きょうの社説 2009年12月6日

◎冬季の台湾便支援 八田技師絡みがユニーク
 県が、小松−台北便の冬季の搭乗率てこ入れを図るために実施する日本から台湾へのツ アー支援は、同便の利用とともに、金沢出身の八田與一技師が建設に尽力した烏山頭ダムの見学を旅行日程に組み込むことを、助成の条件としている点がユニークである。同便の搭乗率は総じて好調に推移しているものの、利用者の大半を占める台湾からの観光客の季節変動の影響も目立つ。八田技師をキーワードにした交流がより活発になれば、そうした悩みの解消につながり、路線安定の次のステップである機材の大型化や増便も見えてこよう。

 台湾では、八田技師を描いたアニメ映画「パッテンライ!!」が上映され、技師が烏山 頭ダム建設時に暮らしていた宿舎を復元して記念公園を整備する事業も進んでいる。同ダムの世界遺産登録を目指す運動も動きだした。そんな時期に、技師の故郷から台湾を訪ねてその足跡をたどる観光客が増えれば、技師の業績を再評価し、後世に伝えていこうという台湾側の機運も、ますます盛り上がるのではないか。

 県のまとめでは、今年度上半期の小松−台北便の搭乗率は73・6%で、小松空港に発 着するすべての定期便の中で唯一、7割の大台を超えた。機材は134人乗りでさほど大きくないとはいえ、台湾から日本を訪れる観光客の前年割れが続いていることなどを考えれば、大健闘と言える。この実績だけを見れば、そろそろ機材大型化などの話が出てもおかしくはない。

 ただ、昨年度は秋の旅行シーズン後に台湾からの観光客が減少して、搭乗率が一時的に 低迷した経緯がある。こうした状況が今後も続くようであれば、航空会社としても路線拡充には踏み切りにくいだろう。県は、新たな支援制度の周知に努め、冬季の「穴」を埋めて、航空会社の背中を押してもらいたい。

 もちろん、石川の冬の魅力を発信し、台湾からの観光客の落ち込みを最小限にとどめる 取り組みも大事である。今年1、2月に実施され、一定の成果を収めたスキーツアーや、それに続くアイデアにも大いに期待したい。

◎株価1万円回復 政府・日銀の変身を評価
 日経平均株価の1万円台回復は、政府と日銀の姿勢の変化に対し、市場が敬意を表した 結果だろう。ドバイ・ショックで、1ドル85円を割るような円高が進み、市場心理が過度に悲観に傾くなか、日銀が金融緩和策を発表し、政府との景気認識に対するズレが解消されたことで、市場心理が一挙に明るくなった。

 急激な円高・株安は、政府・日銀の「無策」をしかる一種の「政策督促相場」の意味が 込められていたように思える。腰が重かった政府も景気対策のための補正予算を事業規模で25兆円に上積みする見通しであり、日銀と政府の積極姿勢への転換によって、株価の底割れ懸念はひとまず遠のいたと考えてよいのではないか。

 平均株価を9000円付近まで下押ししする要因となった円高は、「円」の信頼の高さ と言うより、世界的な「ドル安現象」が背景にある。米国が金融危機の回避を目的に大量発行したドル建ての過剰流動性がドル安圧力となっている。こうした状況下で、藤井裕久財務相は「円高容認」と受け取られる発言を繰り返し、円高の流れを加速させた。

 藤井財務相は、自らの過ちを認め、円高容認の発言を打ち消し、円高阻止の「口先介入 」をするまでになったが、実際にやるかどうかは別にして、「場合によっては為替介入も辞さない」と言う強い姿勢を政府が繰り返し見せておくことも必要だ。実際、韓国やロシアは既に介入を実施しており、投機筋に対して警告を発しておく意味はある。

 日銀は、思い切った金融緩和策を実施している欧米諸国を横目に、これ以上の金融緩和 には慎重な姿勢を取ってきた。政府からの強い要請もあって、日本経済がデフレ状況にあることを認め、遅ればせながらも政府と日銀の危機意識が共有できたのは幸いだった。

 リーマン・ショック後の世界経済は今なお不安定で、回復力は弱い。世界を震撼させる ような経済的混乱がいつ起きるとも限らない。政府・日銀は今回の急激な円高・株安への対応を教訓に、危機対応能力の向上に努めてほしい。