成りすましプロフ撃退法
12月7日12時45分配信 ITmedia エンタープライズ
『子どもをネットから守り、ネットで育てる』(翔泳社、吉田賢治郎著) |
本稿では、あるお父さんが、プロフの成りすましによる“いじめ”に対して行った体験をもとに、現実的な対処方法を考えていきます。
この記事で紹介する出来事は、本人が特定されないように性別、学年、時期などを一部変更しています。筆者が実際に行ったアドバイスは、出版社の許可を得て、「子どもをネットから守り、ネットで育てる〜頼れるお父さんになるための実践アドバイス」から引用しています。
●プロフの成りすまし
「息子がプロフでいじめを受けているようなので、どうしたらいいかアドバイスが頂きたくご連絡させていただきました」
中学2年生のサトルくん(仮名)のお父さんからわたしにメールが届いたのは、学校が夏休みに入る直前の暑い日のことだった。わたしがこの1年で受けた相談は30件以上あり、中でもプロフにまつわる相談は多く、これで4件目であった。プロフは中高生のネットコミュニティーとして浸透しているようだ。
“サトルくんに成りすましたプロフ”が作られたのは、彼が2年生になってすぐのことだった。サトルくんの名前やイニシャルが明確に書かれているわけではないが、彼の友達への悪口、テストの点数、うわさ話、ニセの告白、野球や芸能人のファンをばかにするコメントなどが書かれていた。
このプロフがサトルくんのものらしいといううわさがメールや掲示板で広まり、彼を知る生徒やプロフで悪口を書かれた友達、そして野球や芸能人のファンたちから強い非難を浴びるようになったのだった。一時の感情にまかせて書く学校裏サイトでの誹謗(ひぼう)中傷よりも、計画的で悪質な“いじめ”である。
後から考えれば、塾の帰りに皆で行くマックに誘われなかったり、理科室に移動するときに気が付くとひとりだったりといったことはあったが、そのときはさほど気にしていなかったそうだ。
サトルくんが最初にそれを知ったのは、クラスの友達からの苦情メールであった。「俺らの悪口をいいふらしているそうじゃないか」。直接非難を浴びせられたり、メールで送られたりしてくるものもあったが、ネットの掲示板での誹謗(ひぼう)中傷が最もこたえたそうだ。
掲示板には、
「お母さんがいないから、不潔でくさい」
「お母さんが浮気して離婚したらしいぜ」
「お父さん、首になって仕事してないらしいぞ。たかられないようにな」
などと、彼のプライバシーについても書かれていた。
サトルくんのお父さんは離婚しており父子家庭だった。サトルくんはお父さんと、妹はお母さんと暮らしているのは事実だったが、それ以外の内容はデマだ。
サトルくん兄妹は別れて暮らしていたが、学校では顔を合わせることがあり仲もよかった。妹の耳にもうわさは伝わっていた。妹はクラスの友達から「かわいそう」「大丈夫?」と気を遣われたことが、とてもつらく悔しかったそうだ。
お父さんにプロフによるいじめの話が伝わったのは、その妹からのメールだった。掲示板にサトルくんに対する悪口がたくさん書かれていること、自分もつらいが、サトルくんはもっとつらいはずだということ、そしてこのメールは内緒にしてほしいことなどが書かれていた。
心配になったお父さんは、サトルくんに事情を聞く前に、最初に紹介したメールでわたしに相談してきた、というわけだ。
●ネットでのいじめを受けたことを、親が察知・確認する方法
わたしは、1.子どもが助けを求めてくるまで待つこと、2.子供と日々、自然なコミュニケーションをとること、3.子どもが言いやすい場をタイミングよく用意すること、の3つをサトルくんのお父さんに提案した。
それ(いじめ)を子どもが自分で解決できるか、本当にいじめなのかを親の基準では判断できません。いじめなのかどうかは、子どもがどの程度悩んでいるかが判断基準だからです。
例えば、メールや学校裏サイトで、悪口を書かれていたとしても、子どもが「いじめだ」「苦痛から解放されたいが方法が分からない」と思っていなければ、大人は何もしないほうがいいのです。
子どもは、子ども同士のけんかに、親が中途半端に干渉することを嫌がりますし、信頼できない親が、「子どもを管理したい」「自分の思う通りに動かしたい」という欲求を満足させるために、介入してくることは不快でさえあります。
『子どもをネットから守り、ネットで育てる』より
基本的に、子どもは自分がいじめられていることを「恥ずかしいこと」だと思っている。だから、親は子どもに話すきっかけを与えなくてはならない。
さらにわたしは、以下をお父さんに提案した。
・父親はどんなことでも受け入れられることを、息子さんに伝えること
・二人きりで話せる場所とタイミングを決めて話をすること
・何げなく学校や友達の話題に触れ、子どもが話すきっかけを作ること
・世の中のどんなつらいことも、一時的なものだということを伝えること
いじめはつらいかもしれませんが、乗り越えれば必ず新しい生きがいや楽しいことがたくさん待っています。しかし、いじめを受けて、つらい毎日を送っている子どもはそれに気がつきません。ですから、お父さんの力が必要なのです。
