アメリカの失業率上昇への対策としてポズナーは、最低賃金の引き下げを提案している。連邦最低賃金は、この2年間に時給5.15ドルから7.25ドルに40%も上がったからだ。ベッカーもこれに賛成しているが、民主党政権ではむずかしいので、減税を提案している。
名目賃金の下方硬直性が失業の原因だということは、ケインズも『一般理論』で指摘している。ところが彼は同じ本の他の部分では、賃金を引き下げると所得が減って「有効需要」が減り、景気はかえって悪くなるので財政によって有効需要を創出するしかないと主張し、これがその後もマクロ経済学で教えられてきた。
しかしケインズの下方硬直性についての指摘が正しいとすれば、賃金を下げれば雇用が増える価格効果があり、その調整速度は財政政策の効果より速いはずだ。最近のマクロ理論(DSGE)では、このような価格調整を理論化し、失業の原因は賃金や価格の硬直性で、それを補正するために金融政策が有効だと考える。実証研究でも、ケインズ的な財政政策の効果は疑わしく、価格調整のほうが有効だという結論が出ている。
賃金の下方硬直性は、実は長期的にも重要なインプリケーションをもつ。90年代以降、世界的にデフレ傾向(disinflation)が続いている一つの原因は、冷戦後の新興国の世界市場への参入によって、グローバルな最低賃金が引き下げられ、物価にも下方への圧力がかかっていることだ。これに対応する方法は、次の4つしかない:
ところが日本企業はいずれの対策も怠って、既存の労働者の(世界的にみれば割高の)賃金と雇用を守り、若年労働者を犠牲にしてきた。政府も雇用調整助成金のような温情主義によって、賃金の下方硬直性を補強してきた。今回の不況で日本経済の落ち込みがもっとも大きく回復が遅い一つの原因も、労働市場の価格メカニズムが機能していないためである。
要するに長期的には、雇用(労働需要)を増やす方法は、その価格(賃金)を労働生産性に見合う水準まで下げるしかないのだ。もちろんそれには労働組合が反対するので、実際には迂遠な方法でやらざるをえない。それが「グローバル化」であり「サービス化」である。政府は「2.7兆円を超える2次補正」を決めたが、以上から考えると、これは財政赤字を増やすだけで雇用を増やす効果はほとんどない。どうやら鳩山内閣もそう長くなさそうだから、次の首相はもっと合理的な経済政策をとってほしいものだ。
名目賃金の下方硬直性が失業の原因だということは、ケインズも『一般理論』で指摘している。ところが彼は同じ本の他の部分では、賃金を引き下げると所得が減って「有効需要」が減り、景気はかえって悪くなるので財政によって有効需要を創出するしかないと主張し、これがその後もマクロ経済学で教えられてきた。
しかしケインズの下方硬直性についての指摘が正しいとすれば、賃金を下げれば雇用が増える価格効果があり、その調整速度は財政政策の効果より速いはずだ。最近のマクロ理論(DSGE)では、このような価格調整を理論化し、失業の原因は賃金や価格の硬直性で、それを補正するために金融政策が有効だと考える。実証研究でも、ケインズ的な財政政策の効果は疑わしく、価格調整のほうが有効だという結論が出ている。
賃金の下方硬直性は、実は長期的にも重要なインプリケーションをもつ。90年代以降、世界的にデフレ傾向(disinflation)が続いている一つの原因は、冷戦後の新興国の世界市場への参入によって、グローバルな最低賃金が引き下げられ、物価にも下方への圧力がかかっていることだ。これに対応する方法は、次の4つしかない:
- 先進国の賃金を競争的な水準まで下げる
- 雇用を新興国に移転する
- 新興国と競合しないサービス業に雇用を移転する
- 労働生産性を上げて賃金コストを下げる
ところが日本企業はいずれの対策も怠って、既存の労働者の(世界的にみれば割高の)賃金と雇用を守り、若年労働者を犠牲にしてきた。政府も雇用調整助成金のような温情主義によって、賃金の下方硬直性を補強してきた。今回の不況で日本経済の落ち込みがもっとも大きく回復が遅い一つの原因も、労働市場の価格メカニズムが機能していないためである。
要するに長期的には、雇用(労働需要)を増やす方法は、その価格(賃金)を労働生産性に見合う水準まで下げるしかないのだ。もちろんそれには労働組合が反対するので、実際には迂遠な方法でやらざるをえない。それが「グローバル化」であり「サービス化」である。政府は「2.7兆円を超える2次補正」を決めたが、以上から考えると、これは財政赤字を増やすだけで雇用を増やす効果はほとんどない。どうやら鳩山内閣もそう長くなさそうだから、次の首相はもっと合理的な経済政策をとってほしいものだ。
コメント一覧
たった1年で5100万の雇用を生み出すアメリカの雇用流動性(http://yokichi.com/2009/11/post-239.html)
5100万は、日本の人口で換算すれば、約2000万人ぐらいの人が転職したことになるそうです。
私は残業代を倍にすればいいと思います。
それでもダメなら、労働基準時間を短縮する。
こうしていけば、ワークシェアリングになると思います。
仕事がない=金が稼げない。
これは飯が食えない訳で、死ねって話です。
労働時間短縮のワークシェアリングこそ、最優先課題ではないでしょうか?
