2009年12月5日0時4分
ドル円相場が一時84円台をつけ、円高が進んだため、市場では円高デフレ、景気二番底、株安の懸念が広がった。このため為替介入の思惑が広がり、政府からも為替の動きは重大な関心事として、暗に為替介入を示唆する発言もみられた。
しかしこれは慎重にしたほうが良い。為替は言われるほど円高ではないからだ。対ドルでみれば確かに1995年以来の円高水準だが、いま米国向け輸出は全体の2割もない。輸出の約6割がアジア向けで、こちらが今日の輸出回復に大きく寄与している。そこでは円高の影響は軽微で、需要が強いので、採算確保のために現地価格の引き上げも可能だ。
そこでドルだけでなく、ユーロや豪ドルなどを加重平均して、なおかつ内外のインフレ格差を調整した実質実効レートでみると、昨今の水準は02年当時と変わっていない。当時のドル円は130円前後で、現在はこの時の為替採算、競争力とほぼ同じだ。ドル円で130円相当の為替相場となれば、円高とは言えまい。この02年を境にドルが長期低落トレンドに向かうのだが、円も他通貨に対しては安くなっていて、全体平均としてはほぼ横ばいということだ。だから輸出全体でみれば採算は悪化してなく、輸出の回復が維持されているのだ。これが生産を押し上げ、GDPの拡大に寄与している。景気の腰を折るような円高ではない。
しかもドルは超低金利の長期化やドル離れを背景に、更に下落を続ける可能性がある。従って日本がドル買い介入をしても、この流れが変わらない可能性があり、そうなると政府が保有するドル資産が一層目減りし、結局国民の税負担が大きくなる。ドル買い介入は得策ではない。(千)
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「経済気象台」は、第一線で活躍している経済人、学者など社外筆者の執筆によるものです。