2007年09月05日(水)
無理を感じる日本の外貨準備の運用強化
▼今日のクイズ(答えは文末に記載)
日本の外貨準備高はどれくらい?
中国政府は、外貨準備の一部を海外で運用するために6千億元(約9兆円)の特別国債を発行しています。調達した資金は、中国人民銀行が外貨準備として保有する外貨と交換し、海外の株式や投資ファンドなどで運用するとみられています。
中国の外貨準備高は、6月末現在で約1兆3千億ドルと世界最大規模となっています。貿易黒字の拡大が続く中、中国政府が人民元の上昇を抑制するための元売り介入を続けてることもあり、今後も中国の外貨準備は拡大傾向で推移すると思われます。
外貨準備の拡大は、行き過ぎるとメリットよりもデメリット大きくなります。たとえば、外貨準備が増えれば、それだけ為替リスクも拡大します。現時点でも、人民元レートは、年3%のペースで上昇しているため、中国の外貨準備は、1年間に約400億ドル(1兆3千億円の3%、約4兆6千億円)も価値が減少していることになります。仮に今後、人民元レートが大きく上昇することになれば、外貨準備の規模が大きいだけに、中国政府が保有する外貨準備の減価(目減り)幅も大きくなる可能性はあります。
中国政府が外貨準備を海外で運用する狙いの一つは、海外に分散投資をすることで、少しでも高い運用利回りを獲得し、外貨準備の為替リスクを軽減する点にあると思われます。
中国政府が外貨準備の海外運用に乗り出していることもあり、日本でも外貨準備の運用強化を図るべき、との考えが一部にあるようです。現時点では、日本政府は否定的な見解を示していますが、徐々にこうした声を意識するかのような兆しも見受けられます。
たとえば、9月5日付けの日本経済新聞は、財務省が外貨準備の運用についての調査・研究体制を拡充すると報じています。具体的には、国際局内にある国際収支室を資金運用室に衣替えし、人員も現在の9名から10数名程度まで増やす方針です。財務省は、今回の組織改編は中長期の調査・研究が狙いで、外貨準備の運用方針を変更するつもりはないとコメントしているようですが、「外貨準備の運用を強化すべし」という周囲の声を意識したことは否定できないでしょう。
個人的には、日本が外貨準備の運用を強化するくらいなら、外貨準備の残高を圧縮することにもっと興味を示すべきと考えています。外貨準備の(そもそもの)目的は、貿易決済での外貨の資金繰りが行き詰らないよう一定の外貨を準備することと、為替市場でいわゆる通貨危機が発生する(自国通貨が極端に安くなる)場合に備えて、外貨売り自国通貨買いの原資として一定の外貨を準備する点にあります。
日本は、世界2位の経済規模を誇る経常黒字国です。長期で考えれば、いずれ外貨の資金繰りに困ったり、経常赤字国となって通貨危機が発生する可能性は否定できませんが、今後数年でそのような状況になるとは思えません。日本の外貨準備高は、8月末時点で約9240億ドルと中国に次いで2番目の規模を有しています。これは1ヶ月の輸入額の18か月分に相当する規模であり、世界最大の規模を有する中国の同16か月分を上回っています。現在の日本の外貨準備高は、遠い将来のための「準備」にしては、やや規模が大きい気がします。
外貨準備は「準備」なのだから大きければ大きいほど良い、と考える方もいるかもしれません。しかし外貨準備は政府(国)の貯蓄ではありません。日本の場合、日本政府が日本円で借金をし、日本円を外貨に交換することで外貨準備を積み上げています。つまり、外貨準備が大きくなればなるほど、国の借金も大きくなることになります。
せっかくある外貨準備の運用成績を高めようと努力することは有意義だ、と考える方もいるようです。しかし、日本政府が借金を原資にして、世界の民間部門と競って運用成績を高めようとしたところで、望ましい結果が得られるか疑問です。また運用の世界では、利益だけでなく損失を被ることもあります。外貨準備の運用で損失が発生した場合、最終的には国民が損失を負担することになります。
外貨準備のあり方については、世界各国で違いがあるのが自然に思えます。中国は社会主義経済を標榜しているので、外貨準備の運用成否のあり方は、政府(国)が一元的に決められます。しかし日本は民主主義国家です。外貨準備の運用強化を目指すのであれば、国会等で議論をし、国民の総意を得るプロセスが必要に思えます。
▼クイズの答え
約9240億ドル
Posted at 15時38分