景気の二番底が懸念される中で、雇用を取り巻く環境は一段と厳しさを増している。来春卒業予定で就職が決まっていない学生は16万人。「ロストジェネレーション」を再び出さないためにも、早急な対策が必要だ。
2009年7〜9月期はGDP(国内総生産)が4〜6月期に比べて年率4.8%上昇(速報値)した。だが、雇用を取り巻く環境に回復の兆しは見えてこない。景気が回復すれば、雇用は回復する。そんな時代はもう来ないのかもしれない。なぜなら、日本の会社には、それだけの雇用を支える仕事量と余裕がなくなってきているからだ。
「誰でもいいから欲しい」終焉
厚生労働省の調査によると、来春卒業予定の大学生の就職内定率は、10月1日時点で62.5%と昨年の同じ時期に比べて7.4ポイント低下。3人に1人の就職先が決まっていないことになる。
ところが、リクルートワークス研究所が調べた大卒者の求人倍率は1.62倍。求職者を求人が上回る状況が続いている。求人倍率が1を切った2000年3月卒業生の採用時でも、同じ時期の内定率は63.6%と、今年よりわずかながらも高かった。
求人はあるが内定率は低いーー。これは何を意味しているのか。
日本企業が「質」による学生の選別を強めていることが背景にある。「企業を引っ張っていける優秀な人材しか採らない」ことを示している。
慢性的に人材の獲得に苦労し、とにかく人数の確保に躍起になってきた中小企業も例外ではない。
煙突設計・工事メーカーのツカサテック(大阪市)。今年の春、10年ぶりの新卒採用に踏み切ったものの、いまだに採用に至っていない。建築学科を卒業する学生を採りたいと考えていたが、「中学校レベルの数学でつまずく学生も多数いた」と言う。現在も会社説明会や選考試験を続けている。
同じリクルートワークスの調査では、従業員1000人未満の企業の来春卒業予定の大学生への求人倍率は3.63倍と高い。それでも内定が得られないのは、明らかなミスマッチが起きていることにほかならない。
中小・ベンチャー企業400社の採用を支援するネオキャリア(東京都港区)の篠原広高コンサルタントは、「来春入社で優秀な学生を採用できなかったために、顧客企業の8割が、次の採用活動の開始時期を1カ月〜1カ月半前倒しした」と語る。採用を早めて少しでも良い人材を採りたいと奔走する中小企業が増えているのだ。
不景気で採用する企業側にも余裕がなくなり、「どうせ採るなら将来の幹部になるような優秀な学生しか採りたくない」というのが本音。採用する際の審査の目は厳しさを増している。
新たな雇用の受け皿として期待されるベンチャー企業からも、「普通の人はいらない」という声が聞かれる。
企業のウェブサイトコンサルティングのベンチャーであるビービット(東京都千代田区)は、業容の拡大で人材不足が経営課題になっていた。今春の採用では、例年の1.5倍の応募があったが、1人も採用しなかった。中には理系の大学院生や東京大学の学生もいた。最終選考には20人ほど残ったが、全員、条件に満たなかったという。若林龍成副社長は「条件を厳しくしているからだと思う」と振り返る。
「来てくれるなら、誰でもよい」というのは過去の話。最近のベンチャー企業の多くが、ITやバイオといった頭脳集約型の企業が増え、少数精鋭で経営する戦略を取っていることが大きい。専門知識を持ち即戦力として活躍できる新卒しか採らなくなっているのだ。
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