Wired Science

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命がけの「竜巻追跡」、研究者の体験レポート(2)

2009年11月30日

Reed Timmer

(1)から続く


Video credit: Discovery Channel/Reed Timmer

Video: Discovery Channel/Reed Timmer.

12年前に運転免許を取得してからというもの、私は可能な限り多くの竜巻を見ることに人生を費やしてきた。竜巻の暴風から数百メートル以内の場所に身を置いているときの気分は、言葉で表現しがたいものだ。竜巻は美しく、力強い。

オクラホマ大学で気象学を学ぶ貧乏学生の私が買い揃えることができた機材は、ビデオカメラとダクトテープで継ぎ合わせたオンボロ車くらいのものだった。学業とどうにか両立させながら、私は竜巻の追跡を続けた。

竜巻という、地球上で最も激烈な大気現象に可能な限り近づきたい一心で、メキシコからカナダまで、1年間に5万キロメートル以上を走破した。1998年以来、私がカメラに収めた竜巻の数は150を超える。

そんな私はここ数年、オクラホマ大学で気象学の博士号取得を目指している。科学に対する情熱と、竜巻に可能な限り接近したいという欲求を同時に満足させるためだ。

さっきの竜巻の話に戻ろう。いったん竜巻の中心に入ると、風は不気味ほどに静まった。そのまま永遠にも思える数秒間が過ぎると、今度は、小型の吸い込み渦が車の真ん前に出現した。

渦は車の左側に回りこんだ後、われわれのほうへ突進してきた。私は助手席にいたChris Chittick氏、後部座席にいたレーダー操作担当のMik Wimbrow氏に向かって、しっかりつかまれ!と叫んだ。

吸い込み渦が車体にぶつかる直前、私は顔を背けたが、それと同時に風が顔面を直撃した。運転席の窓も粉々に割れ、破片がChittick氏の左顔面を直撃した。秒速約45メートルの風が、Dominatorの内部を吹き抜けたのだ!

一瞬の後、吸い込み渦と竜巻の後半部はわれわれを通り抜けて東の方向へ去っていき、われわれは解放された。私もChittick氏も顔の側面から血を流していたが、幸運にも、割れたガラスの破片で数ヵ所切っただけだった。

この竜巻の内部で記録した水平風の風速と風向のデータは、じつに興味深いものだった。下のグラフが示す通り、竜巻の「目」の中でいったん約3.6メートル/秒の最低風速が観測された後、急激に風速が増し、わずか数秒後には約63メートル/秒に達して、吸い込み渦が車を直撃した。竜巻の親渦内部の風速は比較的遅かったが(平均で約31〜36メートル/秒)、車に突っ込んできた小型の吸い込み渦の内部の風速はそれを大幅に上回っていた。


2009年6月17日の竜巻の記録。青の折れ線は風速(単位:マイル/時)、赤の折れ線は風向(単位:度)

私はこれまでも何度か、激しい竜巻を経験してきた。オクラホマ州で発生した、等級にしてF5という猛烈な竜巻の中に入り、泥まみれになったこともある。テキサス州では、ソフトボール大の雹(ひょう)が飛んできてフロントガラスを破壊された。100メートルと離れていないところで、竜巻が木を根こそぎ吹き飛ばすのを目撃したこともある。しかし、そうした竜巻のどれ1つとして、博士論文を書き上げる役には立たなかった。危険は伴うが、竜巻をこれ以上ない至近距離で記録することは、純粋に私の生きがいなのだ。

[竜巻の等級づけは、藤田スケールで行なわれる(1971年、シカゴ大学名誉教授の藤田哲也氏らが提唱したもの)。F5では、「強固な建造物も吹き飛び、樹木も根こそぎ宙を舞い、自動車大の物が空を飛び交う」とされている。

なお、オクラホマ大学の研究所にはストーム・チェイサーとよばれるチームがあり、ドップラー・レーダーを搭載した車で竜巻に接近し、竜巻発生と移動のメカニズムを解明している。このチームをモデルにして映画『ツイスター』が制作された]

{この翻訳は抄訳です}

[日本語版:ガリレオ-高橋朋子]

WIRED NEWS 原文(English)

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