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20091127

[]ユニクロ祭りを見て「消費の変化」について考えてみた

 発端は朝5時くらい。ふだんのうちの店の朝5時といえば、常連のじーさんが新聞とかタバコ買いに来るくらいで、それ以外の客はほとんど来ない。外からの人の流入が少なく、住民の高齢率が極端に高いため、商圏の住人の生活パターンがかたまってるわけだ。なので「ふだん来ない客」ってのが来るとすぐにわかる。

 その日は、3連休の初日ということもあって、まあふだんと少し違う客層が来るのはわかる。けど、なんか変。小さな子供がいそうな共稼ぎの夫婦っぽいのとかがやたらに多い。ふだんの午前5時台の1時間の客数がだいたい20人くらいなんだけど、この日は午前5時半の段階で、すでに40人近く来ていた。

 なにかが起こってる。しかし、なんだ? 運動会って話も聞いてないし、地域のバザーも、朝市もなんにも知らない。

 いったいなんだ?


 ところで俺は、店にいるあいだ、ずっとPCの電源を入れっぱなしにしていて、ほとんどの時間はついったーにつなぎっぱなしにしている。時間がちょっと空くと「 こ ど も ビ キ ニ 入 り ま し た ー 」とかポストしている最悪な状態だ。おまえは仕事しながらなに考えてる。

 まあ、ポストはしないまでも、タイムラインはなんとなく眺めていることが多い。

 で、この突発的な来客数だと、どこかで大規模なイベントなんかやってるんじゃないか、タイムラインになんか流れてこないかなーと思ってた矢先、ばずったーが吐き出した。

「HOT : ユニクロなう」

 ついったーやってない人にはなんだかわからないと思うけど、要はついったーのあちこちで、同時多発的に「ユニクロなう」とポストした人がいるってことだ。つまり、朝の5時半からユニクロに相当数の人がいることになる。

 その瞬間から情報が一気に流れ出した。ついったーにおけるユニクロの公式アカウントだとか、電子チラシのURL、ほかにも各地で並んでいる人のポスト、並ぼうとして諦めた人のポスト。ついったーの無駄なくらいの情報伝達の速さを思い知ったわけだけど、それはまた別の話として。

 その日は11月21日土曜日。ユニクロを運営しているファーストリテイリングの創業60周年記念セールがあった日だった。


 俺の知ってる限りで、大規模なイベントというとコミケなんだけど、コミケでも朝からここまでの来客があることはない。まあ、コミケの場合と、今回のユニクロ祭りの場合とでは、客層がかなり違う。移動手段も、前者はバス電車であるのに対し、後者は車がほとんどだ。うちの地域は、最寄のセール開催店から車で1時間近く離れているからなおのこと。

 それにしたって、とんでもない動員力だ。

 とりあえず俺は、店に来るバイトやら、顔見知りの客やら、片っ端から捕まえてみて「ユニクロでこういうセールをやってるらしいよ」ということを話してみた。すると、通学路の途中にユニクロがあるバイトの女の子以外、セールを知ってる人がいなかった。コンビニで長いあいだ仕事を続けられる人は、基本的に新しもの好きが多い。パートのおばちゃんなんかでも、年齢のわりに情報に鋭敏な人が多い。

 なのに、知らない。

 すぐにピンと来たのは、これ、今回はテレビじゃ広告打ってないんじゃないか、ということだった。タイムラインでやりとりした限りでも、どうもそれっぽい。実際は確認してないんだけど、少なくとも大量投下はやってないことはほぼ確実だ。

 となれば、店頭告知やらビラやらは当然あるとして、あとは企業のサイト、それとせいぜいがところニュースリリースだ。新聞くらいはやってるかもしれない。

 広告効果としてテレビが最強に近い位置にあるってのは、コンビニで仕事しててもわかる。やっぱりテレビCMが入ったときのキャンペーンやら新商品はそこそこ強い。だけど、今回のユニクロはどうもそれを使わずに、各店舗数百人、場所によっては4桁にも乗る行列を生み出したらしい。こうなれば、それ自体がニュースとしての価値を持つから、結局はテレビも取り上げる。実際、ニュースでやってるのは見た。

 俺は広告の分野にはまったく素人なので、これは完全な憶測なのだけれど、10億円還元っていうド派手なキャンペーンは、すげえ金かかるように思える。でも、ほんとにそうなんだろうか。テレビでのCM集中大量投下がどれくらい金かかるかはわからない。だけど、現実にテレビっていう媒体をあまり活用せずに、ユニクロは「祭り」といっていいほどの人を集めた。もちろん、靴下10円なんていうありえないセール品もあるわけで、原価割れしてる商品だってあって、そのぶんはコストにはなる。だけど、こっちのほうは断言してもいいんだけど、わざわざ遠出してって目玉商品「だけ」を買う人は、人が想像するよりも少ないはずだ。一説には、コンビニの売上の5割近くは衝動買いで成立してるなんて話もある。ベタに日常生活のなかに組み込まれているコンビニですらこうだ。お祭り気分で出かけていった人たちが、どれほどの無駄遣いをするか。

 いや、それは実際は無駄遣いではない。本当は目玉商品こそが無駄遣いであり、人が本当に欲しいものはほかにあって、売る側はそっちを売ることを狙っている。あたりまえだ。でないと目玉商品の意味がない。

