容疑米兵、出頭と聴取拒否/「想定外」長期化懸念も

　読谷村楚辺のひき逃げ死亡事件は発生から７日で１カ月。県警は、在沖米軍トリイ通信施設に所属する２等軍曹を容疑者と断定しているが、基地内で禁足状態にある軍曹は１１月１４日以降、任意の事情聴取を拒否するなど異例の状態が続いている。全容解明に長期化も懸念される中、県警内では思い通りに進まない捜査に、焦りが見え隠れする。（吉川毅、新垣亮）

　「逃げ得を許すわけにはいかない」「単なる交通事故とはとらえていない。極めて悪質な犯罪だ」。３日と４日にあった県議会代表質問で、県警の黒木慶英本部長はこう強調した。ただ、県警は自動車運転過失致死と道交法（救護義務違反）容疑での立件に向け、証拠固めを進めているが、肝心の事情聴取は拒否されたままだ。

　黒木本部長は「一般的に米軍事件は被疑者の出頭が確保されていたため特段の支障はなかった。しかし、被疑者が出頭拒否しているため大変難しい捜査となっている」と吐露する。

　一方、弁護士によると軍曹は「人をはねたのかもしれない」と話しているが、ひき逃げは否認。弁護士は「身柄は起訴されるまで引き渡さない」「取り調べを録画し、米軍法務官の立ち会いがなければ聴取に応じない」との構えだ。

■不確定情報

　県議会や市町村議会で事件への抗議決議が全会一致で可決され、起訴前の身柄引き渡しの声が高まる中、県警内では「近く犯罪通報する」「基地内で事情聴取か」など出所が分からない不確定情報も飛び交う。

　県警によると、犯罪通報は一般的に裁判権行使の通告期限の起算点となることから、公判維持を念頭に捜査を十分尽くした後に行う。県警幹部は「被疑者が特定されたといってすぐに通報することはない」と説明。また、基地内での事情聴取は「主権」にかかわる問題として否定する。

■「配慮」なし

　一方、県警によると、県内で過去５年間（今年１０月末現在）に発生したひき逃げ死亡事件は９件、容疑者はすべて日本人で逮捕された。１９９５年の日米地位協定の運用改善では、殺人や強姦（ごうかん）といった「凶悪犯罪」に限り、米側が起訴前の身柄引き渡しに「好意的配慮」を払うとするが、ひき逃げ事件で「好意的配慮」は一度もない。

　県警はこれまで、米軍事件の逮捕の判断について「出頭に応じない場合、逃走や証拠隠滅の恐れがある場合が基準。対応は米兵も日本人も同じ」と主張。米兵容疑者が米軍に拘束されている場合、米軍の捜査協力が得られているとして、起訴前の身柄引き渡しのない書類送検が常態化している。

　今回、想定外の出頭拒否で政治問題化することを懸念する県警幹部は「身柄引き渡しはあくまで国の判断だ。県警だけでは動けない」とスムーズに進まない捜査に戸惑いも見せる。

「逃げ得許さない」

　県議会（高嶺善伸議長）は４日午前、代表質問２日目の質疑が始まり、読谷村楚辺のひき逃げ死亡事件で、容疑者として特定されている米陸軍２等軍曹が出頭を拒否している問題について、県警本部の黒木慶英本部長は「まったくの想定外の事態。県警として全力を挙げて事実を究明し、適切な判断が司法で行われるよう努力を継続する。警察としてはいわゆる逃げ得を許すわけにはいかない」と述べた。

　瑞慶覧功氏（社大・結）への答弁。