キャンプを対象に、人選を始めている。来日後は日本語研修や職業紹介などを行い自立を助ける。
3年で90人という受け入れ数について、11月に来日したアントニオ・グテレス国連難民高等弁務官は「人数は少ないが、それは問題ではない。アジアの国々に先駆けて、日本が国際的な役割を果たすということだ」と前向きに評価した。
しかし、いつまでもこの規模にとどまっていては、事業に参加したという「アリバイづくり」と思われても仕方ない。小さく始めても、徐々に大きく育てることが大切だ。定住した人たちを孤立させない地域社会の協力も不可欠だろう。
これも重要な国際貢献なのだ。
=2009/12/08付 西日本新聞朝刊=