年金問題の解決を売り物にしてきた民主党が、早速決断を迫られている。
「緊急を要するのはまず新型インフルエンザ対策、そして日本年金機構の扱いです。もし機構の発足を凍結するとしたら、準備に1カ月はかかります」
4日午前、民主党本部に直嶋正行政調会長を訪ねた厚生労働省の水田邦雄事務次官は、新政権が直面する厚労行政の課題を説明した。
直嶋氏は「それは大事な話だ」と引き取っただけで、具体的な指示は出さなかった。
麻生内閣は、不祥事が相次いだ社会保険庁を解体、2010年1月に非公務員組織として日本年金機構を発足させ、社保庁の業務を移行する方針だった。組織の活性化策として政府は民間人も採用することにし、すでに1078人に内定通知を出している。その中の「管理職候補」約300人には「社会の役に立ちたい」と応募してきた証券会社の元執行役員も含まれるという。
「私たちは一体どうなるのでしょうか」。社保庁の人事部局には、民主党の勝利が確実になった8月下旬以降、内定者から問い合わせが相次ぐようになった。年金機構設立に反対する民主党が、社保庁と国税庁を統合して「歳入庁」を創設すると公約していたためだ。
民主党政権下で想定される社保庁の組織改革は3通りある。第一に秋の臨時国会で年金機構凍結法案を成立させ、社保庁の暫定的な存続を認めたうえで将来、歳入庁に編入する案。第二は将来の歳入庁創設のステップとして、麻生内閣の方針通り10年1月に年金機構を発足させる案。第三は年金機構の発足時期を定めた政令を改正し、同年3月まで判断を先送りする案だ。
暫定的にせよ社保庁を残した場合、民間からの内定者を含めて全員を公務員にしなければならない。
内定者が社会的信用の失墜した社保庁職員の身分を受け入れるかどうか。さらに社保庁のままなら管理職候補用のポストが空かない。厚労省内部では「内定切り」になった場合の金銭賠償も検討されている。
「1000人も内定出しているからねえ。このまま進むにしろ、後戻りするにしろ、混乱はある。判断の一番のポイントは、年金記録問題に対応するのに最適な仕組みはどれかということだ。民主党が政権に入って詳細な資料を出させ速やかに決めることになる」
消えた年金や、宙に浮いた年金の存在を暴いてきた民主党の長妻昭政調会長代理は、年金記録問題の解決に資するかどうかで、社保庁の組織改革を考えることにしている。
毎日新聞 2009年9月11日 東京朝刊