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きょうのコラム「時鐘」 2009年12月6日
山陰では雄のズワイガニを松葉ガニと呼ぶ。雌をどう呼ぶのか、土地の人に尋ねたら「親ガニ」と返ってきた
子を産むから確かにそうだが、味も素っ気も風情もない。「わがふるさとでは、コウバコと言う。香る箱と書く」と、自分の手柄のように自慢し、感心された。呼び名は、ときに風土や土地の香りまで伝える 映画「武士の家計簿」の撮影で金沢を訪れた主演の堺雅人さんが、いろんなものを見て食べて、加賀の侍を演じる糧にしたい、と語った。とりわけ、「食べて」がうれしい。香箱も大いに食べて、名が伝える土地のたたずまいも知ってほしい 子どものころ、漫画に出てくる「がんもどき」が分からなかった。「ひろず(飛竜頭)」と知って拍子抜けしたが、豆腐店でポルトガル伝来の言葉だと教わって、大いに見直した。雁(がん)の肉に似た味という命名よりも、よほど由緒正しい宝物のような名前をちゃんと伝えている 名前もごちそう。かぶら漬けでなく、かぶらずしである。親ガニでは、遠来の人の食指は動かず、もっぱら地元で食べるという。あの美味を広めないとは、何とももったいない。 |