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きょうの社説 2009年12月7日
◎並行在来線問題 検討に値するJR運運行案
新幹線開業後にJRから経営分離される並行在来線に関して、前原誠司国土交通相が重
ねて示している「地方に丸投げでよいのか」「JRのリスクは極めて低い」との指摘は、沿線自治体も共有できる認識だろう。北陸新幹線をめぐっては新潟県の負担金支払い拒否などで他の自治体が振り回される状 況が続いているが、並行在来線の経営は自治体にとって最も難しいテーマといえ、国交相発言を一連の騒動のなかで埋没させたくはない。これを突破口に自治体も議論を主導し、新たな打開策を探るときである。 並行在来線については、整備新幹線開業時にJRから分離することを沿線自治体、JR が同意するとの1990年の政府・与党の申し合わせがある。旧国鉄が分割民営化して間もなく、JRに過度の負担を負わせることは「第二の国鉄になりかねない」との懸念がまだ強かった時代である。 だが、自治体の財政状況や沿線の事情も大きく変化し、地方が鉄道経営を担う環境は格 段に悪化している。新幹線はJR、利用客が減る在来線は地方にお任せという役割分担に無理が生じているのは、先行地域の第三セクターの経営状況をみても明らかである。 九州新幹線長崎ルートでは、開業後20年間はJRが「上下分離方式」で運行するとの 合意が2007年になされた。沿線自治体の一部が経営分離を容認しないことを打開する窮余の一策とはいえ、在来線をいきなり地方に任せず、自治体が鉄道施設を保有し、当面は経営ノウハウを持つJRが担うというのは現実的な選択肢の一つであろう。 前原国交相は整備新幹線の大きな問題と並行在来線を位置づけ、「地方の負担能力はか なり厳しくなっている」との認識を示している。北陸新幹線金沢開業後に分離される北陸線については「貨物輸送の大動脈」と指摘し、複数県で受け持つ方法とは別の仕組みもあり得ることを示唆した。これらの問題については年内にまとめる基本方針で新たな視点を提示するという。並行在来線の経営の枠組みを決める時間が限られてきているなかで、見直し論議は今がまさに正念場である。
◎コメ生産目標決定 戸別補償の先の農業像を
コメの生産調整(減反)の基礎となる2010年産米の生産数量目標が決まった。今年
産より0・2%減の813万トンで、これに伴い、来年度実施予定の戸別所得補償制度の準備作業が加速することになる。北陸の生産目標は3県とも全国平均と同じ0・2%減で、富山県20万6700トン、 石川県13万2400トン、福井県13万6千トンとなっている。が、コメの所得補償制度の具体的な内容はまだ示されておらず、予算の縮小を求める財務省と全国一律実施をめざす農水省との協議も決着していない。詳細な制度設計を急ぎ、農家の不安をまず取り除いてもらいたい。 また、すべてのコメ販売農家を対象にした所得補償制度は、小規模な兼業農家も存続さ せる経営安定化策であっても、日本農業の体質強化策とは必ずしもいえない。所得補償制度だけで明るい展望が開かれるわけではなく、新制度の先にあるべき農業・農村像を示していく必要もあろう。 コメの所得補償制度は、過去数年間平均の生産費と販売価格の差額を補てんするもので 、減反政策に従い生産目標を守った販売農家が対象となる。補償を当てにしないで自由に生産することも可能であり、その点で「減反選択制」といえるが、赤字を補ってもらえる制度の適用を求めて減反に応じる農家が大部分とみられる。 コメの需要減と価格低下に悩まされる農家にとってありがたい制度であり、コスト削減 に努め、高く売れるコメを作るほど有利になるため、農家に生産性向上の努力を促すことになるとみられる。しかし、逆に補償制度に甘えて手を抜く農家が出てくる恐れもある。制度で小規模な兼業農家を保護することが、専業農家の経営規模拡大の流れを妨げ、生産意欲を減退させる懸念も否めない。 日本のコメ生産は小規模な兼業農家によって支えられてきたが、その構造をこれからも 維持していくのが本当によいのかどうか。中核となる専業農家の育成と市場競争力の強化は不可欠であり、そのための政策を所得補償制度とは別に示さなければなるまい。
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