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第10回東京フィルメックス 閉幕 映画祭の魅力、再認識

2009年12月4日

写真:最優秀作品賞と観客賞に選ばれた「息もできない」拡大最優秀作品賞と観客賞に選ばれた「息もできない」

写真:審査員特別賞の「ペルシャ猫を誰も知らない」拡大審査員特別賞の「ペルシャ猫を誰も知らない」

 第10回東京フィルメックスが先月29日閉幕した。「映画の未来へ」を合言葉に、世界の才能を紹介してきた映画祭。アート系映画の劇場公開が困難になるのとは対照的に、会場には例年以上に多数の観客が足を運んだ。

 新作のコンペティションと特別上映、日本と世界の回顧特集という従来の企画に加え、今年は韓国映画ショーケースも同時開催。初日には北野武、黒沢清、是枝裕和各監督らのシンポジウムも開くなど、節目の年らしい多彩な内容だった。

 コンペ部門は10本中3本がデビュー作。韓国の俳優ヤン・イクチュンが製作・脚本・編集・主演を兼ねた初監督作「息もできない」が最優秀作品賞と観客賞に輝いた。両賞のダブル受賞は初めて。来春の劇場公開も決まった。

 借金の取り立てで生計を立てる粗暴な男と、孤独な女子高校生の淡い恋を描く。男は父の暴力で母と妹を失った過去があり、少女は崩壊寸前の家庭を必死で支える。過激なバイオレンスは「悪い男」を、家庭内暴力が生む悲劇の連鎖は「ニル・バイ・マウス」を連想させるが、語り口は軽妙でユーモラスな人情味さえ漂わせる。懐の深い演出力は卓越していた。

 第2席の審査員特別賞はイランのバフマン・ゴバディ監督の「ペルシャ猫を誰も知らない」。デビュー作「酔っぱらった馬の時間」以来撮り続けたクルド人の物語を離れ、政府に禁じられているポップミュージックに打ち込むテヘランの若者群像を追った。

 国外公演の仲間を探すカップルを案内役に、テヘランの地下文化の諸相を描く。近所の通報を心配しながらの練習所探し。だが、そこに響く音楽は、ブルース、メタル、パンクにラップと実に多彩だ。日常の隅々に及ぶ抑圧とそれに抗する若者の批評精神を対比させ、この国の知られざる一面を鮮烈に伝えた。

 東アジアとイランや中東の作品を継続的に紹介してきたフィルメックスだが、その中間地域を埋める試みも10年でかなり進んだ。今回もマレーシアからミュージカル仕立ての風刺劇「セルアウト!」、スリランカからはシュールな映像詩「2つの世界の間で」が初参加。粗削りながら独創的な表現は刺激的だった。

 授賞式では、帰国したヤン監督のビデオレターを上映。当日撮った映像がメールで届くなど10年前は考えられなかった。オンラインで映画祭を開く日も近いかもしれない。

 だが、監督の「喜びのダンス」をネットで見るのと、他の観客と一緒に大笑いするのはまったく異質な体験のはず。例年以上に交流イベントが充実していた今回は、分かち合うことが映画祭の魅力であることを再認識させた。

■「祭りの後」の役割も議論

 アート系映画の公開が難しくなるなか、映画祭に何ができるか。東京フィルメックスのフォーラム「映画祭を考える」で、フィルメックスと東京国際映画祭、山形国際ドキュメンタリー映画祭のディレクターが顔をそろえ、「映画祭後」の役割を話し合った。

 シネコンの普及でスクリーン数は増えたが、公開規模の拡大や興行の短期化で、大きな動員が見込めないアート系の上映機会は減っている。専門の配給会社の経営難も今年になって深刻化した。

 討議では、映画祭が主体的に上映を支援する方策が話し合われた。山形はコンペの全作品をライブラリー化して貸し出し、05年創設の「コミュニティシネマ賞」の賞金3千ドルを国内配給支援に充てる。だが、劇映画が中心の東京国際やフィルメックスは、ビジネスを重視する海外セールス会社の意向もあり、映画祭以外での上映は難しいという。

 海外ではどうか。韓国の釜山国際映画祭プログラムディレクターのキム・ジソクは、「いい作品を上映するのが映画祭の役割という時代は終わった」と語る。韓国でもアート系の観客は減少の一途。「若い観客を育てるためにも、ケーブルテレビでの放映や配給支援などを真剣に考えている」という。

 カナダのトロント映画祭のジョバンナ・フルビィは「映画祭が観客とプロを引き合わせることが大切」と強調する。昨年の「スラムドッグ$ミリオネア」、今年の「プレシャス!」と、トロントの観客賞は米アカデミー賞の有力候補作を選んできた。「業者向け上映はないが、『観客の生の反応がわかる』とプロが集まるようになった。ふつうの人の反応はうそがない。そこから活路が開ける作品もあるはずだ」と話している。(深津純子)

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