【第2回】 2009年10月22日
メディアよ、いいかげん「ダメな経済学」を捨てよ!
就活と政策、トンデモ・エコノミスト糾弾。今経済学者がすべきミクロ・マクロ政策とは
経済学者の書いた就職本って、
ほとんど見たことがない
田中:先ほどの、無名大学の就職活動に関する本の草稿を、僕の周りのトップ大学以外の先生たち、十数人に送ったんですよ。そしたら、みんな驚いていました。「自分のところと同じだ」と。ひとつの会社を受けてダメになると、また次の会社っていうように、ひたすら行列を待つみたいにやっていく就職手法が普通になってしまっている。トップ大学以外の学生や大手以外の企業の独特の行動を伝えたかった。それが本当の大多数の日本の姿だと思うから。でもこういう問題はふつうの経済学者もエコノミストも理論とか統計でこちょこちょやる程度で、ぜんぜん実践なんてやってないんじゃないでしょうか。
ワーキングプアとか経済格差とかを問題にする人たちは大学生の就職のことをきちんとカウンセリングできているのか疑問です。僕もいつも決定打のない世界で試行錯誤してて、こんな難しい問題にもかかわらず経済学者の書いた就職本ってほとんど見たことがない。そのほかにも例えば内定切りとか、採用して3ヵ月ぐらい経って切っちゃうとかあるじゃないですか。ああいう事例は、どの大学もかなり経験しているんですよ。そうした情報は共有するべきなんですよね。就職に関するブラック企業リストを。
でも、トップ大学の教員は概して就職には無関心な人が多いですね。学生が積極的にやるのでノータッチに近い。多くの就職本もそんな上位層を意識して書かれたりしています。でも就職を希望している8割以上の学生はそういう上位層でもない。就職支援する無名大学の教員、職員も、ギリギリでどこもやっています。本当は、専従スタッフを設けたほうがいいと思う。「学校」の世界の中でずっと生きてきた先生は、外の世界を知らないわけですから。
就職する人間って、ある種の極限状況に置かれてるわけですね、全員が。初めて社会の入口に立つわけですから、全員緊張している。その入口が狭いか広いかは、当人にとっては運や景気の程度で決まってしまうことが多い。個人の努力では片付けない問題があるので、政府の政策がちゃんとしないとダメなんですね。自分は教師でもあると同時にエコノミストなので、どうしてもミクロ的な助言と平行して、マクロ的な対策も主張していかなくてはなりません。
日銀の失策に「景気がよくなったのに
賃上げをしない」の、“2段階の不況”
――現状への適応を進めるだけでなく、経済環境の改善も同時に行わなくてはならないのですね。ではマクロに視点を移していきますが、端的に現在の不景気の原因は何なのでしょうか?
田中:日本の場合は、先進国の中では、今回の世界同時不況でいちばん景気が落ち込んだわけですね。これは要するに、“2段階の不況”です。2007年の頭に日本銀行が、従来のゼロ金利政策、量的緩和政策を放棄し、実質上の利上げを行いました。いわゆる「金融引き締め」です。そうすると当然、数カ月後にやはり景気が転換して、下降局面に入っていったわけですよね。そうした疲弊した状況で、世界同時不況を迎えたのです。前者は明らかに、日本銀行の政策の失敗です。
それ以前の2002年ぐらいから始まった好景気というのも、非常に低い水準での景気回復であって、本格的なものではありませんでした。よく言われることですが、輸出主導で、内需がぜんぜん伴っていなかったし、名目所得も伸びていなかったので、みんなの懐もまったく温かくなっていなかった。
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「日本はダメだ」「日本は終わった」と『絶望論』ばかりが唱えられる今、本当に私たちは将来を悲観・絶望したままでいいのか? 日本の政治・経済・社会、そして私たちがどこへ向かうのか、若手経済学者・社会学者たちが日本を語る。
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