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社説

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普天間越年―鳩山首相は自ら道筋を

 日米の合意は重い。基地負担を軽減してもらいたいという沖縄県民の思いにも応えたい。米海兵隊の普天間飛行場の移設をめぐって、この二律背反に苦悩していた鳩山政権にもうひとつ、重荷が加わった。

 連立パートナーの社民党が、辺野古移設なら連立離脱も辞さずという方針を固めたことだ。政府は態度を決めあぐね、年内を目指していた問題の決着を先送りする見通しになった。

 米政府が求めている辺野古への移設を受け入れるのか。自民党政権時代の合意であるこの案を見直し、辺野古以外を探るのか。とても難しい選択だ。

 鳩山由紀夫首相は、辺野古以外の候補地も検討するよう岡田克也外相らに指示したが、いずれにしても政治的に大きなコストを伴う判断になる。

 だが、方向感を示さないまま判断をただ先送りすれば、ぐずぐずと決断できない政権という、不名誉な印象が国内外に広まっていく。国民や沖縄県民もそうだろう。そして米国政府は失望し、不信を募らせるに違いない。

 首相はなぜ結論を先送りするのか、もつれる諸条件の何を優先してこうなっているのかを、国民にも米政府にもはっきりと説明すべきだ。

 首相は「年内じゃなければだめだと申し上げたことはありません」と語った。だが、問題は検討に時間をかければ、いずれどこかに落ち着くというほど簡単ではない。

 来日したオバマ米大統領は鳩山政権の苦衷に理解を示し、作業部会で検討を続けることを受け入れた。以後、岡田外相や北沢俊美防衛相は精力的に調整を進めてきた。年内決着を目指しての動きだったのはもちろんだ。

 結論が日米合意の継承なのか、見直しの提起なのかはともかく、それが早期の打開を目指すとしてきた新政権としての当然の態度である。

 ここに来て流れが変わったのは、社民党が辺野古案への反対を明確にしたことだ。首相は「重く受け止める」と語り、連立への配慮が判断の背景にあることを認めた。

 政府内では、辺野古移設を土台にした修正案で打開を探る動きがあった。だが、社民党を連立に引き留めるためには封印しようということだろうか。

 参院での過半数確保を優先した判断だとすれば、普天間問題は事実上、来夏の参院選まで動かないことになる。

 首相が辺野古以外の選択肢を追求する意思があるなら、それも重い判断である。政権が交代した時にそうした見直しを米国に求めるのは、欧州の同盟国でもあることだ。

 ただ、国内調整にも対米交渉にも時間がかかる。必要なのは、その方が日米同盟の長期的な安定に役立つという説得力のある説明だ。内政上の理由でただ先送りでは、失うものは大きい。

イラン核疑惑―外交決着に進路を戻せ

 これでは世界の不信感をさらに増幅させるばかりだ。

 核開発疑惑のあるイランが、新たに10カ所のウラン濃縮施設を建設すると発表した。うち5カ所は2カ月以内に建設を開始する方針だ。

 国連安全保障理事会は、すでに稼働中の濃縮施設には軍事転用の疑いがあるとして、作業停止を求める決議を採択し、制裁を科している。そんな中で9月には、第2の濃縮施設建設が進んでいることが明らかになった。

 今回の決定は核拡散防止で結束を強めようとする国際社会に冷水を浴びせるもので、とても容認できない。

 イランの動きはあまりにブレが大きい。10月初め、安保理常任理事国にドイツを加えた6カ国との協議があった。そこでイランは、手元にある低濃縮ウランを国外に搬出し核燃料に加工して受け取る構想に大筋合意した。ところがその後、態度を硬化させた。

 これを受けて、国際原子力機関(IAEA)が11月末、イランに対して第2の濃縮施設の建設中止やウラン濃縮の停止を求める決議を採択した。イランは「不当な圧力」と反発し、いきなり濃縮施設増設の計画を発表した。

 アフマディネジャド大統領が一時、妥協策に傾いた背景には、第2の施設の発覚で、それまでイラン寄りだったロシアまでが追加制裁を否定しない姿勢に変わったことがある。

 だがイランでは、核開発のような安全保障にかかわる問題は、宗教者統治体制の頂点にたつ指導者が最終的な判断を下す。大統領の権限には大きな制約がある。宗教指導者との間で政治が揺れ動き、外交交渉がほごになるようでは、世界の信用を失う一方だ。

 このままだと改めて安保理の議題となり、追加制裁論も強まるだろう。国際社会が核不拡散体制の強化への固い決意を示すのは当然のことだ。

 国連制裁でイラン企業は打撃を受け、国民生活も圧迫している。イランは孤立を深めるだけの対決姿勢を改め、外交決着の道に戻るべきである。

 来年5月には核不拡散条約(NPT)再検討会議が開かれる。それまでに何とかイラン、北朝鮮の両方で核問題の交渉を前進させる必要がある。

 米国と北朝鮮の対話が近々動き出す。イラン問題で安保理内の足並みをそろえることで、北朝鮮との折衝の足場も強化できる。NPTの信頼をこれ以上損なわないために、核不拡散で連携していくことが不可欠だ。

 日本は米国よりも対イラン外交の蓄積がある。現在、安保理の一員でもある。今月からは天野之弥氏がIAEA事務局長を務めている。

 イランが原子力利用を進めるには、安保理決議を尊重し、IAEAによる査察を徹底するしかないことを日本が率先して説得していかねばならない。

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