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地上デジタル放送FAQ

Q1. 本当に2011年にアナログ放送を止めることができるのか?

Q2. なぜ無条件に2011年に止めると法律で決めたのか?

Q3. 停波の延長はできるのか?

Q4. さらに国費投入があるのでは?

Q5. なぜ需要予測もはっきりしないまま、地デジを始めたのか?

Q6. 業界は反対しなかったのか?

Q7 マスメディア集中排除原則の緩和で、地方局の集約が進むのでは?

Q8 地方民放がつぶれないのはなぜ?

Q9 コピーワンスはどうなるのか?

Q10. なぜこういう大混乱になるまで、国民の声が反映されなかったのか?

Q11. 地デジはどうなる?

Q12. 地デジ救済策はないのか?

Q13. いま地デジ対応テレビを買うべきか?

Q14. 総務省の審議会では「5000円チューナー」を出せという話もあるが?

Q15. B-CASカードは、なぜ必要なのか?

Q16. なぜB-CASが義務づけられるようになったのか?

Q17. デジタル放送は「ハイビジョン」と互換性があるのか?

Q18. マークアップ言語に、HTMLではなくBMLを使っているのはなぜか?

Q19. 2011年まであと3年。どうすればいいのか?

Q20. ホワイトスペースって何?

Q1. 本当に2011年にアナログ放送を止めることができるのか?

2007年11月現在の地上デジタル対応テレビ(デジタルを見ているかどうかは不明)の普及台数は、総務省の公式発表で2400万台。全国には1億2000万〜3000万台のテレビがあるといわれているので、あと1億台ぐらいアナログが残っている。テレビの生産台数は、ずっと年間1000万台前後。そのうちアナログテレビがデジタルに置き換わるだけなので、かりにこれから売れるテレビがすべてデジタルになるとしても、あと4年で4000万台。つまり、もっとも楽観的に予測しても、2011年の段階で5000万台のアナログテレビが残る。これほど大量のテレビを政府が人為的に「粗大ゴミ」にする政策が許されるだろうか。

本当に停波したら、吉田望氏もいうように大量の「地デジ難民」が発生するだろう。しかも、この段階で残っている視聴者は年金生活者や独居老人などの「社会的弱者」で、テレビが災害情報などの唯一のライフラインになっている人が多いだろう。「デジタル・デバイド」の解消を政策に掲げている総務省が、弱者のテレビを強制的に見られなくしたら、社会的批判を浴びることは必至だ。また実際に停波したら、テレビの視聴者は半減するので、広告単価も大幅に引き下げられ、テレビ局の経営は悪化する。2009年に停波する予定のアメリカでは、テレビ局が停波に反対するロビー活動を行なっている。

特に参議院の第一党が民主党で、次の総選挙では民主党が政権を取る可能性が高いなかで、そうした「弱者切り捨て」は政治が許さないだろう。民主党は、地デジへの国費投入には、もともと批判的だったので、政権をとったら「停波は自民党政権のとき、国民に十分説明しないで決めたことだ」といって停波の延長を求めるのではないか。また視聴者から「放送中止は財産権の侵害だ」として集団訴訟が起こされる可能性もある。

Q2. なぜ無条件に2011年に止めると法律で決めたのか?

郵政省は、もとは「85%がデジタルに移行した段階で止める」といった案を考えていた。しかしアナアナ変換1800億円もの国費投入が必要になったため、2001年度予算で要求したところ、大蔵省に「民放の私有財産である中継局に税金を投入することは認められない」と拒否された。そこで郵政省は「デジタル(UHF帯)に完全移行したら、VHF帯のアナログ放送を止めて移動体通信などに使えるので、電波の有効利用という国民的な利益がある」という理屈をひねり出した。これに対して大蔵省が「そんな口約束では、いつ止めるかわからない。必ず止めるという担保を出せ」と求めたため、そのときの電波法改正から10年後という日付を法律に書き込む異例の措置をとった。

