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円高の追い打ちで深刻化するデフレ不況。その対策に日銀が動いた。臨時の金融政策決定会合を開き、新たな金融緩和策を打ち出したのだ。
鳩山政権のデフレ対策は後手に回ってきた。政府・日銀が政策を総動員しない限り、景気の二番底からデフレスパイラルに陥りかねない。きょう会談する鳩山由紀夫首相と日銀の白川方明総裁は、危機克服に全力を注ぐことを明確にする必要がある。
日銀が0.1%に誘導している短期金利の対象を拡大し、市場金利を全体的にさらに低く抑え込もうというのが今回の金融緩和策だ。具体的には、金融機関に対して国債や社債、貸し付け債権などを担保に3カ月の資金を金利0.1%で貸し出す。
当面の総額は10兆円だが、需要があれば、ためらうことなく積み増す構えだ。白川総裁はこれを「広い意味での量的緩和策」と説明した。
日銀は2001年3月から06年3月まで量的緩和政策を続けた。このときは金融機関にゼロ金利の資金を貸し込み、余った資金が日銀に逆流して預金口座に積み上がった。それが一時は30兆円を超した。この策は金融システムの安定には寄与したが、景気刺激の効果は限られたとされる。
今回は景気刺激と物価底上げのため、企業に融資される資金量に焦点を当て、金融機関に実質ゼロ金利で資金を貸すことになった。ただ、実際に経済全体にどれくらいの量の資金が出回るかは、資金の需要次第だ。
日銀はこの緩和策を無期限で続けることも強調した。さきの量的緩和策の時も、ゼロ金利が長引くと人々が思うので、市場全体の金利水準が下がるという効果があるとされた。これが「時間軸効果」と呼ばれ、米国も経済危機に直面してこれにならった実質ゼロ金利政策を採っている。
いわば本家の日銀がその再現を狙うかたちで景気と物価に利きそうな手だてを考えたのが、今回の「広い意味での量的緩和」といえそうだ。
こうした日銀の緩和策は白川総裁が「デフレ」を遅まきながら認めたように、デフレ克服に力を注ぐ姿勢の表れとして評価したい。新たな政策に挑戦する姿勢も買いたい。
しかし、残念ながら政策とメッセージの迫力は、いまひとつ足りない。デフレと円高の悪循環に歯止めをかける工夫と大胆な努力がなお必要であることは、きのうの為替市場の反応をみても明らかだ。
もちろん、デフレの根本原因が巨額の需要不足にある以上、金融政策だけでは足りない。
政府が第2次補正予算に盛る経済対策は、家計と企業の不安を軽減し、消費や設備投資を引き出す力を十分に発揮するものでなければならない。
これほど議論のない国会も珍しい。
日本郵政グループ3社の株式売却凍結法案がきのう、委員会での実質審議わずか1時間半で衆院を通過した。参院でもスピード審議され、4日の会期末までに成立する見通しだという。
鳩山政権が進める郵政民営化見直しの第一歩となる法案だ。4年前の総選挙で圧倒的な支持を得た小泉郵政改革の方向を大きく転換しようかという大問題なのに、まともな議論もなしに素通りとはあきれる。立法府の存在理由が問われる。
そもそも、国会の会期延長を4日間にとどめた政府・与党の判断に疑問がある。一日でも早く来年度予算の編成作業に専念したいという事情はあろうが、これほど土俵を狭くしては最初から議論を逃げていると見られても仕方なかろう。
党首討論もなさそうだ。急激な円高・株安への対応、マニフェスト実行の優先順位、普天間飛行場の移設などなど、国民が聞きたい論戦のテーマはたくさんある。それを来年に持ち越すとは何とも情けない。
首相は「党首討論に消極的な発言は一度もしていない。いつでも結構だ」と言う。ならば、今からでも遅くはない。与党に指示して党首討論の場を進んでつくるべきだ。
審議を欠席している自民党の対応も嘆かわしい。党首討論や予算委員会での集中審議に与党が応じないことを理由にしているが、与党時代に野党の審議拒否戦術を批判していたのは、他ならぬ自民党だ。国会で堂々と論戦を挑んでこそ、健全野党の名に値する。
民主党の小沢一郎幹事長は、政府・与党が一元化された結果、国会は政府と野党の議論の場になったという。となればなおさら、野党抜きの国会など成り立つはずがない。与野党が円滑な審議の環境づくりに協力しあうことがなぜできないのか。
国会のていたらくの背景に何があるのか。民主党にとっては、鳩山首相の虚偽献金問題の追及を避けたいという思惑も大きいに違いない。
自民党には、抵抗戦術で新政権の足を引っ張りたいという底意がうかがえる。郵政株式売却凍結法案に賛成する議員が出かねないため、審議拒否で欠席のまま与党に採決させた方が得策、という計算もありそうだ。
これでは、政権交代で国会も政治家同士がフェアに激しく議論する場に変わると期待した国民を裏切ることにも等しい。
この間、全面公開で行われた行政刷新会議の事業仕分けには、日本中から大きな関心が寄せられた。
本来なら、議員が有権者になりかわって議論を戦わせる国会こそ、もっと注目されてしかるべきなのだ。そのことを与野党に自覚してもらいたい。