厚生労働省は、レセプト(診療報酬明細書)のオンライン請求義務化方針を見直し、電子媒体や手書きでの請求を認める省令改正を行った。義務化はコスト増につながるとして反対していた県内の医療関係者からは「小規模医院の経営圧迫が回避され、地域医療が守られた」と安堵(あんど)の声が上がっている。
施行された11月26日、佐賀市内で医院を経営する男性医師は、県医師会の担当者から義務化見直しの一報を受け「これでまだ診療を続けられる」と胸をなで下ろした。自民党政権は2007年、オンライン請求の義務化を閣議決定。11年4月までに段階的に実施する予定だった。
現場の医師は「コストが高すぎて医療崩壊につながる」と猛反発。民主党も政策集で「義務化は医療関係者の理解が得られていない」として、「『原則化』に改める」と明言していた。横浜、大阪両地裁では医師約2千人が義務化撤廃を求める訴訟を起こし、県内からも20人近くの医師が参加。原告の1人、高木敏彦医師(64)=みやき町原古賀=は「小規模機関まで一律に高額負担を強いるのはあまりに乱暴。見直しは当然だ」と話す。
今回の改正省令では「オンラインでなくても電子媒体による請求も認める」と修正。男性医師のように手書きでレセプトを作成している医療機関については、手書き方式の継続を認め、電子化は努力義務になった。
小泉政権の構造改革で診療報酬が減らされたこともあり、男性医師は数年前に入院病床を廃止して外来専門に切り替えた。職員は自分のほかに看護師2人だけ。導入に数百万円、年間維持費が十数万円かかるオンライン請求コンピューターを導入すれば「新しく事務員も雇わなければならず、赤字になる。廃業するしかない」と覚悟を決めていた。
患者は近所のかかりつけの高齢者がほとんど。「廃業すれば、患者さんたちは遠くの病院にバスで通わなければいかんところだった」。自分の健康が許す限り、診療を続けるつもりだ。
■レセプト
医療機関が各健康保険組合に請求する診療報酬明細書。専用コンピューターで作成してオンラインや電子媒体で請求する方式や、プリントアウトしたり用紙に手書きしたりして書面で請求するやり方がある。県国保連合会のまとめでは、県内698医療機関中、オンライン対応済み機関は2割弱(10月現在)にとどまり、50機関は手書き請求だった。
=2009/12/01付 西日本新聞朝刊=