今週のダイヤモンドも特集で取り上げていますが、
労働組合の腐敗の問題も極めて大きいとおもいます。このままではJALや日本郵政だけでなく、かれらの存在のために日本全体が潰されてしまう気がします。http://diamond.jp/series/newdw/09_12_05/
また普通に民間でビジネスをやっている人間なら雇用や経済の問題は新興国(特に中国)との競争の問題だと体感できるのですが、いまの民主党政権からはその種の危機感を感じません。「友愛」など今の日本が一番キーワードにしてはいけない言葉だと思うのです。
それがリフレ派の考えでは?大量に札を刷って円資産の価値を下げ、労働賃金を先進国と同程度にする。組合が強いところならいざ知らず、組合に非加入の労働者がこれほど増えてる現状なら石油ショックのときのように一緒に給与もつれ上げするケースは少ない。僕はあんまり貯金がないので現金資産を持つ人がバカをみる政策は大歓迎ですけどねwwwが、円資産の高さが海外での運用力の高さにつながってる企業も多い。(ユニクロとか)池田先生は「ベルトコンベアで流れてくる仕事は中国人にやらせて、日本人はもってる資産の高さを生かしてもっとレベルの高い仕事をしろ」派だと思ってたんですが、違うんですかね?
私も自身のブログでよく「生産性を上げるべき」「ホワイトカラーの生産性が低いことはもっと問題になってもよい」なんて言っているんですが、「じゃあどの程度まであげればいいの?」という具体的な数字がよくわかっていないのが現状です。
勉強のためにもどういう指標がどの程度まで上がれば、現在の賃金に見合った労働生産性であると言えるのでしょうか?そういう指標は日本にあるんでしょうか?
ハイパーインフレを起こして、いったん「ご破算」にしてしまうというのも、一つの選択肢だと思いますよ。というか、民主党にも自民党にも財政赤字をコントロールする気がないので、10年以内にそういう状況が起こるでしょう。
リフレ派のいうように、それがマイルドなもので収拾できる保証はまったくない。むしろ財政赤字の規模から考えると、数百%のインフレで金融市場が崩壊するおそれが強い。それでも、今のようにゆっくり長期にわたって衰退するよりましかもしれない。
リフレ派の主張で不思議なのは、オペレーションとその効果が現れるタイムラグを考慮していないのではないか、というところです。都合の良いように「同時」に各指標が動くはずだ、となぜか思い込んでるように思えます。
例えば、インフレになると「同時に」失業率が下がるようと考えているフシがありますし、金利を上げたら、もう次の日にはインフレがすぐに収まる、と考えているようにも思えます。
オペレーションの効果は、半年や1年から数年掛かるはずですが、その間に例えば50%物価が上がるがまだ雇用を増えない時期、などが発生するかもしれない、ということまで考えていないように思えます。
調子悪くなると、気楽に通貨をご破算にする国になるっていうのも怖そうですね
円以外での保持がいいってことになるんだろうけど
>>6
>ハイパーインフレを起こして、いったん「ご破算」
で、それを求めてる人間と求めていない人間とで日本を分割した方がいいでしょう。実際にチェコとスロバキアのような例もある。今後農業などコモディティは猛烈に伸びる可能性があり、特に中国沿岸部向けなど高い需要が見込まれるのに、この円の高さでまったく勝負できない。一方、東京名古屋大阪の大都市圏が財政・軍事・自治の面から完全に地方を切り離すことができれば、都市の資産価値を上げることにお金を集中でき、日本は奇跡のV字回復をするでしょう。・・・が、地方は発展途上国からやり直しという意味。うまく身をこなせば東南アジアのようになれるかもしれませんが、うまく行かなければソマリアみたいになるかもw(その可能性の方が高い)
ま、労働生産性を上げる方法として生産性の低い分野を切り離すのは企業の常道なのでしょうがないでしょうけどね。
池田さんもでしょうが、経済の専門家の予想では、国債が貨幣価値を喪失してハイパーインフレが勃発するというのがもっともあり得るパターンのようですね。一方、永久国債を発行するばよいという人もいます。自民党政権時代にそんなことを提案する経済の専門家もいましたよ。しかし使用目的を十分議論しないまま永久国債を発行しても赤字空港をたくさんつくるだけでしょう。
必要なものは金融政策ではなく産業政策でしょう。新しい産業を発明しなければならないとして、消滅した産業の復興もまた新しい産業を発明であると見ることができないものですかねえ。私は、石炭産業を復興はよいアイディアだと思うのですが、自民党も民主党もITだの原子力だのにばかり金を使いたがる。
