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「漢方薬の保険適用除外はデマ」は悪質なデマ!医療現場から漢方薬が消える日

事業仕分けで、漢方薬を含む「市販品類似薬」は保険適用外にする方針が打ち出された(ただし、その範囲については要検討とされた)。ところが、漢方薬が保険適用除外されるならば、医療現場(病院など)で漢方薬が治療に使えなくなってしまう。今、この「漢方薬の保険適用除外」に反対する声が非常に高まっている。

ところが、その反対に水を差すデマ情報がネットの一部で流れている。その急先鋒「きっこのブログ」では、事業仕分けにおいて漢方薬の保険適用除外など論じられていない、それはデマだ、というデマが流されているのである。そこで、この問題についての事実関係をまとめてみた。

今回の論点は二つである。漢方薬が保険適用除外されたら日本の医療はどうなるのかというのが一点。もう一点は、事業仕分けにおいて(漢方薬を含む)市販品類似薬を保険適用外にすることが明確に論じられており、漢方薬がそこから明言的に排除されてはいないという事実を資料に基づいて記す。

2009年11月30日23:26|記事内容分類:医療・健康, 日本時事ネタ|by 松永英明
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タグ:事業仕分け
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「漢方薬の保険適用除外」は「漢方薬が医療機関で使えなくなる」ということ

事業仕分け:漢方薬の保険適用除外、医師や患者が反対運動 - 毎日jp(毎日新聞)

27日に終了した「事業仕分け」で、漢方薬などを保険適用の対象外とする方針が打ち出された。和漢薬研究が盛んな富山大学などの医師や研究者らは反発し、同大学の嶋田豊教授(51)=和漢診療学=は「漢方は全国の医師の7~8割が診療に取り入れている」と重要性を強調している。富山大付属病院では医師や患者らが反対の署名運動を始めた。(2009年11月28日毎日新聞)

「保険適用の対象外になる」=「医療機関で漢方薬を処方できなくなる」ということである。

これはどういうことか。

まず、前提として、日本の保険制度では「混合診療」が一切認められていない。つまり、保険診療と保険外診療とを組み合わせて治療することはできない。だから、保険のきく薬と保険のきかない薬を併用したければ、保険がきくはずの薬もすべて全額自己負担ということになる。しかし、そんなことはできないので、基本的に医療機関では「保険外診療を排除する」ということになる。

この制度の善し悪しは別として、現時点ではこういう実態があることを確認しておきたい。

さて、今回の事業仕分けでは「薬局販売薬と同じ成分である医療用漢方製剤」が、薬局でも売っているのだからというわけで保険から外されることが提案されている。となると、これまで使えていた漢方製剤を使った治療を行なうと、それが「混合医療」になってしまうのだ。そこで、医療現場から漢方薬をすべて排除しなければならなくなる。

医療用漢方薬が保険適用外 価格が3倍以上治療に支障? : J-CASTニュース」というJ-CASTの記事は不十分で、単に医療用漢方薬が全額負担になるというだけではないのだ。医療機関で使われなくなると考えなければならない。

たとえば「大建中湯」は腹部手術後のイレウス(腸閉塞・腸捻転)の予防・治療に使われているが、薬局でも販売できる漢方薬である。これが使えなくなると、イレウスの予防・治療に有効な選択肢が一つ失われることになってしまう。→参照:「113)開腹手術後の腸閉塞を予防する大建中湯 - 「漢方がん治療」を考える

たとえば「半夏瀉心湯」は抗ガン剤「イリノテカン」(商品名は「カンプト」または「トポテシン」)の副作用としての重篤な下痢に有効である。しかし、これも薬局で売っているメジャーな漢方薬だ。これが使えないとなると、ガン治療に有効とわかっており、実際に多く使われている方法の一つが奪われるのである。→参照:治癒力を引き出す がん漢方講座 第18話 下痢を改善する漢方治療:がんサポート情報センター

ツムラ漢方スクエア」のレポート「第67回 日本臨床外科学会合同シンポジウム 第15回外科漢方研究会」では、「シンポジウム1 臨床外科領域における漢方使用の現状と漢方外来」で発表された統計資料が掲載されている。

