穴吹工務店・経営破綻の兆候
「資本関係、債務保証等の重要な契約の締結及び人的交流等の関係も無く、それぞれがまったく独立した企業グループとして独自の経営がなされています」
大証1部上場の穴吹興産(証券コード8928)は先月、こんな声明を出した。マンション分譲大手で未上場の穴吹工務店(「サーパス」シリーズ)が、11月24日に会社更生法の適用を申請。それを受けて、「グループ会社では?」と混同、誤解される懸念を払拭するためだった。
穴吹興産は、穴吹工務店のグループの一員として出発したのは事実。ただし、その後、マンション分譲事業(「アルファ」シリーズ)で競業関係に入ったことで、独自経営に舵を切ってきた経緯がある。
声明を出した穴吹興産は、マンション分譲を中心に、「高松国際ホテル」「ロイヤルパークホテル高松」「岡山パークホテル」といったホテル、各種施設やゴルフ場なども運営。ジャスダックに上場している、人材派遣サービスのクリエアナブキ(証券コード4336)は子会社だ。
穴吹興産は08年度、1923戸のマンションを分譲するなど売上高は約670億円、営業利益率は3.2%だった。その収支を1000万円のマンションにたとえれば、原価は814万円、経費は154万円、営業利益は32万円ということになる。
経費の内訳は広告宣伝費19万円弱、販売促進費27万円、給料など人件費はおよそ50万円といったところ。従業員の平均年間給与は576万円(平均年齢32.8才)、取締役の平均報酬等は3133万円。09年度も3%強の営業利益率を見込んでいる。
穴吹工務店の経営行き詰まりの原因のひとつは、マンション市場の落ち込み。一部に回復の兆しが見えるとはいうものの、買い控えの傾向は依然として強い。中堅のコスモスイニシアは、私的整理の一種ともいうべき「事業再生ADR」を活用し、大和ハウス工業などからの出資を受けて経営再建に着手している。
粗利益が標準は?
ところで、マンション分譲価格の内訳は、用地代が2~3割、建設費は4割から5割、広告宣伝費などの経費がおよそ1割、そして2割程度の粗利益が標準だといわれていた。現状はどうなのか。首都圏を中心にマンション分譲事業を展開しているゴールドクレストの例で見ていこう。
ゴールドクレストは08年度、1146戸の分譲でおよそ600億円の売上。原価は土地・建物合計で380億円強だった。それを元に計算すると、マンション1戸の平均販売価格は5201万円。そのうち、土地の原価は1535万円(29.5%)、建物原価は1789万円(34.4%)。残りの1877万円、率にすれば36%強が粗利益ということになる。
マンション分譲事業にその他事業も加えた、ゴールドクレストの収支(単体ベース)を、これまた1000万円のマンションでたとえてみよう。
原価は621万円、経費は人件費(17.4万円)や広告宣伝費(35.6万円)、販売促進費(16.2万円)など合計で113万円、そして営業利益は266万円ということになる。
ゴールドクレストは、09年度の減収減益を予想しているものの、高水準の営業利益率をマークしていることで知られる企業。それだけに、同社のマンション分譲粗利益率36%は、業界標準を上回っていると見ていいだろう。
他社のマンション分譲粗利益率はどうか。野村不動産HDが21.8%(戸建含む)、三菱地所が21.7%、大和ハウス工業が2.3%といったところだ。だが、マンションを販売しても粗利益すら確保できない会社が出現しているのも事実。
土地の値下がりなどにともなう棚卸資産の劣化、いわゆる評価損を含めた決算処理を余儀なくされ、マンション分譲の原価割れのケースも目に付く。マンション不況で企業間の体力格差は広がっており、分譲価格の内訳は各社バラバラというのが現状のようだ。
分譲平均価格では、三井不動産、三菱地所、野村不動産HD、それに前述のゴールドクレストが5000万円台。4000万円台は住友不動産、東京建物、積水ハウス、有楽土地、NTT都市開発。相関関係があるとは必ずしも断言できないものの、マンション1戸当たりの分譲平均価格が高い会社ほど、従業員平均給与の水準も高い傾向にあるようだ。
取締役の年間報酬等では、住友不動産が1億円を突破、三井不動産は9000万円台、三菱地所は7000万円台である。
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