しかも、この1800億円の95%は、携帯利用者から集めた金だったので、ドコモの立川社長など携帯4社の社長が異例の共同記者会見を開いて「携帯電話の電波妨害対策などに使うということで徴収した電波利用料を、テレビ局の中継局に使うのは国家予算の不正流用だ」と抗議した。この結果、710〜70MHzを通信業者のためにあけるという「取引」が行なわれたのだ。「有効利用」するはずのVHF帯は使いにくく、希望者がないため、半分以上は地域防災無線などに使うことになった。むしろ地上波テレビに一番むいている(アメリカではVHF帯で地デジをやる)。

要するに、2011年7月24日というデッドラインには技術的な必然性はなく、省庁間の取引のテクニックとして出てきた国民不在の措置なのだ。テレビのように全国に100%近く普及したサービスを、数千万人の利用者が残ったまま、国が一方的に打ち切るというのは、世界にも例がない。カラー化のときは、カラー放送を始めてから10年で70%以上に普及したが、白黒放送をやめるまでに25年もかけた。最後は数万人しか残っていないという状況になって初めて打ち切ったのだ。

Q3. 停波の延長はできるのか?

総務省も、すでにNHKや民放連と話し合っている。2008年に次の免許更新があるので、そのとき一定の見通しが出るだろう。さしあたり1回(5年)延期して様子をみるといった政策がとられるのではないか。カラー化のときのように、停波にコンセンサスが得られるまで延長するとなれば、半永久的にサイマル放送(アナログ・デジタル同時放送)を続けるという最悪の事態も考えられる。電機メーカーも「あと10年ぐらいはサイマルが続くだろう」(大手メーカー社長)という前提で生産計画を立てている。

しかし延長するには、電波法の改正が必要だ。2011年に停波することがアナアナ変換への国費投入の条件だったので、「金をもらうときは、できもしない法律をつくって、あとから約束を破って改正するのは法律の悪用だ」と総務省が国会で追及されるのは必至だろう。

Q4.さらに国費投入があるのでは?

1800億円のほかに、すでに「研究開発」や「難視聴対策」などと称して100億円以上の国費が支出されている。もともとアナアナ変換への国費支出も「電波の有効利用」というのはこじつけで、実際の目的は地方民放の救済である。その証拠に、在京キー局には(経営に余裕があるという理由で)国費は支出されていない。 生活保護世帯には国費でチューナーを支給するといった案もあるようだが、放送を見るにはアンテナなど1世帯あたり3万円以上かかる。生活保護を受けているのは100万世帯程度なので、これだけでも300億円かかるが、残りはどうするのか。また、そういう案が表に出ると買い控えが起こるので、今のところ政府は「無条件に止める」という公式見解を変えていない。

Q5.なぜ需要予測もはっきりしないまま、地デジを始めたのか?

A. もともと日本は、NHKの開発したハイビジョン(MUSE)で試験放送していたが、アメリカが1993年にMUSEを排除し、デジタル化することを決めたため、1994年にハイビジョンをやめてMPEG-2というデジタル圧縮に切り替えた。これはデジタル技術の進歩によって、デジタル圧縮の効率がハイビジョンを上回ったためだ。しかもアメリカが1998年にデジタル放送を始めたことから、「家電王国の日本がデジタルで遅れをとるわけには行かない」という郵政省の面子で始めた。

私は当時、NHKでハイビジョンの開発番組をつくっていたが、「解像度だけではNTSCを代替できない」という点で、現場の意見は一致していた。ブラインドテストをやっても、テレビの画質の違いは、ほとんどの人がわからないからだ。しかも画質でいちばん違いがわかるのはコントラスト、次が色温度で、解像度は最下位。平均的な画面(当時20インチ程度)では、数%の人しかわからなかった。

ところが郵政省は、テレビを知らない御用学者だけを集めた審議会で、アメリカに追随するという結論を出してしまった。需要予測はまったくやっておらず、消費者はカラー化のときのようにHDTVに飛びつくと考えていた。家電産業の優位を守るという産業政策の側面が強く、省内でも「通信衛星なら200億円でできるデジタル化を1兆円もかけてやるのは非効率で、ビジネスとしても行き詰まる」という有力な反対論があったが、政治の力に押し切られた。

Q6. 業界は反対しなかったのか?

