火災があった個室ビデオ店。今も青いシートで覆われていた=2日午後、大阪市浪速区、南部泰博撮影
死刑判決を受け記者会見する、主任弁護人の岡本栄市弁護士(右)と杉平大充弁護士=2日午後、大阪市北区、南部泰博撮影
大阪・難波で客16人が死亡した昨年10月の個室ビデオ店火災で、大阪地裁(秋山敬〈ひろし〉裁判長)は2日、殺人と現住建造物等放火などの罪に問われた無職小川和弘被告(48)に対し、求刑通り死刑とする判決を言い渡した。店内の焼損状況や目撃証言から被告の放火行為や殺意を認定し、無罪主張を退けた。
起訴された放火事件では戦後最多の死傷者を出した事件。秋山裁判長は量刑理由で「衝動的に自殺を決意して放火し、16人を殺害した犯行は最大限の非難に値する。生命をもって罪を償うべき場合に該当する」と述べた。被告側は即日控訴した。
判決はまず、被告が放火したかどうかを検討。炎の流れをたどると被告がいた個室に行き着くとした大阪府警科学捜査研究所職員の証言や、被告が室内に持ち込んだキャリーバッグから火が出ていたとする客や店員の目撃証言から、火元は被告のいた個室と特定。店員に謝罪し、駆けつけた警察官に「死にたかったんですわ」と述べたとの証言も踏まえ、被告が人生に嫌気がさして自殺しようとティッシュペーパーをバッグに詰め込み、ライターで火を付けたと認定した。
焼損の最も激しかった別の部屋が火元とした弁護側主張は、そのドアが開いていたため炎が回っただけと退けた。
また、被告が火災前、個室が並ぶ狭い通路を歩き回っていたという店員の証言から、被告は店内が避難しにくい構造で、他の客が夜間で就寝している可能性も認識していたと指摘。「店内にいた客が死亡することを容認していた」と述べ、殺意を認めた。
さらに、被告が放火や殺意を認めた自白調書の信用性を検討。最初に自供の書面が作られたのは火災から約2時間半後の逮捕前の任意聴取であり、その段階で、被告が主張するような机をたたいて脅して認めさせる調べが行われるとは考えにくいとした。起訴直前に否認に転じたのは「厳しい刑罰から逃れたいと思って、心が揺れ動くことは理解できる」とし、自白の信用性に影響しないと判断した。
そのうえで、16人の尊い命が失われた▽無罪主張を続け、犯行に向き合う態度に欠けている――などと指摘。店の構造や設備に一因があったことを考慮しても「死刑をもって臨むしかない」と結論づけた。(平賀拓哉)