きょうの社説 2009年12月5日

◎地域の産学官事業 予算獲得へ目に見える成果を
 科学技術振興機構の「地域産学官共同研究拠点整備事業」に、石川県の「次世代産業創 出支援センター」や富山県の「富山ものづくり産学官連携拠点」などが採択された。同事業は今年度第1次補正予算で全国枠695億円が計上されながら、鳩山政権の補正見直しで263億円に大幅圧縮された。研究開発への投資は長期的な評価が必要なのは言うまでもないが、同様の事業で今後も予算を確実に得ようとするなら、目に見える成果を挙げ、地域としての実績を示したい。

 行政刷新会議の事業仕分けでも、文部科学省の産学官事業が「廃止」になるなど、研究 関連予算に厳しい判定が相次いだ。科学技術分野に鳩山政権がどのように臨むのか戦略はあいまいで、取捨選択の尺度も分かりにくい。これでは地方の意欲に水を差しかねないだろう。地域の産業を育てるという大きな視点に立って研究予算の適正な評価、配分を求めたい。

 産学官拠点整備事業は、全国で40地域の案が選ばれた。石川県は県工業試験場に支援 センターを設置し、炭素繊維素材関連の一大生産地を目指すほか、発酵食品技術などを生かして「食品王国いしかわ」の基盤づくりを進める。富山県は高岡市の県工業技術センターでナノテクノロジー分野を中心に技術開発を幅広く支援する。

 政権交代後の補正見直しでは、この事業は原則として新たなハコモノが認められず、各 地域は計画の見直しを迫られた。石川県では構想が評価され、例外的にハコモノへの投資が認められたが、富山県では建物部分は県費を投じることになった。この事業は競争的な資金でもあり、構想の独自性や地域への広がりなどが評価の尺度になったとみられる。いずれにせよ、研究成果を地域に還元することが国の継続的な支援を得る道であろう。

 石川、富山県では昨年度から共同で「ほくりく健康創造クラスター」に取り組んでいる が、その「知的クラスター創成事業」も事業仕分けで「廃止」と判定されている。来年度予算編成の作業が大詰めを迎えるなか、より説得力のあるかたちで必要性や構想実現への道筋を示す必要がある。

◎郵政民営化凍結 「巨大官業」の前途多難
 完全民営化から一転、時計の針が4年前に巻き戻され、「巨大官業」が事実上復活した 。郵政組織再編の法案は来年の通常国会に提出される見通しで、本格的な事業見直し作業はこれからだが、郵貯・簡保のユニバーサル(全国一律)サービス提供を義務付けられるなど、国の関与が強まるのは避けられない。

 資金需要が冷え込むなか、「民業圧迫」との批判をかわしながら、収益性と公益性を両 立させていくのは容易ではあるまい。金融の実務に疎い元大蔵官僚をトップに戴く巨大グループが、どのような成長戦略を描けるのか、前途多難な再出発が予想される。

 鳩山政権が郵政株式売却凍結法を大急ぎで成立させたのは、自公政権の小泉純一郎内閣 時代に決めた郵政民営化路線の方向転換を内外に示す思惑があったからだろう。これにより、国が保有している日本郵政とゆうちょ銀行、かんぽ生命の株式は、新たに法律で定めるまで売却が停止され、日本郵政の宿泊保養施設「かんぽの宿」も譲渡凍結が決まった。

 ゆうちょ銀、かんぽ生命は、運用資産に占める国債比率が8割を超えており、地方から 集めた資金が地方に還元されていない。このため、政府は閣議決定した郵政改革の基本方針で、資金を地域や中小企業金融に役立てるよう求めているが、そうは言っても貸し出し業務に精通した人材に乏しく、ノウハウもない。

 資金需要が乏しいなかで、「官業」の強みをフルに発揮して、圧倒的な資金力と人海戦 術で臨めば、顧客は開拓できるかもしれないが、そんなことをすれば地方の金融機関は、たちまち弾き飛ばされてしまう。民業圧迫との批判を浴びるのは間違いない。

 ユニバーサルサービスの充実は、言うまでもなく経営効率化の阻害要因になる。与党の 政治家からの「要請」をむげには断れなくなるだろうし、たとえば「かんぽの宿」の赤字が重荷になっても売ることも許されない。さまざまに手足を縛られるなかで、ビジネスモデルを構築していく手腕が現経営陣にあるのだろうか。