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司馬遼太郎氏が「祖国防衛戦争」との認識に立って書き上げた「坂の上の雲」だったが、晩年に至って司馬氏は「軍国主義鼓吹」の動きに利用されかねないとの危惧を抱いたのか、この作品の映像化を拒んだ。
しかしNHKは遺族との話し合いによって映像化が許された。
現代の日本人に勇気と示唆を与えるドラマだとして「坂の上の雲」の映像化に踏み切った。だが…。
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以下は「しんぶん赤旗記事情報/G-Search」から検索、貼り付け。
<本と話題>司馬遼太郎著『坂の上の雲』/その歴史観を読み解く(しんぶん赤旗)2009.11.29 日刊紙 8頁 一般 (全1,322字)
日清・日露戦争での日本の侵略性を否定/「映像化を拒んだ」発言の背景に何が NHKが司馬遼太郎氏の『坂の上の雲』(文春文庫・全8巻・各638円)をドラマ化し、今日から2011年までの3年間に計13回放映します。それに関連して「坂の上の雲」を特集したムックなどが数多く出版されています。
原作は軍人の秋山好古・真之兄弟と歌人の正岡子規を軸に「明治という時代」を描いた歴史小説です。司馬氏はこの作品で、全体として日清・日露戦争での日本の侵略性を否定して「祖国防衛戦争」と評価しました。関連本の大半もこの見方にそっていますが、こうした司馬氏の歴史観の問題点を論じた著作も相次いで出版されています。
明治栄光論と朝鮮観に批判 司馬氏自身は、この小説について「事実に拘束されることが百パーセントにちかい」と書いていました。
これにたいして、中村政則著
『「坂の上の雲」と司馬史観』(岩波書店・1800円)は、日清・日露戦争の経過をたどり防衛戦争論を批判しつつ、小説執筆当時に司馬氏が使ったと思われる史料を洗い直し、誤読や過剰表現が作品の随所に見られることを明らかにして、その「語りの戦略」の危うさを指摘します。日露戦争当時に日本軍工作員明石元二郎がレーニンと会ったという記述などもその一例です。また、その後の歴史研究の発展をふまえ、日本海海戦での東郷平八郎や秋山真之の事績などに見直しをくわえています。秋山兄弟や子規の人物像にも歴史家の目で新たな光をあてています。

中塚明著
『司馬遼太郎の歴史観』(高文研・1700円)は、日朝関係史研究者の視点で、司馬氏の朝鮮観と「明治栄光論」というべき立場を厳しく批判し、原作は朝鮮が地理的位置と主体的無能力によって日本に従属したのは仕方ないとする見方だと断じます。当時の日本が国際法を順守したとする司馬氏の評価にたいしても、日清戦争での朝鮮王宮占領、農民軍の抗日闘争への弾圧、戦後の朝鮮王妃殺害などの具体的事実を挙げて反論しています。
非戦にふれずアジアべっ視 司馬氏は生前、NHK番組で「坂の上の雲」を「視覚的なものに翻訳されたくない」と語ったことがあります。牧俊太郎著
『司馬遼太郎「坂の上の雲」なぜ映像化を拒んだか』(近代文藝社・952円)は、「ミリタリズムの鼓吹」とうけとられかねない小説の歴史認識と、憲法擁護の心情など晩年の言説とにはかい離があると指摘します。そこに著者の発言の背景を見いだし、自民党政治家との癒着が問題になったNHKがあえて「現代日本人に勇気と示唆を与える」としてドラマ化をすすめた企画意図に危ぐを表明します。
成田龍一著
『戦後思想家としての司馬遼太郎』(筑摩書房・2800円)は、司馬氏の初期から晩年に至る一連の著作を戦後思想史の中に位置づけようとした研究です。そのなかで「坂の上の雲」については、朝鮮や台湾への日本の侵略の実態、民衆の苦境や非戦の動きにふれない弱点にくわえ、西欧を基準に朝鮮・中国やロシアをおとしめ、女性を侮べつした比喩表現を使うなど、アジアべっ視と男性中心の価値観が表れていると指摘します。
これらの著作は、原作を読み、ドラマを見るうえでも参考になるでしょう。
(土井洋彦)
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