M女の隠れ家 <小説 淫虫−5>
第5話 共通点
奈津美が昭の家の台所に立つのは、これで何度目だろう。
もう少しでお尻が見えそうなほどに短いミニスカートでエプロン姿の奈津美を、後ろから眺めながら昭はふとそう思った。
包丁で野菜を切っていた手を止めて、奈津美が振り返る。
後ろからの昭の視線を感じたようだ。
「どうしたの?」
「できあがるまで、テレビでも見て待ってて」
そういって、奈津美は膝を曲げずに体をかがめ、台所シンクの下の調味料を取ろうとした。
エプロンの後ろ姿から、奈津美のミニスカートがめくれあがり、白いショーツと丸いお尻が丸見えになった。
「あ・・・」
昭は驚いて、つい小さく声をあげてしまった。
「いやだぁ」
「向こうに行ってて」
奈津美は、昭から見られたことを恥ずかしがって、昭の背中を押して台所から追い出した。
テレビのある居間に押し戻された昭には、さっきの奈津美の後ろ姿が鮮明に瞼に残っている。
これまで見たことのないほとんどTバックに近いようなレースのついたきれいなショーツだった。
あんな下着をつけた奈津美の姿は、初めてだ。
お尻の割れ目に食い込んでいたショーツ、それが挟み込むように丸いお尻がめくれ上がったミニスカートの裾から見えたのだ。
顔がほてってくるような感覚を、昭は覚えた。
居間のテレビが何かを映し出していても、網膜にそれが映っているだけで、昭の目には見えていない。
テレビのバラエティ番組でコメンテーターが何かを早口でしゃべっているようだか、昭には何のことを言っているのか、ほとんど理解できていなかった。
ただ、ぼんやりと昭の目には画像が反射しているだけだった。
間もなく、台所からテーブルに食器を並べる音がした。
カタカタンというリズミカルな音で、手際の良い並べ方だというのが分かる。
「できたわよ」
台所から奈津美の声が聞こえた。
その声で、昭ははっと現実に返ったような気がした。
「あ・・、ああ、分かった、今行く」
そう答えて、居間のソファから、ふわりとスローモーションのような動きで昭は立ち上がった。
台所に入ると、すでにエプロンを外した奈津美がそこに立っており、テーブルには奈津美の手料理が並べられてあった。
白いテーブルクロスの上に、昭の自慢のワインとワイングラスも置いてある。
「さあ、どうぞ」
奈津美が微笑んで、昭を招き入れる。
テーブルに向かい合わせにして、二人は座った。
「へえ、おいしそうだ」
「うふ、どうぞ召し上がれ」
「今回はちょっと味付けに工夫をしてみたの」
「へぇ、そうなんだ」
「いただきます」
昭は奈津美の手料理をおいしそうに頬ばった。
その食べっぷりをうれしそうに眺めている。
ワインもおいしい。
奈津美の学校でのことや友だちのことなど、他愛もない会話が楽しい。
昭は、ただ聞き役に回って、奈津美の赤い口紅のついた唇の動きを眺めていた。
「恵里がね、この間、私に相談してきたの」
奈津美の友だちに、恵里という小柄な子がいることは以前にも聞いていて、昭も知っている名前だった。
「相談?」
「そう、結構、いろんなことを話すけど、こんな相談は初めてだったから」
「どんな相談だったの?」
ワイングラスを手に持ったまま、軽く昭は答えた。
「うん、彼女、縄で縛られている女性の写真をインターネットで見つけたんだけど、それを見ているととてもドキドキするんだって」
「へぇ」
昭はその話に少し興味を持った。
「そうなんだ」
「うん、それでね、そんなのって、自分はおかしいんじゃないかって恵里、悩んでるの」
「ふーん、それで奈津美はそれにどう答えたの?」
昭はさらにその話の続きを求めた。
「うん・・・」
そういったまま、料理を口に入れて奈津美が答えようとしない。
しばらくしてワインを少し口にした。
赤い口紅の色がワイングラスにうっすらと残っている。
「本当にこのワインはおいしいわ」
「つい、飲みすぎちゃう」
「ねぇ、恵里の相談に、どう答えたんだい?」
昭がじれて、話の続きを催促した。
「恵里はね、それでぇ、最近は毎日のようにそんなサイトを見るようになったんだってぇ」
ワインのせいか、奈津美の話し方の語尾が少し伸びてきている。
昭の問いかけの答えをわざと外して、奈津美が返答している。
ワイングラスをゆっくりとクルクルと回して、グラスの中の揺れるワインを奈津美は眺めていた。
「奈津美はその話をどう思うの?」
昭は別の角度から奈津美に問いかけた。
「そうね・・・」
そう言ったまま、まだワイングラスを揺らしている。
しばらくして、奈津美は答えた。
「恵里にはね、こう言ったの」
「そんなの別におかしくないわよ、私も縛られたいって思ってるものって」
衝撃的な告白だった。
昭はあやうく手に持っていたワイングラスをこぼしそうになったほどだった。
奈津美はワイングラスを自分の顔の前で揺らしながら、少し顔を傾けている。
ワイングラスを見ているような素振りだが、その向こうにある昭の表情を見ているようにも思える。
「・・・そ・・そうなんだ・・・」
昭はその話の続きは求めず、言葉を詰まらせた。
ワイングラスに残っていたワインを飲みほして、昭はふーっと大きくため息をついた。
ワインのアルコールが回ってきたとはいえ、まだこの程度で冷静さを失うほどではない。
昭は体を上に反らして、天井を見上げた。
小さい頃から見慣れた自分の家の天井がそこにある。
頭の角度が変わったことで、少し気持ちが落ち着いてきた。
しばらく、間を置いて昭は口を開いた。
「そうか」
「恵里と奈津美はそういう共通点があったのか」
小柄でとても幼く見える恵里と、スラリとした美人顔でしっかり者の奈津美とは、たまに一緒にいることを昭は聞いていた。
だが、この二人の組み合わせはかなり異質のように感じていた。
その共通点がここにあったかと、初めて昭は理解した。
「昭はどう思う?」
奈津美はうっすらと笑っているような表情をしながら、顔をやや傾けるようにして問いかけてきた。
ワインのせいか、顔が少し赤くなっている。
「・・・うん・・・、いいと思うよ」
昭は奈津美の問いかけに、意味の曖昧な返事をして答えた。
だが、それは奈津美の問いかけを肯定した返事だ。
昭は自分の股間が強く勃起してきたのを感じていた。