ひたぎ倶楽部
僕は手のひらに噴き出る汗をハンカチで拭った。緊張しすぎて喉がカラカラである。ここは『ひたぎ倶楽部』という高級風俗店の待合室で、客の僕はと言えば、先ほどから立ち上がったり座ったりを繰り返して、落ち着きなく自分の番を待っているのだった。大学生にもなって、一人の女性に会うだけでこれほどまでに緊張するとは思わなかった。自分で言うのも何だが、普段はもっと冷静で物怖じしない人間なのに。 誰もいない待合室。今日はひたぎさんと会うことになっている。店の名前からも分かるとおり、この店のヒロインは彼女である。超人気嬢の彼女は常に予約で埋まっており、数日前、時には一週間前から予約で埋まってしまうほどの人気ぶりで、自分の都合で彼女を予約するのはほぼ不可能に近い。つまり、彼女の空き時間に自分の都合を合わせるしかないのだ。それでも予約は困難を極め、今まで何度悔しい思いをしたかしれない。その度に挫折感を味わい、他の女の子でも物色しようかと流されそうになるのだが、やはりどうしても、ひたぎさんを求めてしまうのだ。そして今日、ついに念願かなって予約を取り、数分後には彼女と会えるという興奮で気が狂いそうになりながら、ひたすらその時を待ち焦がれているのである。ちなみに彼女は僕と同じく、今年、大学へ入学したばかりの大学1年生。 待合室の隣が個室、つまりプレイルームである。その中でかすかな物音が聞こえ、すぐにガチャッという音とともに、ドアが開いた。静かな待合室に響いた、そのガチャッという音で、心臓が勢い余って体外に飛び出しそうなくらい驚いてしまった。バクバクと痛いくらい跳ね回る心臓の鼓動を鎮めるように、胸に手を当てる。そうしていると、ふわっと甘美な匂いがして、夢にまで見たひたぎさんが目の前に現れた。 「いらっしゃい、初めまして」 にっこりと微笑む彼女を前に言葉がなかった。あまりに美人、あまりに天女、もはや想像を絶するとか言っている場合ではないくらいとんでもない美しさだった。色白で目鼻立ちが整った繊細なルックス、大学生らしいシックな装いの上からでも十分に堪能できる豊満な胸、くびれた腰、長い脚。ロングをポニーテールに結んでいる。そして何よりも微笑みの内に漂う、ひんやりとした色気。僕と同い年というのに、この妖艶さと迫力。思わず頭を下げてしまうくらいの圧倒的な格の違い。 「あの・・・」 彼女に声を掛けられて、彼女が僕に手を差し伸べていることに初めて気づいた。そのくらい僕は緊張していた。携帯電話の待ち受けにしている彼女の写真では伝わらないくらいの魅力を、目の前のリアルから感じていた。 「えーと、東雲さんでしたっけ」 「は、はい」 こういった類の店では、客は偽名を使うのが常識らしいのだが、東雲というのは僕の本名だった。憧れの彼女に本名で呼んでほしかったのだ。ここでようやく差し出された彼女の手を握り立ち上がる。しっとりとなめらかな手の感触。こうして握手できただけでも幸せを感じてしまうくらい、この女性には特別なオーラが存在している。 「じゃあ、東雲さん、こちらへどうぞ」 彼女はそう言って、振り返りざま、僕を流し目に見てから個室へ歩き出す。手は握ったままである。彼女の流し目にクラクラしながら、引かれるままに歩を進める。彼女の後ろ姿を鑑賞する間もなく、個室に辿り着く。 「どうぞ、こちらへ」 「はい」 案内された個室は間接照明によって薄暗くセッティングされていた。アロマキャンドルが各所に配置され、アロマオイルの甘い香りが広がっていて、ますます気分が昂ぶってしまう。さらにセミダブルのベッドを目にして緊張がピークに達する。このベッドの上でこれから憧れのひたぎさんと絡み合うのだ。ふと、ひたぎさんを見ると、彼女は僕の心を見透かしたように蠱惑的な笑みを浮かべている。 「ねえ、東雲さんってば、緊張しているのかしら?」 僕は無言で肯いた。今の状態ではどんなに否定したところで虚勢にしか見えないだろう 「キスでもしてあげようかしら?」 そう言うと、彼女はいきなり唇を重ねてきた。僕は反射的に避けてしまった。 「あらあら、東雲さんってウブなのね」 「・・・」 「じゃあ、抱きしめてあげるわ」 彼女の細い手が僕の背中にまわり、そっと僕を抱きしめる。自然、彼女と密着する。