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シューティング・スター
Shooting Star
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長距離射程機が抱えた苦悩
地球連合軍の中距離支援機シューティング・スターは、長い射程が特長であるDシリ-ズの祖となる機体である。後にAシリ-ズのアロ-・ヘッドに次ぐ生産機数を誇ったグレ-ス・ノ-ト(DHシリ-ズ)は、本機を起源としている。しかし、その傑作機を生む基礎となった本機誕生の道程は決して平坦なものではなかった。 今回はこのシューティング・スターの開発から実戦配備に至るまでの記録を紹介する。 |
1. 波動砲時代の幕開け
機体に積まれる波動砲の長射程化は、時代の流れから必然とも思われた。初めて実戦に投入された次元戦闘機R−9A(アロ-・ヘッド)に搭載された“波動砲"は、機体に戦艦並の火力を持たせることに成功し、めざましい戦果を挙げた。軍部は、この圧倒的な破壊力を持つ波動砲を“フォ-ス"と並ぶ対バイドミッションにおける中心兵器と位置付けた。 ちなみに波動砲の基本原理を簡単に説明すると、機首前方に力場を発生させ、その中に星間物質などからエネルギ-を収束・蓄積し、指向性を持たせながら一気に力場を解き、エネルギ-を開放する。それゆえAシリ-ズを始めとするほとんどの機種には、波動砲の発射口がない。 軍部は、長大な距離を隔てた形で戦端が開かれる宇宙空間での戦いにおいては、より長い射程を持つ波動砲が戦局を左右すると考え、開発を担当していたマクガイヤ-社に波動砲の長射程化を指示した。 こうしてDシリ-ズの開発が始まったのである。 |
2. 長射程化─テスト射撃で結果は出たものの
Dシリ-ズの試作機D-1は、軍部の要望に応え、テスト射撃において従来の波動砲にはない圧倒的な長射程を記録した。当時報道されたD-1の長距離射程波動砲発射テストの記録では、射程距離38万kmを達成したとある。これは地球から月までの距離に相当する。 しかし、この試作機D-1を元に生産され実戦に配備されたシュ-ティング・スタ-も、その後継機モ-ニング・スタ-も、戦場においてこの圧倒的な射程距離を誇示することはなかった。 |
3. 露呈した問題点、そして苦悩の日々が始まった
長い距離を隔てた空間からの狙撃を目的に、高い破壊力と射程距離を伸ばすことが求められたDシリ-ズは、その射程距離を確保するために波動砲の出力を上げる必要があった。出力アップによる機体への負担を軽減するために、従来の波動砲には必要なかった“砲身"が機体下部に取り付けられる。さらに機体にこもる熱を放出するために、機体上部には大きな強制冷却ダクトが、そして遠隔からの狙撃精度を上げるために、ディスクレド-ムも取り付けられることとなった。機体重量はAシリ-ズにくらべて60%近く増え、次元戦闘機が持つ優れた格闘戦能力は大きく失われた。 しかし、軍部はこの機体の使用用途を“遠隔からの狙撃"に限定していたため、機体の重量増加とそれによる機動力の低下についてはそれほど問題視されなかったようである。Dシリ-ズに内在する深刻で致命的な問題は、その存在価値をかけた長射程の威力を戦場で発揮することができなかったことである。 |
4. 運用の難しい機体
このような紆余曲折を経て、ついに試作機D−1は“Rwf-9Dシュ-ティング・スタ-”として実戦配備されることとなった。後方からの射撃で戦端を開き、前方に展開する戦闘機を支援するのがその役割である。幾つかの作戦では戦果をあげたとの報告もあったが、結果的にシュ-ティング・スタ-および後継機のモ-ニング・スタ-の両方であわせての生産機数は38機にとどまった。標準的な波動砲よりも長い射程を実現するために、エネルギ-のチャ-ジ時間が従来の波動砲よりも25%長くかかること。また、射程が長くなったと言っても通常の作戦距離からの射撃の域を越えてはおらず、敵からの攻撃に対する回避性能などもそれなりに必要となったが、重量が増えたシュ-ティング・スタ-は、敵との格闘戦では勝負にならなかったこと。護衛の機体をつけると運用コストが上がること。これらの理由から、現場の艦隊司令官に“使い勝手の悪い機体"とのレッテルを貼られ、敬遠されるようになったのが、生産台数が伸びなかった直接の原因とされている。 開発過程での使用用途の変更は、後々まで本機の性能の足かせになったと私は見ている。長距離精密射撃による一撃必殺兵器にこだわり研究を続けるか、もしくは開発の初期段階で中距離射程の支援機として開発されていれば、もう少し生産台数を延ばせるだけの活躍ができたのではないだろうか? しかしながら、Dシリ-ズが前述の通り、傑作機であるRwf-9DHグレ-ス・ノ-トを始めとするDHシリ-ズを生み出す基礎となったことは疑うことなき事実である。ただ、本機の設計・製造を行ない、長中距離射程波動砲の基礎を作ったマクガイヤ-社ではなく、別の会社によってグレ-ス・ノ-トが開発されたことに私はなんとも皮肉を感じずにはいられないのである。(ちなみに、長距離精密射撃による一撃必殺兵器としては、敵陣営であるグランゼ-ラ革命軍が、陸戦兵器キウイ・ベリィや長距離射撃機動兵器ヘクト-ルなどで実用化に成功している) 次回は、中距離射程の傑作機“グレ-ス・ノ-ト"について報告する。 |
戦場カメラマン兼兵器ジャーナリスト ジョー・K・ナイン
- 年齢:36歳
- 出身地:木星の衛星都市ゼ・ウースル
- ジュピターアカデミーでは戦争史を専攻。卒業後、従軍カメラマンを経て兵器ジャーナリストとなる。太陽系を放浪しながら、写真とペンの両方を駆使し、戦争の姿を捉え続けている。
「うまそうに見えても、食べてみるまで信じない」が信条。外から見ただけではものの良し悪しはわからないからだ、とは本人の弁。
著書に「実録太陽系戦争史」「写真でみるグランゼーラの軍事力」「フォースの製造過程に見る人類史」などがある。