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2009年12月01日

安井 至 (独)製品評価技術基盤機構理事長、東大名誉教授 経歴はこちら>>

「仕分け」でスパコン予算が削られたが…(4/4)



 計算能力だけを指標とする国際的な競争に勝つことだけを目的として、一体どこまで国が費用を負担すべきなのか。現時点、国産スパコンがトップになったとしても、余りにも多額の税金を使えば、喜ぶ国民は少ないであろう。

 むしろ、この新スパコンによって、これまで無理だったより精度の高い計算を行うことが可能になって、それが地球環境問題の解決に寄与する、とか、新しい太陽電池の設計が簡単にできるようになって、日本の産業活力がアップする、といったメッセージを同時に、しかも説得力をもった形で出すことが重要だったのではないだろうか。

 さらに言えば、文部科学省や理化学研究所が、組織としてそのようなメッセージを出すことでは不十分である。国民レベルで充分な支持を得るには、その課題に真剣に取り組んでいる信頼できる研究者から、直接市民向けメッセージが出されることが重要である。

○最先端の研究者に今必要なこと

 これまでの日本の先端科学をリードしてきた研究者は、国民に対して個人的なメッセージを出すことに余り熱心ではなかった。そんなことに時間を取られるよりも、論文を少しでも書き進めるべきだ、という考え方であったと思われる。

 競争することだけが科学を進歩させるのであれば、確かにそのような態度を取ることが正しいかもしれない。しかし、すべての科学者にとって、人類への貢献とか、社会の進展への貢献とか、自分の研究をより広い視点で見直すことが必要だと信じる。

 もしも、そのような広い視点を含むメッセージが国民に広く伝わっていれば、事業仕分けの結論も、多少なりとも変わっていたのではないだろうか。

 今回のスパコンを巡る事態は、直接的には、コストパフォーマンスが問題にされたと思うものの、これまでの競争ありきの科学研究のあり方にも、大きな疑問を投げかけたように思える。

 巨額の研究費を受けている研究者は、もう一度、人類や社会への貢献という観点から、研究プロジェクトのあり方を見直し、その期待される成果について、市民社会に向けて、説得力をもったメッセージを出すべきである。


 →あす(2日)の新聞案内人は、作家・歴史家の加来耕三さんです。

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