 さらにいえば、ユニクロみたいな業態だと「思い出してもらうこと」がなにより重要なはず。コンビニは「近いから」という理由で使われることが多い。しかし服飾はそんな理由では選ばれない。もしそうなら、町の片隅にある「○○洋品店」とかすごい売れてみんなびっくりする。商店街も活性化しまくりだ。

 単価が高いものほど、人は価格やら性能やらを検討し、考えて買う。服飾にいたっては流行なんていうあやふやなものまで入ってくる。だから、いちばん重要なのは「あー、やっぱユニクロ使えるよね」と人に思い出してもらうことであり、一度は店に来てもらうことだろう。

 もちろん広告というのはそのためにあるのだけれど、ユニクロはどうやら今回のセールを、広告の最大のチャンネルであるテレビをあまり活用せずにやったらしい。

 それなのに、この騒ぎだ。

 つまり、こう考えられるのではないか。ユニクロは、広告においてもっとも金のかかるテレビを活用せず、それを価格なり現金なりの還元に使った。そして莫大な広告効果を得て、結果としてニュースというかたちでテレビまで動員することができた。たとえ10億円を還元したところで、企業全体としてはどうか。実は収支としてはけっこう儲かってんじゃねえのか。短期的にはともかく、半期とかのレベルでは相当の好影響が出るレベルで。


 さっき、コンビニでもテレビCM入ると強えって書いたんだけど、実は現場で働いていて感じることがある。

 昔より、テレビの効果が弱い。

 たとえばおでんのセールをテレビで大々的に広告としたとする。もちろん売上は伸びる。でも、たとえば20年前ならCM入れただけで客が来るし売れるってのがあったんだけど、いまは集客力そのものも昔より弱いし、来たところで客が、店のおでん管理レベルをきっちり見る。そんで、レベルが低いと客が離れる。その傾向は強い。

 これには、そもそもコンビニ業界全体のレベルの底上げってのもあるんだけど、客どうしの横のつながりがなんだか昔より強いような気がする。つまりクチコミってことなんだけど。地域共同体の崩壊が云々ってのはよく聞く話だけど、それを補う別の手段が発達していて、実はそれは媒体としてはえらい強いのではないか。たとえばメール、ネット、など。

 とにかく、客の情報に対する感度が上がっていて、こっちの手を見られてる感じがするわけだ。最近、新商品の拡販が効きづらくなってるのってのは、多くのコンビニ経営者が感じてることだと思うけど、それって短期的な「景気が悪いので、客の動向が保守的になってる」っていうのもさることながら、結局新商品ったって、パッケージが変わったり味が少し変更になってるだけであって、商売としては詐欺に近い。そのことの底を見透かされてるっていうのもあるんじゃないか。そうなったら、テレビみたいなマスメディアは「効きづらい」。広告が広告単体で価値や流行を生み出すのって、すごく難しくなってるんじゃないか。

 人は生活のためにものを買う。だとしたら、広告や流行なんてあくまで参考情報に過ぎない。理由は複数あり、それらは複雑すぎて俺ごときには理解できないにせよ、人はごく「あたりまえ」の状況に戻りつつあるのではないか。


 てなわけで、今回のユニクロのセールには考えさせられるところが多かった。

 今回に限っては、まずユニクロがナショナルチェーンであること、そしてタイムラインでやりとりした相手であるカネヅカさんが言ってたように、ユニクロがこういう商売がうまい、という例外的条件はある。

 だけど思ったんだよね。たとえば、ポイントカード統合の動きとかあるわけだけど、そういうのをからめてもっとうまい商売できるんじゃないか、とか。今回ユニクロではあんぱんを配ったわけだけど、たとえばうちのチェーンのキラーアイテムであるメロンパン。これをどこかのナショナルチェーンのイベントにぶつけてリニューアル、無料配布すればその広告効果って、テレビの比じゃない。これは容易に想像できる。食った人が「うまい」って複数の人に伝えるのほど強い媒体はない。ポイントカード入会でプレゼントなんてことすれば、よりお得。あとはそのポイントカードの持ってる市場占有率の問題だけど、それはまあ別として。つまり、広告宣伝費の使いかたの問題。

 いまでも、チェーン店は、統合、巨大化の動きを見せてるわけだけど、今後その動きは加速することこそあっても、止まることはまず考えられない。スケールメリットっていうのは、むしろテレビみたいなマスメディアが効かなくなったときにこそ有効。チェーンそのものがメディアになりうるわけで。

 と同時に、たとえばマックが巨大化していく過程で「ハンバーガーを食う文化」そのものを創出し、その裏側でニッチ(とはすでにいえない規模だけど)としてのモスバーガーが生まれたように、チェーンが巨大化すればするほど、隙間は増える。巨大化ってのは、マニュアル化、オペレーションの単純化、経営方針の合理化と表裏一体だから。

 その隙間を埋める業態ってなんだろうなーって考えると、けっこう楽しい。オリジン東秀なんかはあれ、出店の方針(コンビニのすぐ近くにブッ立てるっていう腹立たしいあれ)ひとつみても、コンビニのニッチだし。

 とまあ、そんなことをぱんついっちょうでしゃおりぬ聞きながら考えたわけです。