相談を通じて、ゆりかごに預けられたはずの子どもの生命がつながった‐。全国唯一の「こうのとりのゆりかご」(赤ちゃんポスト)を運営する熊本市の慈恵病院の蓮田太二理事長と田尻由貴子看護部長は28日、一時間半に及んだ会見と記者とのやりとりで、ゆりかごを運営する意義を強調しながらも、心身ともに大きな負担を強いられている現場の苦悩をにじませた。主なやりとりは次の通り。
‐熊本県の検証会議の最終報告書は、ゆりかごの相談業務を評価した。
蓮田理事長「相談で救われた赤ちゃんの数(130人)は、預け入れられた子よりもはるかに多い。相談が多くの赤ちゃんの幸せにつながっていると思う」
‐どんな相談があるのか。
田尻看護部長「自宅で夜中に出産したという熊本県外の女性から電話を受けて、飛んでいったことがある。子どもを育てられないと病院で泣く母親の話を明け方まで聴いてあげたら、思い直して自宅に子どもを連れ帰った例もある。そんなときは命がつながったと安堵(あんど)する」
‐現場での苦労は。
田尻「相談業務は私を含めて3人で担当しているが、4時間しか寝られず翌日の勤務に入ったこともある。運用を開始した2007年の秋には、過熱取材や(ゆりかごは安易な子捨てを助長していると非難する)嫌がらせの電話が殺到し、勤務中に倒れて入院した」
「1日に重大な内容の相談を何件も受けるのは本当につらい。3人で共有できるのが助けだ。心身ともに負担は大きいが、母親や幼い命が助かるという使命感がないとできない」
‐ゆりかごをやろうという医療機関からの相談はないのか。
田尻「ありませんね。うちは時間外の労働はボランティア、献身の理念がないと頑張れない。だからこそ経済的な裏付け、国の支援が欠かせない。各都道府県に24時間匿名で(妊娠・出産に関する)母親の相談を受ける窓口を設置してほしい。母子のシェルター(避難所)の設置や、親に代わって医療機関が出生届を行政に出せるようにすることも重要だと思う」
=2009/11/29付 西日本新聞朝刊=