きょうの社説 2009年11月30日

◎金沢創造都市会議 ユネスコ登録の活用具体策を
 12月1、2日に開催される金沢創造都市会議は、金沢市がユネスコの創造都市ネット ワークにクラフト分野で登録後初めてとなり、金沢の歩む方向性を見つめ直す重要な場となる。

 ユネスコ登録に至る道のりを振り返れば、過去4回の金沢創造都市会議が、行政とは異 なる視点で金沢像を深く掘り下げ、具体的な提言と実践を繰り返してきたことが実現の力になってきたことが分かる。ボローニャ、バルセロナ、モントリオールなど、世界の「創造都市」には市民の側から都市政策を練り上げ、活発に提言する団体が存在するという。それがユネスコが登録に際して重視する条件の一つとされる。文化の力で都市を活性化させるという「創造都市」には、望ましい都市像を追求する、たゆまざる営みが不可欠である。

 「都市の世紀」と言われる21世紀は都市が連携する時代でもある。文化や芸術でつな がる世界的な都市ネットワークを活発化させることは、従来の姉妹都市交流を超えて金沢の個性を引き立たせることになろう。金沢創造都市会議には、「ユネスコ登録都市」という国際評価をまちづくりに生かす具体的な提言を期待したい。

 金沢創造都市会議は金沢経済同友会の創立40周年を機に具体化し、2001年に第1 回が開かれた後、金沢学会と交互に開催されている。中心市街地でのオープンカフェの社会実験など、具体的な取り組みを通して金沢の可能性を探るとともに、さまざまな提言が金沢市政、県政に反映されてきた。自治体の都市政策は国の制度や財源などの制約もあり、行政だけの発想には限界もある。その点で経済人や研究者が集い、既成概念にとらわれない発想で行政を支える都市会議の役割は極めて重い。

 5回目となる金沢創造都市会議の総合テーマは「都市の生命力」に決まった。歴史をた どれば、藩政期の金沢は工芸、芸能などの文化が盛んで、現代の「創造都市」の理念にも通じるエネルギーがあったに違いない。金沢に満ちあふれていた「生命力」を現代の都市づくりにどのように展開していくか。その実践こそが「創造都市」として飛躍する道である。

◎首相のアジア政策 米中印の間に埋没の危険
 オバマ米大統領がアジア歴訪に続いて、訪米したシン・インド首相とも会談し、アジア 太平洋地域の政治・経済が新たな時代へ一歩踏み出したといえる。鳩山由紀夫首相も「東アジア共同体」構想を掲げ、存在感を示そうとしているが、鮮明になったオバマ政権の「アジア回帰」の外交姿勢は、アジア地域の経済統合などをめぐる米国と台頭する地域大国の中国、インドとの新たなせめぎ合いの始まりでもある。その中に埋没しないアジア戦略を鳩山政権に求めたい。

 鳩山首相は先にシンガポールで行ったアジア政策の講演で、アジア太平洋地域の海を「 友愛の海」にしようと呼びかけた。国際社会に「鳩山ドクトリン」を示す気負いも感じられたが、関係諸国の人々の心にどれほど響いたであろうか。外交に必要なしたたかさの点で心もとない印象も残った。

 例えば、首相の唱える東アジア共同体構想は、その枠組みをめぐって米中など関係国の 思惑は異なり、「開かれた地域協力」を原則に共同体構想を進めるという日本自身が経済連携協定で遅れをとっているのが実情である。

 また、海外の災害救助に自衛隊を積極的に派遣するのはよいとしても、自衛艦にNGO やアジアの人たちも乗せて医療や文化活動を行う「友愛ボート」構想は、精神の尊さとは裏腹に、鳩山首相の外交・軍事感覚の甘さを印象づけることになりはしないか。

 首相はさらに、東アジア共同体構想の推進で、過去の戦争で被害を与えた諸国との「和 解」をめざす姿勢を示した。しかし、同構想の原型という欧州連合(EU)のような共同体を、政治体制の異なる国々が存在するアジアで実現するのは「遠い夢」と言わなければならない。共同体形成に関する外交に、戦後の歴史問題を関係づけることに危うさも覚える。

 日本経済が縮小し、外交力も欠くとなれば、米中印の間に沈む恐れも否定できない。理 想に走りすぎず、むしろ危機感を持ち、アジアの活力を取り込んで日本経済を持続、発展させる戦略の具体化に力を入れてもらいたい。