じいさんSEのひとりごつ

じいの場合、直接的な理由は父の余命告知を受けたからです。
あと一年と医者に言われ、それでも日々悶々と
なにもしてやれないものかとじいは
わだかまりを感じながら会社勤めをしていたのですが、
やはり、自分の気が済むまで、あるいは後悔をしないようにと
いう思いが日々募って、とうとうある日退職を決意したのです。
もちろん、伏線として数年前から、企業独立してみたい
気持ちはありました。というのも会社の同僚先輩後輩が独立して
うまくやっているのをいくつも見てきたからです。
でも、じいの場合、特に緻密な計画があるわけでもなく、
勝算があるわけでもなかったので、独立する勇気は
なかなか持てませんでした。
だから父があと一年といわれたのが独立の理由というのは
あまりかっこいいものではありません。
今でこそ何とか仕事をいただくことができ、食い繋いで
いけてますが、実際退職して独立後の２ヶ月くらいは、
なにも仕事がなく、不安で胸が苦しかったです。だから
会社を辞めたことは両親には言えませんでした。
初めて打ち明けたのは仕事を受注してしばらくしてからの
５ヶ月後だと思います。
母からはまあびっくりされ、あきれられましたが、父は
いつものように動揺もせずにほくそ笑んでいました。
もちろん辞めた理由は今でも言ってません。

仕事を受注してからは逆に会社勤めのときよりも忙しくなって
しまい、なかなか親孝行なことはできませんでした。
それでも勤め人と違っていろいろ融通がきいたので、
入院や通院の世話から旅行の手配など、いろいろできたような
気がします。その甲斐あってか父は１年たっても元気でした。
２年目の冬、再入院を余儀なくされたとき、入院する前にじいは
父に、事務所を借りたので見ていってくれといって会社を
案内しました。会社の看板や社員の机を無表情に見つめながら
うなづいていたのを覚えています。
その３週間後父は家族全員に看取られながら他界しました。

思えば父が脱サラしたのは今のじいの歳と同じ。
子供もいないじいは全くもって親不孝ものです。