2人の間で押しつぶされる魅惑の胸の谷間が目の前にくっきりと形作られる。股間が痛いくらいに固くなる。 「いいことしてあげる」 そう言うやいなや、彼女は僕の耳を甘噛みした。予想外の刺激に体中に電撃が走る。まるで自分の体が自分のものではないかのような浮遊感。すっかり彼女のペースになってしまっている。それにしても耳がこんなに感じるとは思わなかった。甘噛みの後はペロペロと淫らな舌遣いで舐めてくる。意識が飛びそうなくらい気持ちいい。すると彼女は突然、僕の股間に手を伸ばした。ビクッと現実に戻される。彼女の表情に若干の失望の色が漂っていることに気づく。魂の抜け殻のようにフラフラしているだけの僕に苛立ったのかもしれない。 「ねえ、せっかく予約してくれたんだから、もっと楽しみなさいよ」 感情を抑えた声で冷たく言い放つ。こうして苛立っている表情さえ麗しい。 「あなた、童貞なんでしょう?」 「ど、童貞?」 「そう。あなたみたいな童貞はガツガツしないから相手が楽だわ。死ねばいいのに」 今までの接客態度をひっくり返すような酷い言われようだった。さすがに不快になったので、彼女をじっと睨み付ける。だが、それを上回る迫力で睨まれる。 「なによ、童貞さん」 「客に向かってなんだよ、その言い方は」 「じゃあ、早く私を押し倒しなさいよ」 急にツンツンしだした彼女に戸惑いながらも、言われたままに彼女をベッドに押し倒し、馬乗りになった。 「これでもうあなたのやりたい放題よ。好きにすればいいじゃない」 余裕たっぷりに微笑む彼女。正視できないので、まずはスカートを捲り上げる。色白の長い脚。ふっくらとした肉づきの良い太ももが露わになると、思わず唾を飲み込んだ。あまりの脚線美に目を奪われる。理性が粉々に砕けそうだ。 「もっと捲ればいいじゃない。エッチなところ見たいんでしょ?」 憧れの彼女の太ももは完全に露わになり、勇気を振り絞ってさらに上に捲る。ピンクの扇情的なパンティが目に飛び込んでくる。ピンクで扇情的なのに下品さは感じさせず、むしろ品があって、客の妄想をかき立ててくれるようなパンティ。 (すごい・・・) 彼女は次々と僕の欲望を突き動かそうと誘惑してくる。休む間も与えてくれない。 「何よ、見ているだけなのかしら?触っても良いのよ。それとも、ペロペロ舐めたい?」 眩いばかりの太ももからパンティにかけてのラインをおそるおそる手でなぞる。艶やかな肌の温もりが伝わり、蕩けるような柔肌がフルフルと細かく震えている。特に太ももの内側の感触は例えようのないくらいトロトロだった。 「あらあら、そんな調子では、私とエッチするまでに失神しちゃいそうね」 またも小馬鹿にするような口調だったが、彼女の言葉責めがだんだん心地よく感じてきた。僕は決してマゾではないのだが、もしかしたら彼女は緊張しきりの僕を言葉によってリードしてくれているのかもしれない。彼女はこの道のプロなのだ。超人気嬢なのだ。僕は体勢を立て直し、今度はきちんと正面から彼女の目を見つめた。 「ねえ、キスして」 そう言って目を閉じる彼女。柔らかそうでしっとりと潤いのある唇。先ほどは思わず避けてしまったが、今度は彼女が目を閉じてくれているおかげでやりやすかった。唇を重ねると、キュッと吸い付いた。そしてあっという間に彼女の舌が僕の口の中を犯し始めた。慌てて離れようとするが、いつしか彼女の腕が背中にまわり抱きかかえられている。僕は観念して、舌を絡めた。生まれて初めてというくらい濃厚なキスを終えると、彼女は満足そうに微笑んだ。 「上手ね。童貞のくせに」 「・・・」 褒められているのか、貶されているのか。夢にでもでてきそうな官能的なキスだった。だが、これは単に彼女のテクニックが凄かったというだけのこと。 「なあ、ひたぎ・・・さん」 「何よ。『さん』づけなんてしなくていいわよ」 「じゃあ、ひたぎ」 「だから、何よ」 「もう少し優しくリードしてくれると嬉しいな」 正直にそう言うと、彼女はにっこりと微笑んだ。彼女の強烈な官能は僕の心を揺さぶってやまないのだが、実はあまりに刺激的すぎて息苦しくなってきたのだった。彼女はふぅと小さく息をついた。 「ごめんなさい。まあ、東雲さんとは初対面ですものね」 「そうだね」 「東雲さんは学生さんかしら?」 