日本教職員組合(日教組)の第58次教育研究全国集会が2月21~23日、広島市で開かれた。分科会では数多くの実践報告が行われ、小学校の英語授業導入など新学習指導要領にどう対応していくかなどの課題について、教員らが議論を深めた。【加藤隆寛、上村里花】
「What sport is this?(これは何のスポーツでしょう)」
神奈川県内の小学校の男性教諭(48)が披露した英語の模擬授業。中国語で「棒球」「手球」などと書かれた紙を次々と見せながら英語で問いかける。外国語教育分科会の会場に集まった約50人の教諭らは、「ベースボール」「ハンドボール」などと返答。教諭は北京五輪会場の写真なども見せながら矢継ぎ早に英語で質問を浴びせ、答えが返るたびに会場の一体感も増していった。
教諭はロープを取り出し、別の教諭に一端を持たせた。「長さはどれくらい?」。答えは8メートル95センチ。日本語は一切使わず、答えも英語で説明する。「ワールドレコード。何の競技だろう?」。走り幅跳びだと分かると、「こんなに跳ぶの!」とさらに会場がざわめく。教諭は「できるだけ子どもが知的興味を持つ内容にすること。そうすれば20~30分は一生懸命聞いてくれる」と、日本語で模擬授業を締めくくった。
◆担任は台本に従い進行
この教諭の学校は、文部科学省が指定する幼小中一貫教育の「研究開発学校」。財政支援を受け、非常勤講師を1人確保したことで教諭が英語指導に専念できる体制が整った。他の市内5小学校でも、各校の担任と連携したチームティーチングを行う。隣接する中学の英語教諭やALT(外国語指導助手)が協力している。
男性教諭が指導案を作成し、各学級の担任には事前に「台本」を読ませて授業を進行してもらう。負担が少なくて済むことから、「ぜひ来年度以降も継続を」と市内の先生らの評判も上々だ。市内の児童約150人を抽出したアンケート(昨年10月)では、96%が「英語が楽しい」と答えた。
教諭は「1時間の授業案を練るのに4日かかる。担任にいきなりやれと言っても難しいのでは」と指摘した。国の支援を受けられる体制がいつまで続くかは不透明。さらなる積極的な財政支援、条件整備を求めた上で、「いかに担任をサポートできるかが課題。英語の教科担任を置くことも有効では」という見方を示した。
小5、6年の外国語活動は、新学習指導要領が全面実施される11年度から必修となるが、今年4月から多くの小学校で実質的にスタートする。英語指導経験がない多くの教諭に戸惑いや不安が広がっているのも事実。ある教諭は、文科省が小学校英語用に作った教材「英語ノート」について「使い勝手が悪い。あの内容では子どもが乗ってこない」と不満を漏らした。
別の中学教諭は01、08年の入学生に書かせた「英語に対する思い」を比較したところ、小学校で英語授業がなかった01年入学生に比べ、英語授業があった08年の入学生の方が「苦手」「好きではない」などの言葉が多かったと報告した。
◆教える側も楽しめば
子どもたちが最初の英語体験にどんな印象を持つかは、教師の力量にかかってくる。小学校での学習状況も、身につけた英語力もバラバラの生徒たちが集まってくる中学では、教諭も指導法の見直しを迫られる。
指定校ではなく、担任として英語授業を行っている小学校教諭は「英語が好きなので身ぶり手ぶりを交えて楽しくやっている。『学級レクリエーションとして楽しむ』というくらいの気持ちでやってみては」と提案。「私の英語はうまくないが、CDやALTの英語をたくさん聞かせればいい。子どもは誰をまねるべきかわかっている」と笑った。
英語になじむには、新要領で想定されている週1コマ(45分)では「間隔が空きすぎる」との指摘もあり、1日15分の授業を3日連続実施している例なども紹介された。
分科会や講演会などでは、全国学力テストなど現場で重要課題となっているテーマについて意見が交わされた。
学力テストなどをテーマに講演した内田慶市・関西大教授は「競争が悪なのではなく、結果ばかり重視し、勝者だけをたたえることが悪い」と指摘。学力テストの結果公表問題については「単に平均正答率を示しても市民に安堵(あんど)と不安を与えるだけ。学力低下の根本的解決にはつながらない」と述べた。
会場の教員からは「学力を上げるための論理で、価値を見いだせない子を切り捨てていくような教育をしていては、不登校がどんどん増える」との意見も出た。
教育格差について考えるシンポジウムでは、広島県の森崎賢治教諭が「集団に適応できない子や低学力の子をきちんとフォローできない。評価主義の導入で、教員は会議や書類作りに追われて個々の子どもの問題に向き合う時間がない」と、現場が直面する課題を説明した。
高橋恭子・早稲田大学川口芸術学校副校長は「現代社会は大人から子どもまでメディア漬け。子どもを消費者と見た商業主義があることも、小学校高学年になれば知るべきだ」などと訴えた。
一方、情報教育の分科会では、世界遺産についてインターネットで情報を集めて発表する取り組みが報告された。しかし「間違った情報をつかませないための工夫は」との質問に、発表者は「作業の各段階に『関所』を設けてアドバイスしているが、実際には難しい」と答えるなど、メディアリテラシー教育が課題となっている現状も浮かんだ。
毎日新聞 2009年3月2日 東京朝刊