前回記事:泥濘(ぬかるみ)に足とられないように―日韓併合100年に寄せて(1) 絢爛たる江戸の町民文化と、朝鮮通信使 通信使の来聘は、全国の大名を動員して、国民に御触れを出し、国家あげての行事というものでしたが、これは徳川政権の「ご威光」を天下にあますところなく示すという国内政策でもありました。 また、何よりも、この外交は、200年間におよぶ「日・中・朝」の平和・不戦の回廊であったといえます。 その歓迎ぶりを、平戸のイギリス商館長、リチャード・コックスは「至るところ王者のごとく待遇」と驚嘆の言葉を記録していますが、朝鮮側としても「一芸を以って国に名のある者悉(ことごと)く従いて行く」400名余りの外交使節を整え、かつ、徳川将軍、親藩・御三家などには莫大な珍宝を土産に持っていくのですから、互いに無理を押しての決行でした。 江戸往復の6ヶ月間は、次のようであったといいます。「朝鮮使節団の入団があると、日本の文化人たちは沿道の旅館に馳せ集まり、饗応の席上はもちろん、滞在の間に競って同文の異邦人に面会を求め、漢詩の唱酬に歓をつくし、書画の揮毫(きごう)を請い、また筆談によって中国や朝鮮の政情をさぐり、歴史や風俗を尋ね、経・史・諸学の問答をかわした」(『朝鮮』吉川弘文館)というものです。 また一方、朝鮮からの製術官は次のように書いています。「日本人がわが国の詩文を求めること貴賎賢愚を問わず、神仙のごとくに仰がないものはなく、珠玉の如く珍重しないものはない。略。一夜の間に費やされる紙、あるいは数百幅に及ぶ…」 ところで、朝鮮通信使を歓待したのは儒者ばかりではありません。1609年、朝鮮通信史のはじめての江戸入府、その江戸城登城を徳川幕府は将軍一代の盛儀として礼を尽くして歓待したのですが、幕府はその江戸入り行列の日、江戸市中を休日にしました。 警備上の規制を厳しくかけつつも、市民に見物をすすめたのです。普通の人々にとって朝鮮通信使一行の行列は、公然と、じかに外国人を見るという、またとないチャンスでしたから、江戸っ子たちは、整然と並びつつも好奇の目を輝かせました。 もう、品川から日本橋の馬喰町、浅草の東本願寺前まで、沿道には見物人がびっしりと並び、また街道沿いの海にも、見物する船が列をなして並んだといいます。 その行列は、きらびやかに威厳を正しつつも、管弦楽器、吹打楽器、太鼓、小金、シンバルを用いて、伝統の楽曲を奏でながら堂々の行進するのです。人々は、生まれてはじめて見る異国情緒たっぷりの見ものに歓喜し、堪能したのでした。 ここで、時代の変容を凝視しなくてはなりません。すでに世の中は、「町人の天下」という様相をみせはじめていたのです。江戸は、旗本8万騎といわれる武士たちの居住地であり、三百諸侯の大名の屋敷が集中していた日本最大の消費地でした。繁栄の象徴のように、芝居小屋があり、その店頭には胆をうばうほどに商品が美しく並べられました(参考:広重『東都大伝馬街繁栄の図』)。長く、権力に寄生してきていた、お膝元の町人が、自分たちの力を誇示するようになっていたのです。 江戸の商人ばかりではありません。大阪商人、京都の町人、近江商人、伊勢商人、城下町商人、さらには海の豪商…などなどです。町民文化は絢爛と花開き、町民もまた「文化」を作り享受するようになっていったのです。 どんなに江戸市民を魅了したのか!それは、その後の、「辻踊り」の流行にみることができます。町奉行所では、前々より辻踊りは厳しく禁止されていたのですが、間もなく、夜になると、大路広路に歌え、踊れとばかりに辻踊りがくりひろげられるようになったといいます。 朝鮮の衣装をまねて装い、鳴り物をまじえ、それは、祭りのごとしであったといいます。庶民の目と耳で吸収した朝鮮文化はそれほどに強烈な印象をあたえたのでしょう。この流れは、現在でも各地に「唐人踊り」「唐人行列」として伝えられています。 三重県鈴鹿市東玉垣町の唐人踊り、岡山県牛窓町の唐子踊り、そして三重県津市の唐人行列は、まさに朝鮮の衣装で、朝鮮に似た楽曲で行われているものです。 朝鮮では古くから、「梢をわたる微風の音に、からだがひとりでに動き、音は遥を奏で、奏でれば歌い、歌えば踊る。小川のせせらぎで日々に砧を打つ女の口元からは、自然に遥が流れる」といいますが、日本人も、歌舞好きの民族のようです。 |
11月23日〜11月28日
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