外科でも、漢方薬を「大部分の例で使用」2%、「使用する例もある」90%と大多数を占めている。特に大建中湯は87%の施設で使用されている。十全大補湯と補中益気湯も過半数の施設で使われている。

また、治療成績についても「治療成績の向上につながった」10%、「一部の例で治療成績の向上に貢献」72%との回答がなされている。漢方薬は、医療機関で必要とされているのである。

実際に効果があって代替も効かない医療用漢方製剤が多数ある。何より、現在、多くの患者が医療用漢方製剤の恩恵を受けているのだ。

このため、「日本東洋医学会」と「医療志民の会」が中心となり下記のHPにて署名運動を行っている。この問題について、医療における危機であると感じた方は、ぜひご署名ください。→「漢方を健康保険で使えるように署名のお願い」。第1回締切2009年11月30日(月)、第2回締切12月7日(月)。

事業仕分けに従えないと厚労相も

長妻厚労相が事業仕分けに異議 - MSN産経ニュース

 長妻昭厚生労働相は29日、政府の行政刷新会議の事業仕分けで医療用漢方薬を公的医療保険の適用外とする方向性が出たことについて「(仕分け結果を)そのまま受け入れることはなかなか難しい」と述べ、漢方薬の保険適用外に反対する姿勢を示した。都内で記者団の質問に答えた。

 長妻氏は、厚労省関係の事業仕分け結果に対し「かなりの部分を受け入れ、廃止する事業は廃止し、削減する予算を削減する」とする一方、「譲れない部分もあるので、そこはきちんとデータを付けて説明する」と強調。漢方薬については「市販のものを買って保険から外しなさいという指摘もあるが、かなり問題がある」と、事業仕分けで保険外化を求められた湿布やうがい薬などとは別扱いとする考えを示した。

 事業仕分けでは、財務省の論点ペーパーに沿った形で、薬局で市販されている薬(市販類似薬)は「保険外」とする判定が出た。市販類似薬の範囲については「十分な議論が必要」と結論を先送りしたが、漢方薬は、保険外となれば医療機関で処方することが難しくなるため、学会や製薬業界などから保険外化に反対する声が相次いでいる。

この長妻厚労相の判断は的確であると思われる。

「漢方薬の保険適用除外はデマ」は悪質なデマ!

これに対して、「事業仕分けによる漢方薬の保険適用除外はどうやらデマ」という情報がネット上で流れている。これは、悪質なデマである。つまり、デマというのがデマであって、「事業仕分けによる漢方薬の保険適用除外」は厳然として問題として存在するのである。

きっこのブログではこのように書いている。これは完全に誤りであり、デマである。

たとえば、以下は昨日の「毎日新聞」の記事だけど、これを読めば、誰だって漢方薬が保険適用の対象外にされたって思うだろう。

(※中略:冒頭に引用した報道記事)

ね? こんな記事を読めば、みんな簡単に騙されちゃうと思う今日この頃、皆さん、いかがお過ごしですか?

 

仕分け人が主張したのは、あくまでも1つの提案として、「ビタミン剤やシップ薬やうがい薬などの市販品類似薬は、町の薬局で買ったほうが安いものもあるんだから、保険から外したほうがいいんじゃないか」って言っただけで、まだ方向性すら決まってないのだ。

 

つまり、会議の中では、誰1人「漢方薬を保険適用の対象外にすべき」だなんて言ってないし、それどころか、ビタミン剤やシップ薬やうがい薬に関しても、こうしたことは「国民的議論が必要、慎重な検討が必要」なので、方向性を決めるのもこれからだって言ってる。そして、最終的な「評価コメント」においては、15人のうち11人が賛成したから「市販品類似薬は保険対象外とすべき」っていう基本方針を明記したけど、これにしたって何の強制力もない上に、総括として「どの範囲を保険適用外にするかについては、今後も十分な議論が必要である」って結んでるのだ。

 