NHKはHDTV化を進めたかったので反対しなかったが、民放連は最初は反対した。だが郵政省が「国の助成金を、郵政省で何とかとるように考えます」と損失補填を約束したのでOKした、と氏家元民放連会長が証言している。つまり最初から政府による赤字補填を当てにして、「国策」の名のもとに電波の独占を続けようとして始めたわけだ。

しかし氏家氏がくりかえし明言しているように、「地デジは、事業としては成り立たない」。デジタル化のコストは中継局だけで(NHK・民放あわせて)1兆円以上かかるのに、デジタル化したからといって広告料金は増えない(サイマル放送では広告単価は1本分)。コストが1兆円で利益がゼロというプロジェクトには、銀行も融資しない。したがって自己資金で設備投資できるキー局以外の地方局は、資金繰りに困っている。

Q7.マスメディア集中排除原則の緩和で、地方局の集約が進むのでは?

総務省はそれを期待して、2008年の国会に改正案を出したが、ほとんど意味がないだろう。地方民放は、どんなに赤字になっても、キー局が電波料で補填してくれるから、つぶれる心配がない。だから50年以上、地上波局は(詐欺にあった近畿放送を除いて)倒産も合併も1社もないのだ。銀行より遅れた最後の護送船団と呼ばれる所以である。

特に、もともと地方民放は田中角栄が各県の田中派議員につくらせたため、政治家が事実上のオーナーなので、キー局のいうことを聞かない(このへんの歴史的経緯については『電波利権』参照)。政治家にとっては、県域放送だから自分のお国入りをニュースで取り上げさせたりして私物化できるので、キー局の傘下に入るぐらいなら、総務省を脅して補助金の「お代わり」を取ろうと考えている。

Q8.地方民放がつぶれないのはなぜ?

日本の地方民放は「キー局から商品(番組)を提供してもらって、金(電波料)までもらえる」という世界一楽な商売だ。その電波料の実態も不明だが、「あるある大事典」の事件で明るみに出たのは、スポンサーの払った広告料1億円の半分以上が地方民放への補助金=電波料に食われ、実際に取材した孫請けの制作プロダクションには860万円しか渡っていなかったという恐るべき搾取の実態だった。

Q9.コピーワンスはどうなるのか?

ハードディスクから9回コピー+1回ムーブができる「ダビング10」という規格が決まったようだが、今のコピーワンスでもメーカーが違うとコピーできないなど互換性に問題があるのに、さらに新しい規格が出てきて、混乱が増すだけではないか。しかも新しいテレビがダビング10対応になっても、古いテレビではコピーワンスしかできないし、コピーできなくなるおそれもある。孫コピーできないことは同じなので、複雑な編集などは不可能だ。

私的複製は著作権法で認められている権利なのに、放送局がそれを公然と制限するケースは、世界に類を見ない。アメリカでは、コンテンツにフラグ(識別信号)をつけるbroadcast flagをFCCが提案したが、裁判に敗訴してコピーフリーになった。日本でも電機メーカーは、コピーは自由にする代わり、コンテンツを暗号化してインターネット配信などはできないようにするEPNという方式を提案している。複雑怪奇なコピーワンスが、DVDレコーダーの売り上げが落ちる原因になっているからだ。

Q10.なぜこういう大混乱になるまで、国民の声が反映されなかったのか?