「そうだよ。ひたぎと同じで、今年大学に入学したばかり」 彼女は嬉しそうに首を傾げてみせた。 「じゃあ、東雲君って呼ぼうかしらね」 「いいよ。そっちの方がいいかも」 「あらそう。では、東雲君。私の体で目一杯楽しんで頂戴」 彼女は上着を脱ぎ、さらにブラジャーを外して、豊満な胸を惜しげもなく僕の前に晒した。服の上からも十分魅力的に弾んでいたが、こうして中の果実を目の前にすると、あまりの完成度に驚くしかなかった。 「ねえ、また放置プレイなのかしら?触ってもいいのよ」 今度はやんわりとした口調で僕を誘う。手を伸ばし、ゆっくりと味わうように胸を愛撫する。胸の柔らかさの例えとして『マシュマロみたいな・・・』とよく言われるが、まさにその通りだった。彼女の頬が少しだけ赤らむ。それに勇気づけられて大胆に揉みしだく。 「あんっ・・・いいっ・・・」 初めて聞く彼女の喘ぎ声。気分がどんどん盛り上がる。乳首を摘んだり、指の腹で擦ったりすると、彼女の体は敏感に反応する。 「あぁ・・・あんっ・・・んっ!」 胸を愛撫しながら、もう一度キスをする。今度は僕が主導権を握り、恥ずかしがる彼女と濃厚なキスを繰り返した。 「あっ!・・・やんっ!」 片手を下腹部に伸ばすと淫らに腰をくねらす。余裕が生まれた僕は本能の赴くままに、パンティの上から秘部を刺激し、太ももを撫で回し、彼女の体を弄ぶ。 「はぁ・・・はぁ・・・」 火照った体をくねらせ、青息吐息の彼女は僕にしがみついてくる。 「東雲君・・・もっとぉ・・・もっとぉ」 甘えん坊のように欲しがる彼女の髪を優しくかき上げ、美尻を撫でながらパンティをずらす。 「あんっ・・・もうっ、せっかちさんなんだから。・・・脱いであげる」 媚びるような目で僕を見ながら、彼女はそっとパンティを脱いだ。秘部に手をやるとしっとりと濡れていて、軽く擦るだけで彼女は甘い吐息を吐く。 「あぁん・・・そんなに・・・だめぇ・・・」 クリトリスを剥いて心持ち強めに擦る。愛液が溢れてくる。同時にキスをする。悶え狂う彼女の両手をしっかりと握る。 「東雲君、素敵・・・」 「ひたぎも可愛いよ」 耳まで真っ赤に染まっている彼女は、まるで花を恥じらう処女のようだった。 「東雲君・・・」 「んっ?」 「入れて・・・いいよ」 彼女が蜜部を指でなぞる。そして愛液でたっぷりと濡れた指を僕の前にかざす。妖しい微笑み。 「ほらっ、こんなに濡れちゃった」 こうなればやることは一つ。痛いくらいに屹立していた僕のモノを彼女の中にゆっくりと挿入する。もちろん、コンドーム着用。 「あんっ!大きいっ!」 彼女の甘い声に勇気を得て、ズッ、ズッと奥へ進む。そして、そっと戻し、押す。 「ああんっ!気持ちいいっ!」 ピストン運動が徐々に激しさを増してゆく。夢にまで見た彼女の中へ入っている。快感。まるで生き物のように絡みついてくる彼女の肉襞が僕を快感の坩堝へと誘い込む。何度も何度も彼女の奥へ突き刺し、彼女の喘ぎ声を楽しむ。やがて、彼女がシーツをギュッと掴みながら悲鳴に似た声を上げた。 「イクッ!・・・東雲君っ!イッちゃうっ!!!」 密壺の中が一気に収縮し、僕のモノがぞうきんのように絞り上げられる。あまりの圧迫感にたまらず僕も絶頂へ。果ててもなお、夢見心地のまま、僕は彼女の中に入ったまま、身を屈めて彼女にキスをした。 「はぁ・・・はぁ・・・良かったわ、とっても」 見も心も果てきった僕の耳元で彼女の甘い囁きがする。 「・・・最高だったよ、ひたぎ」 予想以上の素晴らしさだった。二度と忘れられないくらいの体験。彼女の温もりを感じながら余韻に浸っていると、彼女がベッドから起き上がった。 「でも、私はまだまだ満たされていないわ。さあ、東雲君」 「えっ?」 うつ伏せになっている僕を無理矢理立たせる。 「ほらっ、シャワーを浴びに行くわよ」 そう言って、彼女は僕を個室の近くの浴室へ連れ込む。 「その椅子に座って頂戴」 示された浴室用の椅子に腰を掛けると、彼女は僕の股の間に体を割り込ませて膝立ちの格好になった。 「ふふっ、さっきはあんなに腕白だったのに可愛くなっちゃって」 自分の性器について言われているのだとわかり、無性に恥ずかしくなる。 「ひたぎ、もういいから。