放送批評懇談会が選ぶベスト番組【ギャラクシー賞月間賞】
吉岡秀隆の演技が光る、戦争を描くドキュメンタリードラマ シリーズ激動の昭和「最後の赤紙配達人〜悲劇の“召集令状”64年目の真実」
(GALAC 2009年11月号掲載) 2009年10月18日(日)配信
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出演 吉岡秀隆 山本太郎 風吹ジュンほか
TBSテレビ ドリマックステレビジョン
8月10日放送 21:00〜23:09
「赤紙」という言葉を、今、どれだけの人たちが理解できるだろうか。たった1通の通知で否応なく兵士にされ、どことも知れぬ戦地へと送り込まれてしまう。それは、遠い昔の、異国の話ではない。私たちの親や祖父母の時代の日本では、目の前で行われていたのだ。結局、日本は無謀だとわかっていながら、17歳から45歳の男性の4割以上・734万人を戦場へと送り込むことになる。そんな「赤紙」をテーマに、ドキュメンタリーとドラマを組み合わせ、忘れてはならない想いを丁寧に伝えていた。
滋賀県の小さな村役場で「赤紙」配達の“兵事係”を務めた西邑仁平氏は、戦後、廃棄処分の命令を受けていた徴兵関連の資料を隠し、保管していた……。そのエピソードを軸に、戦時下の日本の状況が、市井の人びとの視点で描かれていた。ドラマの部分では戦場の場面はほとんど描かれないが、それでも戦争の悲惨さ、非情さはひしひしと伝わってくる。これは、西邑氏を演じた吉岡秀隆の演技に依るところも大きかった。こつこつと仕事を真面目に積み上げる人間の芯の強さと、葛藤が折り重なっていく心情の変化の表現は見事。とくに、ドラマの後半で「……戦争のために生まれてきたんやない。死にザマまで燃やされてたまるもんか!」と呟きながら資料を隠す場面は、しっかりと“怒り”が伝わり圧巻だった。また、ドキュメンタリーの部分も、戦争によって過酷な運命を生きることになった人びとの生の声を伝えており、ドキュメンタリーとドラマ、それぞれ単体では伝えきれない部分を巧く補い合い、重ねていく構成も効果的だった。
つらい歴史を知ることは、重荷を背負うことになる場合もある。しかし、こうしてメディアが広く伝えていくことで、みんなが重荷を少しずつ分担することができるのかもしれない。そういう意味でも、戦争について考え続けるTBSの一連の取り組みは、もっと高く評価されていいのではないだろうか。 (古賀靖典)
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