とにかく、今回の各新聞の報道は完全にデマなんだし、漢方薬の関係者たちがヒステリックに反応してるのも正確な情報を知らずにやってることなんだし、こんなバカ騒ぎに巻き込まれて右往左往するなんて、それこそ、自転車でコケて顔を縫うのとおんなじくらいアホだと思う今日この頃なのだ(笑)

このきっこの認識は完全に誤りである。きっこのデマとプロパガンダとアジテーションは今に始まったことではないと言う人もいるだろうが、それにしてもこれを信じている人たちが「漢方を健康保険で使えるように署名のお願い」をバカにし、署名数が減ったとしたら、きっこは日本の医療を崩壊させるための先導者/煽動者となる。

では、ここできっこの妄言を否定する一つの資料を提示しよう。

行政刷新会議ホームページに掲載されている、「行政刷新会議ワーキンググループ・配布資料(11月11日)」の「午後の部(6)(pdfファイル)」が該当資料である。

このpdf資料の2-5 (4)I「市販品類似薬の薬価は保険外とする」 を見ていただきたい。以下にキャプチャ画像を載せる。これは財務省が用意した資料である。

事業仕分け資料

「湿布薬・うがい薬・漢方薬などは薬局で市販されており、医師が処方する必要性が乏しい。」

「国民の税金・保険料で持ち合う公的医療保険の対象として、湿布薬・うがい薬・漢方薬などは薬局で市販されているものまで含めるべきか、見直すべきではないか。」

事業仕分け資料拡大

「漢方薬」を保険対象外とする提案が明記されている。この資料に基づいて、実際に第2会場で評価された内容が、第2会場評価結果においてまとめられている。「第2WG 評価コメント 評価者のコメント(評価シートに記載されたコメント)事業番号2-5後発医薬品のある先発品などの薬価の見直し(厚生労働省)」ではこのようなコメントが掲載されている。

●市販品類似薬は保険対象外とすべき。単価比較をすれば、市販品の方が安くなるデータもある。材料の内外価格差も同様。

ただしこの「市販品類似薬」がどこからどこまでを指すのかについては、保留がなされた。同資料の末尾にこのように記されている。これが事業仕分けワーキンググループにおける正式な結論である。

エの市販品類似薬を保険外とする方向性については当WGの結論とするが、どの範囲を保険適用外にするかについては、今後も十分な議論が必要である。

この部分のみを取り出して「漢方薬を保険適用外にするとは一言も書いてない!」と叫ぶきっこは完全に誤っている。なぜなら、最初の資料において「市販品類似薬」は「湿布薬・うがい薬・漢方薬など」と明記されており、その資料に基づいて討議されている以上、「漢方薬は除外する」と明記されない限りは市販品類似薬に漢方薬が含まれると考えるのが妥当だからである。

しかも、ここでもう一つ指摘しておかねばならないが、医療保険適用対象である医療用漢方製剤は、すべて市販もされているという事実がある。医療用漢方製剤は100%すべてが「市販薬類似の医薬品」にほかならない。

産経新聞の記事は正確である。もう一度引用すると、「事業仕分けでは、財務省の論点ペーパーに沿った形で、薬局で市販されている薬(市販類似薬)は「保険外」とする判定が出た。市販類似薬の範囲については「十分な議論が必要」と結論を先送りしたが、漢方薬は、保険外となれば医療機関で処方することが難しくなるため、学会や製薬業界などから保険外化に反対する声が相次いでいる」という報道は正確であり、きっこの言うような陰謀はどこにもない。完全に事実であって、デマなどではない。極めて正確な記載である。

だからこそ、長妻厚労相はわざわざ「漢方薬の保険適用外に反対する姿勢を示」さねばならなかったのだ。

きっこが「今や完全に厚労省の操り人形になっちゃった長妻ちゃんまでもが、バカマスコミのデマ報道を鵜呑みにして、「漢方薬を保険適用の対象外にすべきだなんて、私は絶対に反対です」とかってトンチンカンなことを言い出す始末」というのは、もはや名誉棄損のレベルに達しているといえよう。

