日本のツキノワグマが、長く国内に生息する間に遺伝子レベルで東日本と西日本、南日本の三つに分かれて進化し、そのうち西、南日本で遺伝的多様性が無くなって「絶滅の危機」にあることが、独立行政法人森林総合研究所東北支所(盛岡市)などの研究グループの調べで分かった。
調査は、同支所生物多様性研究グループの大西尚樹研究員らが、慶応大、山形大などと共同で進めた。ツキノワグマの生息地の本州・四国の各地で捕獲されるなどした697体の組織やフンなどから、母系で受け継がれるミトコンドリアDNAの塩基配列を解析した。その結果、遺伝子レベルで、(1)琵琶湖以東の東日本グループ(2)琵琶湖から中国地方の西日本グループ(3)紀伊半島と四国の南日本グループの三つに分かれた。
国内には現在約1万5千頭のツキノワグマが生息するとされるが、今回の調査では、東日本グループで38種類の遺伝タイプが確認されたのに対し、約1500頭が生息するとされる西日本では16種、数十頭とされる南日本ではわずか4種しかなかった。
研究グループは「多様性があれば伝染病などが流行しても、耐性のあるタイプが生き残れるが、遺伝タイプが少なくなるほど抵抗できる確率が下がってしまう。生息環境再生などで保護対策を取らないと、西南日本では絶滅の恐れもある」とみている。大西研究員は「西南日本は、氷河期中も広葉樹林が広がり、もっと多様なDNAの個体群がいたはず。近世、近代以降の山林伐採などで生息域が狭まり、孤立・小集団化したのが原因ではないか」と話す。
ツキノワグマは、30万〜50万年前の氷河期に、陸続きだった朝鮮半島から日本に入ったとされるが、今回の調査で北朝鮮、中国雲南省などのクマと比較したところ、国内のグループのDNAはいずれも大陸系とは明らかに異なり、日本に渡ってから三つに分岐して独自に進化したと見られるという。(溝口太郎)