地デジの方式は、形式的にはARIB(電波産業会)という社団法人で決まっているので、規格について総務省がパブリックコメントを募集する必要がない。ARIBにも国民に説明する義務はないので、密室でテレビ局とメーカーの談合で規格が決まってしまう。ARIBの幹部はみんな総務省からの天下りなので、実質的には政府が決めているのだが、「民間の問題」だとして説明責任をまぬがれる巧妙なしくみだ。しかも、それを監視すべきメディアも、テレビ局はもちろん、系列の新聞社も問題を報じないので、具体的な問題が表面化するまで、だれも気づかなかったわけだ。

Q11. 地デジはどうなる?

世界中で、実際にアナログ放送を止めたのはフィンランドだけで、アメリカも韓国も延期を強いられている。イギリスでも、地デジの普及率は半分ぐらいで頭打ちで、地域的に電波を止める実験を開始した程度だ。したがって日本でも、少なくとも2014年まではアナログ放送は続けざるをえないだろう。またイギリスと同じように、地上波の普及率も頭打ちになる可能性がある。これまでテレビは放送局の独占だったが、ブロードバンドという競争相手が出てきたからだ。

特にNTTは、地デジの再送信をNGN(次世代ネットワーク)の目玉と位置づけており、光ファイバーが2000万世帯以上に普及すれば、地デジの普及率は長期的には下がってゆくだろう。特に日本の方式(ISDB)は、他に採用する予定はブラジルしかない日本ローカル規格だから、これにこだわっていると、携帯電話のように「パラダイス鎖国」状態になって、家電業界が自滅するおそれもある。長期的にみると、地デジは2010年代なかばにピークアウトし、ブロードバンドに切り替わって衰退すると予想される。2020年ごろには、アナログよりもデジタルの停波をしなければいけなくなるのではないか。

Q12. 地デジ救済策はないのか?

理想的なのは、MPEG-2をやめて、ワンセグに使われているH.264という圧縮方式に切り替えることだ。これならVHF帯のガードバンドで1チャンネルあたりHDTVが3チャンネルとれるので、すべてのデジタル局をVHFに収容できる。アンテナも、今のままで受信できる。UHF帯を中途半端に占拠しているデジタル局を逆に全部VHFに戻してUHF帯を空ければ、300MHzという現在の携帯電話の全帯域を上回る電波が自由に利用できる。もちろん移行コストはかかるが、300MHzというのは、周波数オークションにかければ10兆円以上の価値があるので、デジタル化をキャンセルする費用を1兆円としても、政府が空いた電波の一部をオークションにかけるだけで回収できる。

この空いたUHF帯をWiMAXLTEなどの次世代ブロードバンド無線に使えば、100Mbps以上の光ファイバー並みの高速通信がモバイルで可能になる。またこれだけの帯域があれば多くの新企業が参入できるから、アメリカでもUHF帯への参入を計画しているインテル、マイクロソフト、グーグルなどが日本でもサービスできるだろう。こうした競争によって、無線通信も有線のインターネットのように格安の定額料金になり、さらには(グーグルのねらっているように)無料になることも期待できる。そうすれば、日本は無線ブロードバンドでも世界の最先進国になれるだろう。

Q13. いま地デジ対応テレビを買うべきか?

あわてる必要はない。2011年にアナログ放送が止まる可能性はまずないので、今アナログテレビで問題なければ、それを使い続けるのが賢明だ。買い換えるなら、むしろ今のうちにアナログテレビを買っておかないと、まもなくほとんど店頭から消えるだろう。地デジ対応のテレビを買っても、UHFアンテナを立てなければならず、立てても(放送エリアが狭くなるので)受信できるかどうかわからない。むしろ通信衛星かケーブルテレビで見るほうが確実だ。

BBTVなどのIP放送で見ることも技術的には可能だが、今のところ民放がIP再送信を拒んでいるので、まだ地上波が見えない。これは「IP放送は放送ではない」という(これも世界に例のない)珍妙な理屈で、テレビ局がIP放送を妨害しているためだ。また「ダビング10」でコピー方式が決着するとも思えないので、結論としては、まだ地デジ対応のテレビは買わないほうがいいだろう。

Q14. 総務省の審議会では「5000円チューナー」を出せという話もあるが?

