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韓国:併合100年 残る日本統治時代の建築物 歴史の碑か、負の遺産か

 <世の中ナビ ワイド NEWS NAVIGATOR 国際>

 ◇復元・保存に根強い反発

 来年、日韓併合100年を迎える韓国で、日本の植民統治時代に造られた建築物の保存や活用を巡る動きが目立っている。ソウルや釜山の大都市以外に隠れた史跡を訪ねる日本人観光客が増え、歴史ドラマや映画の撮影場所として使われるなど脚光を浴びたためだ。一方で「植民統治の遺産」への根強い反発もあり、慎重な配慮を求める声がある。【群山市で大澤文護、浦項市で西脇真一】

 慶尚北道浦項(キョンサンプクドポハン)市の中心部から車で約20分の九竜浦(クリョンポ)は1945年の終戦まで日本人漁師らでにぎわった。その歴史は19世紀末にさかのぼる。イワシなどを追う日本漁船が寄港し、その後、香川や岡山などの瀬戸内海沿岸などから漁民が集団移住した。やがて学校ができ、港も整備され約1000人の日本人が暮らすようになった。

 さながら日本人村となった九竜浦で生まれ育った徐相浩(ソサンホ)さん(89)は「漁期は人であふれ、通りは肩がぶつかり合うほどだった」と振り返る。

 九竜浦の通りの中ほどに急な石段があった。かつての神社の参道だ。両側に建つ石柱には寄進した日本人の名前が彫られていたが、戦後、裏返しにされ、地区の発展に寄与した韓国人の名前が刻まれた。港を望む昔の神社の境内には日本人の顕彰碑が建っていたが、両面がセメントで塗り固められた。徐さんもその作業に加わったが、今は「歴史は歴史。元通りにすべきではないか」と語る。

 戦後、日本人は引き揚げ、残った家は「敵産家屋」と呼ばれ韓国人が暮らすようになった。浦項市によると、九竜浦には、こうした建築物が43棟残っている。市は一帯を「近代文化歴史の道」として保存・整備する計画を立て、来年から2018年まで3段階に分け、民間資金も含め計337億ウォン(約26億円)を投入する予定だ。日本式の家屋を利用したカフェ経営や博物館建設などで積極活用を目指す。

 約20年前から日本式の家屋に住む電気修理業の男性(53)は「市の計画には賛同する。生活環境も良くなると思う」と語る。市は当初、顕彰碑のセメントをはがし復元も検討したが、一部市民が反発した。現在は意見集約中。朴承浩(パクスンホ)市長は「過去の歴史は消そうとしても無くなるものではない。日本人は日本人なりに、韓国人は韓国人なりに学ぶことのできる歴史の現場が九竜浦だ」と語る。

 ◇文化が融合した家屋も

 全羅北道群山(チョルラプクドクンサン)の旧市街地には日本の植民統治時代に建てられた約170棟の建築物が残る。群山はかつて、コメの積み出し港として拡大し、数千人の日本人が住んだ。植民統治を象徴する街とも呼ばれてきた。

 急傾斜の瓦屋根と広い窓が特徴で、街を歩けば一目で日本式と分かる何軒もの住宅が密集してある。韓国に唯一残る日本式寺院の「東国寺」▽豪商の日本式邸宅「旧広津家屋」など国・道・市の登録文化財も少なくない。

 群山地方は韓国の高度経済発展の波に乗り遅れた。旧市街地は昔の街並みをとどめるが、老朽化が目立つ。

 07年、群山市は条例を制定し「歴史文化建築物」の指定家屋には最高1000万ウォン(約76万5000円)の改修補助金を出すことを決めた。より貴重と認定された建物については市が直接、補修・保存対策を講じている。しかし今年初め、韓国国会で日本の植民統治時代の建築物を文化財登録しないよう求める声が起きた。群山でも、こうした建築物に対する感情は今も複雑だ。

 群山大学の表世晩(ピョセマン)教授(42)と一緒に群山で最も保存状態が良い「旧広津家屋」を訪れた。1920年代、反物商として財を成した日本人が建てた木造2階の邸宅とされ、当時の高級日本式住宅の姿をとどめる。表教授は、保存のための調査と保存工事が進む建物内に入り床材の下をのぞき込んで声を上げた。

 「オンドル(朝鮮半島独特の床下暖房設備)が残っている」

 この家が朝鮮半島の気候に合わせて改良された日本式住宅であることは間違いない。表教授は「日本式住宅と韓国のオンドルが融合した、群山独特の歴史的建築物と考えれば保存の意義は大きい」と訴えた。

 ◇96年に取り壊し…旧朝鮮総督府

 日本の植民統治を象徴した建物に旧朝鮮総督府がある。93年に就任した金泳三(キムヨンサム)大統領は当時、国立中央博物館として使われていたこの建物の撤去を指示。95年8月15日の解放50周年式典で尖塔(せんとう)部分を取り外し、96年11月に完全に取り壊した。

 旧朝鮮総督府は1926年、李朝の正宮・景福宮の正門(光化門)を移築した跡に建てられた。韓国政府が旧朝鮮総督府の撤去に伴い復元を進める景福宮のうち、光化門は来年10月に完成する予定で、ソウル市中心部に李朝時代の風景がよみがえる。【ソウル大澤文護】

毎日新聞 2009年12月7日 東京朝刊

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