って、おいっ!」 彼女がいきなり、僕のモノを口に含んでしまったので、僕は思わず大声を出してしまった。要はフェラチオである。 「もふいひほ、おおひふしてあへる」 彼女はにんまり笑って、超絶テクニックで僕のモノを刺激する。力を失っていた僕のモノはあっけなく力を回復し、彼女の口の中で暴れ回る。ぷはっと彼女が身を引く。 「すごいわ。すごいわよ、東雲君。またこんなに大きくなっちゃって・・・」 うっとりと僕のモノを見つめる彼女。そしてそんな彼女を見て再び欲情する自分。 「もう一回いいのか?」 彼女はゆっくりと立ち上がってから、当然とばかりに肯いた。 「ねえ、今度は後ろからお願い」 壁に手をつき、こちらに向けて媚びるように美尻を突き出して彼女が懇願する。 「ひたぎって本当にエッチなんだな」 「早く気持ちよくしてくださいな」 迷う余地はなかった。先ほどは正常位、今度はバック。彼女のしなやかな背中を見ながら、そして浴室中に響く喘ぎ声を楽しみながら、快楽の時間が過ぎていった。 「東雲君、中はダメよ。口でイカせてあげるから」 「ああ」 今回はゴムを着けていない。 「あぁ・・・すごいっ!・・・イクッ!・・・クッ・・・イクッ!!!」 ブルブルと全身を痙攣させながら絶頂し、ガクンと崩れそうになる彼女の腰をしっかりと抱え込み、さらに激しく突き続ける。膝をガクガクとさせながら僕の責めを受け入れる彼女が悲鳴に似た喘ぎ声を上げる。 「ああんっ、もうっ!東雲君のイジワル!」 「気持ちよすぎて腰が止まらないんだよ」 さらに数分経ってから僕もようやく絶頂を迎えそうになる。 「ひたぎ、イキそうだ」 そう言うと、彼女は手を使って、素早く僕のモノを抜き、それを自分の口で咥えた。生温かい感触が優しく包み込む。僕は彼女の口の中で絶頂した。 「ふう。すごいな」 「あらそう?東雲君が良ければまだまだお相手するわよ」 彼女の精力は衰えを知らないようだ。 「さすがにちょっと休ませてよ」 「あら、私の好意を受け取らないつもりなのかしら。童貞のくせに生意気よ」 ここでいきなり元の彼女に戻る。 「ひたぎ・・・」 「そうね、もう童貞ではなかったわね。じゃあ、素人童貞・・・かしら」 「さっきの優しいひたぎがいいな」 「何よ。素人童貞のくせに偉そうに」 「・・・」 その後、僕たちはお互いの体を丁寧に洗って、浴室を出た。そして最後に顔を見合わせて大笑いした。 実は・・・ 「ひたぎさん、本物の風俗嬢みたいだったよ」 「あらそう?東雲君もなかなかのものだったわよ」 そう、僕たちは暇にかまけて、風俗ごっこをしていたのだった。ここは僕の家。リビングが待合室で、寝室がプレイする個室。戦場ヶ原がどうしても言うから試してみたのだが、いつもの倍くらい興奮した。 「超人気嬢をやっと指名できたんだって無理矢理思いこんでいたら、だんだんその気になってさ、ひたぎさんが寝室から出てきた時はメチャクチャ緊張したよ」 「そうね、あなた震えていたわ。震えまくり」 だが、演技とは言え、彼女にあんな目で見つめられたらイヤでも緊張してしまうだろう。 「・・・これね、神原のアイデアなの」 「ああ、なるほどね」 神原駿河。元気で体育会系でボーイッシュでエロスな女の子。彼女の発案だったか。 「たいした後輩だな、まったく」 「なによ、私の可愛い後輩を小馬鹿にしたような言い方しないで頂戴」 神原には異常なまでに甘い彼女。微笑ましい先輩、後輩の絆なのだが、彼女の刃の矛先は必ずと言っていいほど僕に向けられてしまうのが辛いところだ。 彼女とこうしてエッチができるようになったのも、つい最近のことである。相性が良いのか、エッチの度に新たな発見があり、思い出が作られてゆく。今回の『ひたぎ倶楽部』も大成功だ。すっかりデレデレモードの戦場ヶ原が抱きついてくる。 「じゃあ、今度はコスプレでもしようかしら。東雲君のことだから、そういうの好きでしょ?」 「いいかもね。OLスーツ姿のひたぎさんとか、ナース姿のひたぎさんとか」 「あらあら、そんなに鼻を伸ばして。クールな東雲君のキャラが台無しよ」 「楽しみにしているよ」 夢のような毎日。ならば、夢が醒めるまで存分に楽しむことにしよう。 ひたぎ蕩れ! <完> ご愛読ありがとうございました。 |