メーカーは、「デジタル・チューナーはB-CASカードスロットなどが必要なので、1万円以下では無理だ」と言っている。それにチューナーだけ買っても、デジタル放送は映らない。UHFアンテナの工事費が、3万円以上かかる。集合住宅だと、共聴アンテナやブースターが必要になるが、管理組合の合意が必要だ。

それでもビル陰などで映らない場合には、ビルの屋上に共聴アンテナを立てて、地域で共同受信する必要があるが、その費用はすべて自己負担になる。ビルを建てるときには難視聴対策はそのビルがやったが、今度はビルのあるところに電波の向きが変わるからだ。この難視聴対策のコストは、全国では兆単位になるともいわれる。

また新東京タワーに変わったら、新たに難視聴区域が出てくるが、幸か不幸か新東京タワーはできないだろう。難視聴対策の中継局のコストがタワーよりはるかに高くなるからだ。東京タワーを経営する日本電波塔は、デジタル用アンテナを現在のタワーの上に100メートル延長し、その工費65億円も負担するという案をテレビ局に打診しており、テレビ局側も検討中だ。

それに、アナログテレビにデジタルチューナーをつけても、デジタル映像をアナログに変換して横長で見るだけで、意味がない。「地デジ対応」のテレビを買った人が、家でスイッチを入れたらすぐ見える場合には、それはアナログ放送を見ているのだ。もっとも、30インチ以下のテレビでは、ほとんどの人には解像度の違いはわからないので、気にしなければそれでもいい。HDTVって、その程度のものなのだ。

Q15. B-CASカードは、なぜ必要なのか?

CAS(Conditional Access Sytem)は、有料放送には必要なシステムだが、B-CASは無料放送である地上波の民放や、「有料放送ではない」と主張するNHKの放送にも必須になっている。これは当初からの方針ではなく、2004年4月から突然かつ一方的に、すべてのデジタル放送にカードが必須になった。NHKなどは、これを使って有料放送すべきだとの有力な意見(規制改革会議など)があるにもかかわらず、地上波では不払い者に対して視聴を妨害する「お知らせメッセージ」を出していない。

コピーワンスは、B-CASと一緒に運用されているが、本来はCASとは別のシステムである。これもコピーを9回、ムーブを1回だけ許す「ダビング10」に緩和することが検討されているが、権利者団体が反対し、実現の見通しが立たない。そもそも個人が私的に複製することは著作権法で認められた権利であり、これを私的な団体が制限するものだ。

法的根拠なしにすべての視聴者に特定の民間企業(BSコンディショナルアクセスシステムズ)による「審査」を義務づけ、その個人情報を収集することについては、政府と一部企業の談合による電波の私物化だとの批判も強く、独占禁止法違反の疑いがある。B-CAS社は、初期には所在地も明らかにされないなど経営実態が不透明で、歴代社長はNHKの記者OBの天下り先となっている。

またB-CASカードはPCで地デジを受信する際にも必要なので、コンピュータ・メーカーやボード・メーカーがB-CAS社に1台ずつ審査費用を払い、B-CASのカードスロットをつけないと、デジタル放送を受信できない。このように特殊な「日の丸規格」で放送機材を囲い込むことについても、外資系メーカーが「参入障壁だ」と批判している。くわしくは、ウィキペディア参照。

Q16. なぜB-CASが義務づけられるようになったのか?