より多くの人が職に就いているという座標から見た日本経済構造の最適解とは、どのようなものだろうか?より少ない人員でより多くのものを生産する組織や企業が、多い人員で少ないものを生産する組織や企業を駆逐して行くのは、自然の流れで止めようがない。したがって、時代の進行とともに、もてる者の数は減り、もたざる者の数は増えてゆく。これを少しでも相殺するのが、セーフティネットだ。公務員機構は、代表的なセーフティネットだ。現在、500万人が公務員として、セーフティネットの恩恵を受けている。小企業を含めた民間の給与の二倍となった公務員給与を半分にして、同時に公務員の数を50%増やす。増やした公務員には、介護等の分野で活躍してもらう。これによって公務員の総人件費が50兆円から38兆円に減る。余った12兆円を国債の償還や、別なものに使う。消費税を上げる必要はない。このような方策は極端に思えるかもしれないが、いずれこうような方向に進まざるを得ない。自民党が再生を図るとすれば、この点に気付くことだ。民主党は、まだはっきりとは、この点を認識していない。
開発途上国といわれている国々の平均賃金が上昇し続け、先進諸国の平均賃金が下がり続ける。それが同一水準になったとき雇用も生活も安定し、国家間の敷居が無くなり、世界文明の和解と平和の時代がやってくる。ということがシナリオとしてありえるか。そんな甘ったるい幻想が実現するとは思えないので、いずれどこかで大衝突が起きるだろう。そもそも人間が多すぎる。
池田先生、
これは「雇用を増やす方法の一つ」であり「雇用を増やす唯一の政策」かもしれないことには同意しますが、「雇用を増やす唯一の方法」だとは私は思いません。財政政策を発動するのではなく、制度改革と金融政策を組み合わせるのも政策の内ですが、それが「唯一の方法」と言われると、そこにいつかの「天動説」のにおいがするような気がします。
そろそろ仕事を変わろかな・・と思って先日ハローワークへ行ってみました。(失業保険がどのぐらいの期間、いくら出るのか聞きに行ったのです)そこで職探しをしている他の人たちといろいろな話をしましたが、かなり多くの人が「正社員じゃないとイヤ」と言うのには驚きました。日本で「正社員」というのは雇用期間が無期限の社員の事だと理解してますが、現に失業保険も切れかけている人たちも有期契約社員はイヤだというのです。理由は、前が契約社員や派遣だったから今度こそ安定した仕事に就きたいというのがほとんどです。
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(つづき)
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期限なしで勤務できればそれはいいでしょうが、失業保険の切れる期限が目の前に迫っているのに、求人のある契約社員は断るというのです。じゃあ失業保険が切れたらどうするのと聞くと、友達は生活保護を申請したと言ってたという人が多いのにも驚きました。(これは男性に多かったです。)場合によっては失業保険より生活保護のほうがワリがいいとも言っていました。<先生がおっしゃる4つの方法の1番目を試す前に、
1.日本人の安定志向を捨てさせるため「正社員・正規雇用」の制度を廃止する
2.最低賃金に見合うだけ、生活保護費も「競争的水準」まで引き下げる
3.仕事のできる人間を優遇するため、仕事のできない人を簡単に切り捨てられる習慣(中国みたいに)を作る
4.中国や他のアジア諸国のように、親子兄弟や親類が助け合う習慣を再構築する
(つづき)
![](/contents/007/415/117.mime1)
以上のような事がこの国では必要なんじゃないか・・・というのが私のハローワーク体験の結論です。
無期限雇用で殆どクビにはならないのを「正規雇用」と名づけ、パートや派遣じゃなくても期限付きの常勤者を「非正規」と呼ぶこと自体に、日本の労働者・労働界の甘え体質がハッキリと表れています。
テネシー谷みたいな大昔の神話が役に立たないのは当たり前の今の時代には、結局、「長期的にみて労働需要を増やす方法は、賃金を労働生産性に見合う水準まで下げるしかない」とおっしゃることに賛成です。でも実際にやるためには上に書いたような意識・習慣・構造の変化が前提だと思います。
趙秋瑾
日本の雇用問題は政府の雇用規制が流動性を奪っていることに加えて、会計士、弁護士など、グローバルでは需要が増えているのに、日本では業界のエゴで需要が抑制されている分野があることや、失業者の受け皿的役割や高付加価値化を促進する筈の大学大学院教育が企業のニーズとマッチしていないことが問題だと思います
あと金融の規制も香港並に自由化すべきです
