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「超国家」EUの苦闘:/中 「国境」共同管理を模索

 ◇ギリシャ、不法移民「止められぬ」

 ギリシャ東部のエーゲ海に浮かぶヒオス島の難民収容所。「やっぱりロンドンかな」--。トルコから来たアフリカ人男性に行き先を問うと、そう答えが返ってきた。

 男性らは密航あっせんのトルコ人に2000~3000ユーロ(約26万~39万円)を払い、小さなボートで欧州に渡る。所要時間は約2時間。「トルコに戻そうとすると、自分たちで船を壊す」とヒオス町の難民担当、マリア・ツィアティさん。警察に拘束されるのは織り込み済みだ。捕まったアフリカ人には「ソマリア人」と偽る例が多い。「難民」と認められやすいからだ。

 収容所には常時、100人前後が収容されている。欧州対外国境管理協力機関(FRONTEX)によれば、今年上半期、ギリシャで拘束されたトルコからの密入国者は約1万4000人。昨年同期の5割増だ。イタリアなどが密航者を強制送還するようになり、ギリシャが代替の「玄関口」になったためとみられる。

 物、カネ、人の移動が自由な欧州連合(EU)。これまで物(通商・市場)、カネ(通貨・金融)の分野で共通化が進み、欧州統合のエンジン役を果たしてきた。国境出入国審査を撤廃する「シェンゲン協定」で一部を除き域内の移動制限はなくなったが、域外から流入する人(移民・難民)の管理は加盟国に任された。

 不法移民などの増加からEUとしての対応が必要になり、12月1日発効の新基本条約「リスボン条約」は移民・難民政策の共通化を目標に掲げる。EUは既に優秀な外国人を誘致する一方、不法移民の取り締まりは厳格化する移民選別時代に突入している。

 だが、ギリシャなど域外との境界に位置する「前線国家」が欧州を目指す移民や難民の対応に追われる構図は変わらない。「我々にも職がないのにギリシャにばかり来る」。収容所職員のピクニスさん(40)が不満を口にする。

 命がけの渡航は悲劇を生む。市民団体「フォートレス・ヨーロッパ」によると、88年以来、欧州に渡る途上で死亡した密航者の数は推定1万4860人。EU当局者は密航者の強制送還などが「人権尊重の欧州」の国際的なイメージを傷つけることも危惧(きぐ)している。

 故郷を捨て、欧州の「桃源郷」を目指す移民や難民。「海や島をふさぐ方法なんてあるんだろうか。未来がないと思い渡ってくる人々を止めることなどできないよ」。収容所職員のカクウシオスさん(37)は、EUによる移民の共同管理は無理とみている。【ヒオス島(ギリシャ東部)で藤原章生、ブリュッセル福島良典】

毎日新聞 2009年12月1日 東京朝刊

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