アメリカでの中国研究学者が中国当局から圧力や脅しをかけられるという実態について記事を書きました。
日本でも対岸の出来事としてすませる問題ではありません。
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【朝刊 国際】
中国についての研究や報道をする当事者たちに中国当局の圧力がかかるという話は、日本でも米国でも一般論としてはすでに広く知られている。
私自身、産経新聞の中国総局長として北京に2年以上、在勤して、その種の圧力はきわめて明確に体験した。
だが中国報道だけを専門とする期間はあまり長くはないという見通しをもっていたので、それほど辛くはなかった。
しかし中国を専門としてずっと活動していく記者や学者はまた別であることを痛感した。
中国当局から嫌われれば、一生の職業キャリアを否定されかねないからだ。
米国議会の調査機関「米中経済安保調査委員会」がこのへんの実態を調べ、発表した。
同委員会の2009年度の年次報告での「中国の対外的なプロパガンダと影響力行使の作戦」という章である。
この章での中国当局による米国人中国研究者たちへの「アメとムチ」の実態報告が従来のタブー領域の解明としておもしろい。
同委員会の調査によると、中国政府は米国の大学やシンクタンクの学者たちに対し、中国当局にとって好ましい研究結果を発表する人には「前向きな報奨」を、好ましくない結果を公表する人には「厳しい懲罰」を加える。
その結果、大多数の学者は自然と事実であっても中国共産党の心証を害する報告はしないようになる。
一方、中国側の機嫌を悪くしても、あくまで事実は事実として公表しようとする学者も存在する。
その人たちへの懲罰の典型が中国への入国ビザの発給拒否だというのだ。
同年次報告は述べる。
「中国政府は中国内部で調査を意図する外国の学者を脅すためビザ発給を拒むことがある。中国政府は公式には認めないが、すでに特定の学者をビザ発給拒否のブラックリストに載せている。中国当局者はこれら学者に『あなたは中国では歓迎されません。なぜかはわかるでしょう』と告げるのだ」
その実例のひとつは04年に米国人学者数人が作成した新疆ウイグル自治区についての論文集で、筆者たちはみなその後、中国へのビザを得られなかった。
この措置は社会学や政治学の実態調査を中国内で実施しようとする米側の学者には重大な支障となり、とくに若手学者の将来に致命傷ともなりかねない。
同調査委員会ではブラックリストに載っているとみられる米国の学者6人に接触したが、実名で発言したのは2人だけだった。
そのうちの1人で中国社会の研究で著名な現カリフォルニア大学教授のペリー・リンク氏は、中国当局を「米国人学者たちの頭上に下がったシャンデリアにとぐろを巻く大蛇」と評した。
頭上から常に監視し、好ましくない動きを取れば、襲いかかるというのだ。
中国当局の人権弾圧を論じて、1996年以来、ビザ発給を拒まれているというリンク教授は「中国の政治や社会を研究する学者にとって入国拒否はとくに痛手であり、どうしても自己検閲をするようになる場合が多い」と述べた。
その自己検閲について、コロンビア大学などでの中国歴史の研究で高く評価されるオービル・シェル氏が同調査委員会に語った。
「中国について自分が調べ、考え、理解したことはこれでよいのか、と自問する。その理解に対し中国政府がどう反応するかを考えてしまう。できるだけ敬意や遠慮を示しながらも、迎合にならないことに努める。しかし全体として中国政府は迎合学者を作り出すためのものすごい能力を持っているのです」
同年次報告は中国政府の米国学界へのこうした圧力には「放射能効果」もあると指摘する。
一定の学者への中国による懲罰的な措置をみて、他の学者たちが中国政府の批判を受けない方向への自己検閲や自主規制に汚染されてしまう効果を指すのだという。
日本でも真剣に考え、論じるべき課題だろう。
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by iza-sam
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