BSデジタルは当初、有料放送で行なうことが計画されていたため、NTTに技術委託してCASシステムをつくり、100億円かけて全国の顧客情報を制御するセンターをつくった。しかし途中からBSデジタルが無料放送に変更されたためCASは不要になり、この設備投資は回収できなくなってしまった。だがBSデジタルの立ち上がりが予想以上に悪く、各社とも数百億円の赤字が出たため、B-CASカードを義務づけて審査料を電機メーカーから徴収することにしたのである。

しかし、このように機能的に意味のないカードの内蔵を義務づけることに対しては電機メーカーから批判が強く、特に個人情報保護法の成立にともなって、意味もなく全国の顧客の個人情報を集中管理することに対する疑問が強まった。そこで「BSデジタルの番組を違法に録画したビデオがネットオークションで出回っている」と称して、コピー制御をかけることが決まったのである。

こうした意思決定はすべてARIBでの業者による密室の談合で行われ、審議会などにもかけられず、パブリックコメントも募集せず、法律にもなっていない。したがってB-CASもコピーワンスもまったく私的な規格であり、その弱点を利用してコピーワンスを解除する機材についても、取り締まる法的根拠はない。

Q17. デジタル放送は「ハイビジョン」と互換性があるのか?

今年9月まで、NHKがハイビジョン放送をBSでやっていたが、この受像機で地デジの「デジタルハイビジョン」を見ることはできない。ハイビジョンはMUSEというアナログ圧縮方式だが、地デジはMPEG-2というデジタル圧縮方式だからである。互換性のない方式に「デジタルハイビジョン」というまぎらわしい名前をつけたのは、1960年代から行なわれていたNHKのハイビジョン開発(数百億円の国費も投じられた)が無に帰したという事実を糊塗するためだ。

ただ画面の方式(1080i)は、ハイビジョンでNHKが提案した1125本で16×9と実質的に同じものをアメリカが採用した。これはPCとの互換性を重視してプログレッシブ方式(720p)を推進したコンピュータ業界に対して、PCのモニタで見るのが困難なインターレース方式をテレビ局が推したためだ。単に走査線を増やすことは技術革新ではないし、「画面表示はハイビジョンが世界標準になった」というのも嘘である。世界のデジタル放送の大部分は欧州方式のDVBであり、これはSDTVなので普通の受像機で見られ、IP送信もできる。

Q18. マークアップ言語に、HTMLではなくBMLを使っているのはなぜか?

BSデジタルのデータ放送の言語として、NHKと電機メーカーは最初はMHEG-5というアナログのデータ放送と同じ規格を使う計画で、そのLSIまでできていたが、土壇場で郵政省の放送行政局長が「インターネット時代なんだからネット規格を使え」と命じた。業界は抵抗したが、最終的にHTMLではなくXMLベースでHTMLと互換性のない言語を新たにつくることにした。その最大の理由は、HTMLにするとマイクロソフトのWebTVの規格(ATVEF)に市場を乗っ取られることを電機メーカーが恐れたためだった。

これが決まったのは1999年の初めで、その年の秋にはLSIをサンプル出荷しなければならないという信じられないスケジュールだったが、松下電器が人海戦術と残業の嵐で、MHEG-5をそのままXMLに移植したBMLをつくった。しかし当然のことながらバグだらけで、オーサリングツールがオフコン(!)に内蔵されて2台1組で300万円もした。しかもマニュアルもないため、1000ページ近い仕様書を読まないとコーディングできなかった。その仕様も、物理層からアプリケーション層までをごちゃごちゃに規定する混乱したものだったので、今でもBMLのコーディングが完全にできるプログラマーは全国で100人ぐらいしかいないといわれる。

BMLを使って行なわれたデータ放送「イーピー」は、ユーザーが数万人にとどまってサービスを終了し、BSデジタル放送も大赤字となったため、最近では電機業界もBMLのほかにHTMLもサポートする「アクトビラ」に軌道修正した。しかし地デジの公式規格は依然としてBMLなので、PCに内蔵する作業もこれが障壁となって進まない。マイクロソフトは妥協して、B-CASとBMLを内蔵したウィンドウズVistaを開発する方針だが、B-CAS社がそれを認可するかどうかはわからない。

Q19. 2011年まであと3年。どうすればいいのか?

