きょうの社説 2009年12月3日

◎「創造都市」への道 「金沢弁」にこだわる気概で
 金沢市が今年、国の「歴史都市」やユネスコの「創造都市ネットワーク」に認定、登録 されたことを受け、金沢創造都市会議で「金沢弁のまちづくり」という新たなキーワードが「2009宣言」に盛り込まれた。

 土地の方言も大事な無形の財産として地域の人々が意識し続けなければ、標準語(共通 語)に置き換わってしまう。逆に言えば、愛着やこだわりが強い地域ほど方言は残りやすい。標準語を「画一化されたまちづくり」と言い換えれば、「金沢弁」を大事にするという発想の意味が分かる。つまり、どれほど土地に根ざした文化でも、地域がその独自性に目を向け、積極的に評価していかなければ、中央からの画一化の波にのみ込まれかねないということである。

 「歴史都市」や「創造都市」にしても、どこかにモデルがあるわけではない。これらの 認定は今までの実績の評価というより、それに値する都市をめざす新たな出発点と考えたい。「金沢弁」という端的な表現も、まちづくりの原点を見つめ直すことにほかならない。土地のにおいや温もりを伝える方言を大事にするような感性や気概をもって、金沢独自の価値をさらに掘り起こし、官民一体でその魅力に磨きをかけていきたい。

 金沢創造都市会議は「都市の生命力」を総合テーマに2日間にわたって開催され、町家 の市場価値を高める仕組みやアーティストの積極的な誘致、金沢21世紀美術館の産業創出への活用など多彩な提案がなされた。会場からは「金沢弁のまちづくり」に関連し、「いろんなアイデアを金沢弁で考えていきたい。その場所でしかない言葉、感性に置き直す作業が金沢を世界の創造都市にすることにつながる」との受け止め方があった。

 確かに、まちづくりを既成の都市論に押し込めたり、他都市でやっているような借り物 のアイデアに当てはめるだけでは個性を際立たせることは難しい。足元には歴史や文化に根差した魅力がまだまだ詰まっているはずである。地域の独自性を「金沢弁」と象徴的にとらえるなら、それを使いこなしてこそ金沢だけのまちづくりの文脈が描けるだろう。

◎米軍アフガン増派 包括的な「出口戦略」を
 オバマ米大統領が、来年夏までに米軍3万人を増派し、2011年7月に撤退開始をめ ざすアフガニスタン新戦略を発表した。米国民の厭戦(えんせん)気分が高まり、増派反対の声も大きい中、政権の命運をかけて決断を下した。

 オバマ大統領は、アフガンでの「テロとの戦い」を国際的な取り組みと位置づけ、同盟 国の一層の貢献と団結を求めた。駐留米軍の増強によって反政府武装勢力タリバンの力をそぎ、アフガンの治安を安定させて国家再生の道筋をつける新戦略の目標を、国際社会が一体となって達成したい。

 オバマ大統領のアフガン新戦略は、巨額の戦費負担の限界も見据え、米軍のいわゆる出 口戦略に比重を移すものといえる。が、アフガン再生の道を確実に開くには、米軍や国際治安支援部隊(ISAF)の撤退という軍事的な出口戦略だけでなく、国連開発計画(UNDP)や世界銀行などアフガン復興に協力するさまざまな機関の支援体制を再構築し、包括的な出口戦略に取り組む必要がある。民生支援に力を入れるという鳩山政権も、支援策の具体化を急がなければなるまい。

 オバマ大統領が撤退時期を明示したことは、危険なカケともいえる。それによって、ア フガンのベトナム化という米国民の悪夢を取り払うことができるし、米軍派遣が占領目的でないことを明確にして、アフガン国民の自立の自覚と行動を促すこともできる。

 しかし、撤退時期が分かれば、タリバンの士気は上がり、米国の新戦略が一層困難にな る恐れもある。さらに、時間がたてばまたタリバンの支配になるとみて加担する国民が増え、カルザイ政権の妨げになる心配も否めない。

 米軍の撤退につきまとう不安を取り除き、アフガンを安定させるにはカルザイ政権の統 治能力を高めていくほかない。新戦略にいう通り、国軍と警察を強化し、「無能で汚職にまみれた者」に責任を取らせて、信用される政府にする必要がある。政権運営能力と信頼性に難のあるカルザイ大統領だが、国際社会はいま現政権を支える選択肢しかない。