きょうの社説 2009年12月8日

◎民主の陳情ルール 国とのパイプ細らせずに
 民主党の新ルールのもとで始まった来年度予算編成の陳情で、石川、富山県の自治体関 係者から戸惑いや焦りの声が挙がるのも無理はないだろう。事業仕分けで地方絡みの予算が軒並み「廃止」や「縮減」判定となり、見直しを求めて地方の実情を訴えようにも、その声がどこまで政府に届くのか不透明なままである。

 自治体や各種団体の陳情を幹事長室に集約し、閣僚らに取り次ぐ新ルールに関し、民主 党はマニフェストに沿った要望を優先して取り扱うなど「陳情仕分け」の基準を打ち出した。それによって自公政権時代より国と地方のパイプが太くなるなら歓迎だが、マニフェストに照らしてそぐわないものは受け付けないという杓子をあてがうような姿勢であれば、パイプはむしろ細る懸念がぬぐえない。

 新ルールは陳情窓口を都道府県連に置き、地方組織の足腰を強化し、集票力を高める狙 いとされる。実際、全国的には陳情を受ける際に民主党支持を露骨に求めるような発言があり、石川県でも「自民党との付き合い方を改めてもらいたい」との民主党国会議員の言葉が波紋を呼ぶ場面もあった。

 今まで民主党の地方組織が弱かった地域ほど来年の参院選へ向け、自民党との間で支持 層を取り合う攻防が激しくなるのは避けられない。だが、選挙対策の思惑が前面に出すぎると、地方にとって何が大事なのかを見極める目も曇ってくるのではないか。

 石川県内では公共事業や農業関連の合同要望、富山県でも陳情ルールの説明会が行われ ている。事業の必要性を十分に説明せず、ただお願いするだけの姿勢も問題だが、事業仕分けに対し「全国一律に予算と個所付けを削らず、地方の事情をくんでほしい」との指摘はもっともである。

 民主党は国と地方の対等な関係を掲げ、地域主権基本法の制定や国と地方の協議機関設 置などにも前向きな姿勢である。その一方で、陳情の新ルールを見る限り、地方と国の関係が民主党に置き換わっただけで、対等な関係には程遠い印象も受ける。新たに出現した予算の新風景は、陳情そのものが少なくなる分権改革が急務であることを図らずも物語っている。

◎マグロ料理開発 地元で食べてこその本場
 「能登本まぐろ」が市場デビューを果たした今年、おひざ元の珠洲ではマグロ料理の開 発に取り組む機運が盛り上がっている。マグロは日本人に最も好まれる魚の一つであり、海外でも近年のすしブームでファンが増えている。珠洲がマグロの産地としてだけでなく、料理の本場としても認知されるようになれば、それを目当てにやってくる観光客も増えよう。食べ方の研究にも官民が一体となって力を注ぎ、「マグロのまち」を目指してほしい。

 ただ、地元であまり食べられない料理を目玉に据えて本場を名乗っても、観光客の支持 を得るのは難しいだろう。一気に新名物づくりを狙うよりも、まずは地元の人々に末永く愛される一皿を生み出すことを目標としたい。

 珠洲では、既に飲食店経営者や観光振興に取り組むNPO法人によって、中トロを使っ たかぶらずしや胃袋の味噌煮込み、心臓の塩ごま和え、皮の梅醤油など多彩な料理が試作されている。石川の郷土料理と新素材を融合させるというアイデアや、産地でなければ手に入りにくい部位を活用して新しい味をつくろうとする意欲は評価できる。

 特に、本来は捨てるしかない内臓なども余さず生かす発想は、魚醤づくりの伝統を持つ 奥能登ならではと言ってよいだろう。「能登本まぐろ」の今年の出荷量はまだ少なく、トロや赤身は、産地であっても品薄状態がしばらく続くこともあり得るが、内臓などであれば、それらよりも確保しやすいのではないか。今後も、試作品の改善やユニークな新料理の考案に努めてほしい。行政も、試食会開催費用の助成など、積極的な後押しを考える必要があろう。

 国内屈指の「マグロのまち」として知られる神奈川県三浦市の三崎には、マグロのかぶ と焼きをはじめ、そこへ行かなければ食べられないような料理を供する店が数多く並び、お菓子やラーメンまで開発されている。そして、大勢の観光客がマグロを味わうために三崎を訪れている。時間はかかるだろうが、珠洲もそんなまちを目指してもらいたい。