このFAQを読めばわかるように、地デジがここまで混乱した原因は、国会などで国民に説明をしないまま、テレビ局の既得権を守るために政治家が動き、官僚がそれに従ってテレビ局との密室の取引ですべてを決め、しかもそれを監視すべき新聞も事実を報道しなかった・・・といった複雑なボタンの掛け違えが重なっているので、簡単な解決策はない。

しかし2011年のデッドラインを延長すると、際限なくこの問題が先送りされ、さらに多大な社会的コストが生じるおそれが強い。したがって、とにかく2011年7月までにアナログ放送を止めるための政策を考える必要がある。これは5000万台以上のテレビを対象とする大プロジェクトであり、3年でも時間が足りないだろう。今年の夏の概算要求で予算を計上しないと間に合わない。

基本的には、FCCがやっているように、デジタル放送をアナログテレビで見られるようにするための「デジタルチューナー」あるいはそれを買うクーポンを配布するしかない。しかし、そのコストは鬼木甫氏のように控えめに見積もっても、3000億円。この財源をどこから出すかが大問題である。

鬼木氏は、アナログ放送の立ち退く「跡地」の電波利用料を増額するという解決策を提案している。私の提案は、UHF帯に新たに生じるホワイトスペースに新規参入する業者に負担を求めるというものだ。他にも、いろいろな考え方がありうるが、基本的に電波があくことによる受益者が負担するのであれば、それほど大きな問題はないだろう。大事なのは、今度こそ国会の場で国民の合意を得て進めることだ。そのためには、今年(2008年)から議論を始めても早くない。

Q20. ホワイトスペースって何?

電波は「稀少」ではない。アメリカでは、30MHz〜3GHzの帯域の95%が、割り当てられながら使われていない。日本でも、電波が日本一混んでいる渋谷でさえ90%が空いていた。このように非効率な電波利用が起こる原因を具体的にみてみよう。

茨城県は、もともと東京タワーの電波を受信していたので、NHKは総合(G)・教育(E)の2チャンネルしかなかったが、デジタル化の際、茨城出身の海老沢元NHK会長の強い要請で、新たにローカルのチャンネルが割り当てられた。他の民放(N=NTV、T=TBS、F=フジ、A=テレ朝、V=テレ東)も含めて、現在の地デジ中継局を表にすると次のようになる(1W以下の小電力局は略):

Ch水戸高萩筑波日立鹿島山方大宮男体北茨城竜神平
13EE
14NN
15TT
16GG
17AA
18VV
19FF
20GGGGG
21FFFF
22TTTT
23VVVV
24AAAA
25N
26EEEE
27
28
29
30
31G
32
33
34NN
35F
36
37
38N
39EE
40E
41TN
42G
43
44A
45
46V
47G
48
49G
50
51
52

表の空白の部分が、放送局に割り当てられながら使われていないホワイトスペースである。携帯電話業者が見たら目まいのするような超低利用率で、全40チャンネル(13〜52)×10エリアの1割も使われていない。このように(独立系U局を含めても)全国で40チャンネルのうち、たかだか10チャンネルしか使っていないのだから、テレビの電波は任意の地点で30チャンネル以上(ほぼ200MHz)空いているのである。

これは非常に大きな帯域で、今のすべての携帯電話業者がほとんどすっぽり収容でき、オークションにかければ2兆円以上の価値がある。このホワイトスペースをWiMAXなどの無線ブロードバンドに使うことも可能だし、4GHz帯で実験の始まっている4Gも、UHF帯を使ったほうがはるかに効率が高い。

ただ日本は中継局の密度が高いので、ホワイトスペースを携帯端末に使う場合は、たとえば水戸で空いている35チャンネルが高萩ではフジに使われているため、周波数を切り替える必要がある。これはcognitive radioで周波数を検知して切り替えてもよいし、チャンネルプランをデータベース化してGPSで携帯端末の位置と照合して切り替えるgeolocationという技術もある。

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