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時代を駆ける:富野由悠季/4 宮崎駿監督に近づきたい

 ◇YOSHIYUKI TOMINO

 <67年に虫プロダクションを退職してフリーになって以降、プロダクションの発注で、絵のコマとセリフを入れる「絵コンテ」を数多く手掛け、「コンテ千本切り」「さすらいのコンテマン」の異名をとった。そしてテレビアニメ「アルプスの少女ハイジ」(74年)や「母をたずねて三千里」(76年)の絵コンテを担当し、両作品の監督だった高畑勲さん(74)とアニメーターだった宮崎駿さん(68)に出会った。その仕事ぶりは衝撃だった>

=手塚耕一郎撮影
=手塚耕一郎撮影

 自分では多少演出ができると思っていたけど、フリーになってプロダクションを渡り歩いて仕事をしていると、「お前の絵コンテ、ひどいよね」と言われる意味もわかるようになりました。そこで高畑さん、宮崎さんに出会って、物語を次の世代に伝える仕事が持っているスリリングさを見いだせました。

 お二人は子ども向けに作る気がさらさらなかった。子ども相手なのに、かみ砕いたセリフが一切ない。セリフの構造が大人の小説と同じなんです。「ハイジ」の時、「これじゃ、子どもがつまらないですよ」と高畑さんに言うと、「いや、つまらなくない」と。実際、子どもたちが見てしまう。

 そして両作品とも、宮崎さんの描く動きにはアニメ的なオーバーアクションがなく、自然なのに「見せて」しまう。出来上がったものを見ても、そちらの方が面白い。「アニメだから」と子どもにこびた表現をすることがむしろタブーだと教えられました。お二人の仕事を見て、改めてアニメという仕事で、映画をやろうと考えた自分は間違っていないと思いました。

 <高畑さん、宮崎さんはアニメ会社「東映動画」(東京都練馬区)で長編映画を制作した経歴があった>

 前知識がないまま会っちゃって、キャリアを調べたら、「すごい」。実際、僕の書いた絵コンテが、テレビで見ると全部変わっている。才能のある人は絵コンテの部分的な直しはしません。「全直し」です。

 宮崎さんが初監督をした「未来少年コナン」(78年)でも絵コンテを頼まれましたが、全部直されてた。自分がものを考えていないことを思い知らされて、自分に腹が立ちました。

 「アトム」以後、俗なアニメをやってきたんですが、高畑さんの子どもに接する姿勢、宮崎さんの作品に合わせたキャラクターの動かし方をドッキングしてみて、「ガンダム」のようにロボットを扱う時も最低限SFにしなければならないという「基礎学力」を手に入れることができた。

 ある時期、ある瞬間、ご一緒に仕事をさせてもらったことで、アニメに絶望しないですみました。ありがたいことでした。アニメに一生懸けてもいいんだよ、ということを教えてくれた気がします。

 <81年、映画「機動戦士ガンダム」が公開され、ガンダム人気が出た。アニメ雑誌「アニメージュ」(徳間書店)が実施した読者の人気投票(アニメグランプリ)で、富野さんは演出家部門で3期連続トップに立つ。宮崎監督は同じ時期、3~5位だった>

 芸能というのはこんなものではあるのですが、正直困りました。「宮崎さんがいるのに、これ(富野さんがトップ)はダメだ」と思ってました。表彰式に出ても針のむしろです。「笑われてるよね」という気持ちしかなかった。宮崎さんだって面白くなかったと思います。

 <宮崎監督はその後「となりのトトロ」(88年)を発表。03年には「千と千尋の神隠し」(01年)で米アカデミー賞長編アニメ賞を受賞する>

 宮崎さんが監督した「ルパン三世 カリオストロの城」(79年)や「風の谷のナウシカ」(84年)は、もっといい形にできるはずだと感じていました。「トトロ」を見た時にようやく「宮崎さんの仕事はこれだ」と僕自身、落ち着きました。僕にとって、宮崎さんはオスカーを取ったからすごいんじゃない。その前からすごかったんです。

 ライバルじゃないんです。全面的に認めることのできる才能に接していればせめて近くに行けるようになりたいじゃないですか。そう思い続けないと、僕程度の人間は怠けますから。

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 聞き手・高野聡/「時代を駆ける」は月~水曜日掲載です。

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 ■人物略歴

 ◇とみの・よしゆき

 本名・富野喜幸。アニメーション監督、作家。神奈川県小田原市生まれ。日大芸術学部卒。代表作「機動戦士ガンダム」は放送開始から30周年。今年8月、ロカルノ国際映画祭で名誉豹賞を受賞。68歳。

毎日新聞 2009年11月10日 東京朝刊


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