「ツムラ倒産」だけでは済まない大きな影響

硫化水素自殺というとんでもない「流行」のせいで、何の罪もない六一〇ハップ(ムトウハップ)の武藤鉦製薬が倒産したのは記憶に新しい。

すでに、湿布薬の久光製薬、漢方薬のツムラの株が売られるという事態が発生している。

NSJショートライブ - 毎日jp(毎日新聞)

 11月11日の政府の行政刷新会議ワーキンググループによる「事業仕分け」で、「湿布薬・うがい薬・漢方薬などは薬局で市販されており、公的医療保険の対象として見直すべきではないか」と議論され、「見直し」の判定を受けた。

 保険適用から除外されるという懸念で、湿布薬の久光製薬(4530)や漢方薬のツムラ(4540)の株価は売られた。

 みずほ証券では行政刷新会議事務局に問い合わせを行ったところ、市販品類似薬の範囲を定めることは「事業仕分け」になじまないということでただし書きとなり、十分な議論を行うのは厚生労働省と関連組織との見解を得たと11月19日のレポートで報告。

 医療用漢方製剤を保険適用から外すかどうかは行政刷新会議から離れ、厚生労働省に移ったと理解するが、厚生労働大臣の諮問機関である中央社会保険医療協議会(中医協)は医療用漢方製剤の有用性を理解しているので、保険適用から外されるリスクは非常に低いと解説。

「事業仕分け」の結論としては、漢方薬を含む市販品類似薬の「範囲」については要検討としか言っておらず、漢方薬をその範囲に含めないという明言はなされていない。となれば、この時点で「漢方薬は含まれない」と判断するのは軽率である。

しかも、この「範囲」を検討するのが実際に厚労省になるかどうかは、確定しているわけではない。今、まさにこの「漢方薬保険適用除外」について、反対の声を挙げるべきときなのである。

もう一度リンクしておく。この問題について、医療における危機であると感じた方は、ぜひご署名ください。→「漢方を健康保険で使えるように署名のお願い」。第1回締切2009年11月30日(月)、第2回締切12月7日(月)。大事な署名だから、二回リンクしました。「署名するのはバカ」というようなデマに惑わされないで......。

漢方薬以外の市販類似薬が病院から消えたら......

さて、もし仮に漢方薬が保険適用の対象外になるならば、ツムラなどが倒産するともささやかれている。それは、単に漢方薬の会社が一つつぶれるというだけの話では終わらない。それは、薬局も含めて漢方製剤そのものが手に入りにくくなるという事態を招くことが指摘されている。

そして、漢方薬だけではなく、多くの「市販類似薬」が医療機関での治療から消える可能性がある。薬局でも売られているが、病院でも欠かせないものの一例として、

  • 弱いステロイド軟膏
  • 特定の抗生剤入りの軟膏
  • 水虫の薬
  • 湿布薬
  • 内服の鎮痛薬数種(鎮痛剤として有名なロキソニンもスイッチOTC薬として申請されている)
  • 整腸薬
  • 消化酵素
  • H2ブロッカー
  • 便秘薬
  • 風邪薬
  • 花粉症薬の一部
  • 点眼薬の一部
  • ビタミン剤
  • 鉄剤

などを挙げることができる。

もちろん、さすがにそのような恐ろしいことは実際に行なわれないと信じたいが、仮に医療費(保険適用薬)を削減しようという動きが進んだとき、「医療機関で使う薬のあれもこれもたいてい保険適用外だから、これとこれとこれをドラッグストアで買ってきてください」ということになり、これまで保険適用だった薬を3.3倍~10倍の価格で購入しなければならないという事態が発生してしまう。

この節で挙げた事態はおそらく杞憂であろう。

しかし、少なくとも「漢方薬を保険適用外にしたって別にいいじゃない」という見解については、決して受け入れることはできないという意見をはっきりと表明しておきたい。

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2009年11月30日23:26|記事内容分類:医療・健康, 日本時事ネタ|by 松永英明
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[No.1] 投稿者:sage[2009年12月 1日 01:19]

少なくとも仕分け側の人は
「財務省案の市販品類似薬に漢方薬を含めるのに反対です。以上!」
と言って締めているわけですが、動画を見ましたか?
http://www.nicovideo.jp/watch/sm8782740

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