更に日本ではタダで提供されたり、モノの価格に織り込まれているサービス費用があります こうしたサービスのコストに見合った単価が設定されていないことが、サービスの生産性を低くしているのだと考えています
サービスでは数量効果が得られにくいので、単価をさげると、人も切らないと付加価値が上がらない 日本は企業が雇用を固定資産と考えてしまうので、利益がなくてもサービス価格をさげてしまう
ハローワークで契約社員や派遣が敬遠されるのは何も求職者側が安定志向だからだけではありません。
少なくとも現状の日本では、契約社員や派遣に甘んじていると、簡単に切り捨てられる専門性の低い人のまま加齢し再チャレンジの機会は失われます。
(高く売れる専門性の極めて高いスキルを既に持った人は別格で、派遣先でする仕事も職歴として誇れるものを積む事ができるでしょう。)
少なくとも現状の日本では、人材育成のための投資は、新卒・第2新卒の正社員にしか施されません。
ハローワークで云々の層の人が向上心よろしくいくら高度資格等を取得しようと、実務経験がなければ用いられることは無く、用いられなければ実務経験を積めないというデッドロック状態となり、永久的に機会が失われます。
(続く)
(続き)
そういうような状態の人が行ける派遣先というのがまた酷く、ハイリスク・ローリターンで生活保護より低い収入しか得られず、また家賃を始め日本の生活費は固定費が高いので、貯蓄の無い人はもう選択肢に入れることがそもそも不可能という場合もあります。
求職者というミクロの視点から見れば、自己の生産性を高めプラス成長させるには、正社員を目指すしかないのが日本の現状だとおもいます。
また契約社員はともかく日本の派遣は、テレビに堂々と出演するような優良なところを除き、俗に「人売りブラック」とよばれる、派遣仲介の商流に入り込んで殆ど付加価値をもたらすことなく人件費を搾取するだけの所も多いと聞きます。
商流が深い(多重派遣)と元請が1人月に払った額の半分以下しか当人に届かず、賞与も無く、同一労働の派遣先正社員の給与を知って愕然とする、そういう体験をしたひとがいっぱいいて、話が広まり敬遠されているのです。
p.s.
livedoorの記事検索が最初にヒットした1件しか表示されないような気がします。
コメントが800文字未満でも、800文字以上であるかのような表記のエラーで受付されない時があります。(この投稿がそうでした)
コラムを拝見しまして、
結局の所、賃金も市場価格の1つとなり、冷戦崩壊後、低所得者のプレイヤーが増えたために、先進国から見て賃金が安くなる圧力がかかるのは当然の成り行きだと理解できました。
無理に補助金やらなんらで賃金を維持しようとしても、グローバル化には勝てない。1~4を使いながら、やりくりするしかないのだ。
年功序列という賃金の後払いは、かなりの会社で崩壊するし、市場価格に見あった賃金しかもらえなくなっていくのだから、賃金を増やしたければ自分自身の価値を高めるしかない・・・と、当たり前の結論に至る世の中が到来しつつあるのだと、考えさせられました。
グローバル化した経済状況の中で雇用を増やすために賃金を引き下げるのは不可避かと思います。しかし、18. yeelee さんが書いているように家賃を始め日本の生活費は固定費が高いので規制緩和によってこの部分を同時に下げるべきだと思います。また、デフレといっても税金・社会保険料は逆行高です。もっとも高止まりしている公務員の給料を下げて税金・社会保険料を下げるくらいのことをしてもらいたいものです。
以前は、市場実勢 > 市町村レベル > 州レベル > 連邦 というのが最低賃金の状況でした。3年ほど前の数字ですが、ワシントン州の最低賃金 7.63$、オレゴン州 7.50$、コネチカット州 7.40$など、全米29州で当時の連邦水準5.15ドルを上回っていました。サンタ・フェ市では10.50$(2008年)だったそうです。
因みに、その頃の市場実勢は18$だったので、法定最低賃金引き上げには殆ど意味は無く、敢えてあるとすれば、若年層に対してのようです。連邦最低賃金あるいはそれ以下の条件にあった人の半数以上は、25歳未満の新社会人でした。しかも、その状態にはニ、三年数年しか留まっていなかったようです。25歳以上の労働者では、そのカテゴリー全体の1.7%に過ぎなかったのです。
では、連邦最低賃金が7.25$へ引き上げられたときに、州や市町村レベルの最低賃金は一緒に上がってないのでしょうか? スライドしてれば、連邦最低賃金だけ下げても仕方ないでしょう。また、今回の経済危機で、市場実勢最低賃金は18$から何処まで下がっているのでしょうか?半分くらいまでしか下がっていないなら、連邦最低賃金だけ下げても、やはりそれほど意味は無いのではないでしょうか?