厳しい社会の中で戦い、傷つきながらも家庭を守ってきたお父さんだからこそ、生き抜く方法と人生の楽しみ方を子どもに教えることができるとわたしは信じています。そして、子どもの心をいやす家庭を作れるのも、やはりお父さんです。
「いじめは、一生続くわけではないこと」「独りで考えずに、お父さんの力を借りて一緒にいじめを忘れるぐらいたくさんの行動をとれば乗りきれること」「お父さんはどんなことでさえ受け入れて冷静な対処ができる器を持っていること」を子どもに日ごろから感じさせ、とにかく最悪の事態を回避することに注力してほしいと思います。
『子どもをネットから守り、ネットで育てる』より
お父さんはまず、サトルくんが話しやすい場を作ることを考えた。最終的には、近くのラーメン屋で話をすることにした。
「『北の国から』というドラマで、お父さんと子どもがラーメンを食べながら話をするシーンがあって、それが頭に浮かんだんです」とお父さんは照れくさそうに話した。それを聞いてわたしは、これはうまくいくと感じた。
子どもは、「お父さんの肩車で、花火やエレクトリカルパレードを見る」「誕生日にロウソクが立った丸いケーキがあって、家族がハッピーバースデーを歌う」「寝る前に、お父さんが布団で寝るまで本を読んでくれる」などの典型的な幸せな風景やテレビに出てくるようなシーンに、安心感を覚えるからだ。
さらに、お父さんがサトルくんとどのように会話をするかについて話し合い、チームマネジメントのためにビジネスリーダーが利用するコミュニケーションスタイルの“コーチング”“ストレートトーク”の2つを応用して使ってみることを提案した。
●ストレートトークで素直な気持ちを伝える
次の日お父さんはサトルくんとラーメン屋で一緒に食事をしながら、「最近、学校はどうだ?」「妹は、元気でやってるか?」などのオープンな質問をして、サトルくんの言葉に極力共感するように会話を進めた。
しかし、なかなか「プロフの成りすましによるいじめ」の話題にはならなかった。お父さんは、我慢しきれなくなり、
・ネットでのいじめにあっていると聞いたこと
・サトルくんのことがとても心配だということ
・妹も心配していること
・ネットに詳しい人を知っているので、何か力になりたいこと
・離婚したことで、つらい思いをさせていることが気になっていること
など、自分の思いを話し始めた。サトルくんのために何か力になりたいのではなく、お父さんの気持ちとして、何かしなくてはいられないのだとも語ったそうだ。
お父さんは全く意識しなかったようだが、これは先のコミュニケーションスタイルの1つ、“ストレートトーク”である。相手に何かしてほしい、やめてほしいではなく、
「自分のつらい気持ち」「愛情」「自分の悩み」を素直に語るのだ。
ちなみに、『娘を攻撃する学校裏サイトに親としてメッセージを書いた結末』でわたしが学校裏サイトの掲示板に書いたときのスタイルも“ストレートトーク”だ。
誹謗(ひぼう)中傷コメントを書いている者を非難したり、命令したり、説教したりせず、自分がどのように悲しくつらいのかを素直に訴えたからこそ、そこでのいじめはなくなったのだ。ストレートに自分の気持ちを語ることは、テクニックではない。だからこそ、相手の心を動かすことができるのだ。
<コミュニケーションスタイル「ストレートトーク」>
ストレートトークは、子どもに対して「命令、指導、提案をしたい」、子どもの行動を「変えたい」など、お父さんが子どもの行動に不満、不安を感じたときに使うコミュニケーションスタイルです。
子どもに対して何をしてほしいかを“言わずに”、子どもの行動でお父さんがどのように困るのかを、素直に心を込めて伝え、子ども自身に解決方法を考えさせます。分かりやすく言い換えると、「お父さんがなぜ困るのか、何が嫌なのかを、明確に嘆く」というスタイルです。
これにより、子どもは自分がとった行動が相手をどれだけ悩ませ、迷惑をかけているかが明確に分かるようになります。やめなくてはならない本当の理由を明確に分からせなければ、本当の意味での「良い習慣=しつけ」にはなりません。
『子どもをネットから守り、ネットで育てる』より
その結果サトルくんは、現在起きていることで自分が知っていることのすべてをお父さんに話し、「正直、非常に落ち込んでいたが、今は大丈夫」「お父さんには手を出してほしくないが、専門家とお父さんの力を借りたい」「悔しいのでニセのプロフを立てた相手を付き止めたい」「何らかの形で、あれがニセであることを皆に理解させたい」と気持ちを語った。
次にわたしはお父さんに、このニセプロフを削除させるか、無視するかを決めるように頼んだ。これは、ネットの誹謗(ひぼう)中傷において、お父さんが最初に判断しなくてならないことだからだ。【吉田賢治郎】
最終更新:12月7日12時45分
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