2009.11.17
これまで坂元裕二、野島伸司、水橋文美江、橋部敦子、浅野妙子といった多くの脚本家を輩出してきた『フジテレビヤングシナリオ大賞』。“実践”を目的にして設立した賞だけに、受賞者はプロの脚本家として次々デビューを飾っている。最近の連ドラでも、ライアーゲーム シーズン2』の黒岩勉、『任侠ヘルパー』の古家和尚、『アタシんちの男子』の武藤将吾など、『ヤンシナ』出身者の活躍が目立つ。
そしてこのたび、第21回の受賞者が決定し、授賞式が行われた。応募総数1450編の中から大賞に選ばれたのは、桑村さや香さんの『輪廻の雨』で、賞金500万円が進呈されたほか、佳作3編が選ばれ、賞金各100万円が進呈された。大賞受賞作品は、この冬に山本裕典主演で映像化、放送される予定だ。
ドラマ制作担当局長和田行は「どれも作品の質が非常に高く、そのままオンエアできるレベルというほどのものが集まりました」とレベルの高さを強調した。
審査にあたったプロデューサーの鹿内植は今回の『ヤンシナ』応募作品について「毎年エンターテインメント性の強い、軽いタッチのものが多い中、今回はかなり骨太なストーリー性、メッセージ性を持った重たい作品がいくつも上がってきました。毎年この『ヤングシナリオ大賞』はどんどんレベルが上がってきていますが、今年はまたさらにレベルが上がり、このまま即戦力にできるような作品、そして一つの作品を作っていく上でともに戦っていただけるような、そういった脚本家の方々を選ぶことができたような気がします。なかでも特に骨太な作品で人間の一筋縄ではいかないような感情を細かく表現し、描かれているものが選ばれました」と総評を述べた。
大賞の『輪廻の雨』は「弟への“愛情”と“憎しみ”に揺れ、世の中の不条理に苦悩する主人公の心の葛藤が繊細に描かれているというところ、そして静けさの後に大きなメッセージ性というものを感じた」ということで受賞が決まった。この作品は若きディレクター並木道子の初監督作品となり、今冬に放送が予定されている。また、今回の授賞式では『輪廻の雨』に主演する山本裕典とその弟役の瀬戸康史も授賞式会場に駆けつけ、大賞受賞者の桑村さや香さんに花束をプレゼント。会場を大いに沸かせた。
山本裕典は『輪廻の雨』について「すごく深い作品になっていると思う」、瀬戸康史は「難しいテーマの作品を若い人が残す、ということはとてもすばらしいことだと思います」とこの作品に出演した感想を語った。
『フジテレビヤングシナリオ大賞』は、脚本家を目指す方々の真の登竜門。フジテレビのプロデューサー、ディレクターは、ともに作品を作り上げる脚本家との出会いを常に求めている。
この作品は人間の負の部分を描いており、ヤングシナリオ大賞の、明るいさわやかなイメージとはかけ離れていますが、単純にいま一番自分が見たいと思う作品を書きました。大賞受賞の知らせを聞いた時、これまで自分が信じて歩いてきた道は間違っていなかったと言ってもらえたような気がして、うれしかったです。
弟への「愛情」と「憎しみ」に揺れ、世の中の不条理に苦悩する主人公の心の葛藤が繊細に描かれている。
母を亡くし、父には捨てられた主人公・三上孝平(23)。共に暮らす知的障害者の弟・修平が勤める工場の工場長に日常的に暴力を振るわれていると知った孝平は、工場の金を奪ったうえ、工場長を殺し、修平の手を借りて死体を山に埋めてしまう。捜査に動き出した警察は修平の言動から三上兄弟を疑い始める。「殺生はいけないこと」と教えられてきた修平は、「悪い人間は死んで良いものに生まれ変わる」と諭されるが、兄の殺人を理解できないストレスから警察や孝平の友人に逮捕の決め手となる言動を見せてしまう。ついに逮捕直前、何もかも修平のせいと思いつめる孝平は、修平を一人残して出て行ってしまう。雨の中、一人歩く孝平は、道すがら小さな仲の良い兄弟を見て足を止める。自分たちの小さいころを思い出し、思い直し帰ろうと振り向いた瞬間、そこには修平が立っていた。そして、孝平の腹に突き刺さった包丁。「昔の優しい兄ちゃにウマレカワル…」と修平。雨の中、兄を呼ぶ修平の声が響き渡る。
今、ようやくたどり着いたスタート地点と思っておりますので、この賞を励みにしてこれからも頑張っていきたいと思っております。
暗くなりがちな題材を扱いながらも、明るいタッチでテンポの良いストーリー展開。キレのあるセリフで登場人物を生き生きと描いている。
元彼に借金を背負わされ、イメクラ嬢として働く木下芹菜。自殺しようとビルの屋上から身を乗り出しかけた芹菜に名刺を差し出す男・岡田。「どうせ死ぬんだったら契約しない?」とワケありの契約結婚を持ちかける岡田の真意を図りかねるも、先の見えない生活を送る芹菜は申し出を受ける。岡田の家での岡田の母・和子を含めた3人の共同生活が始まった。岡田の入院中の妹・マリアの面倒を見るため病院に通ううち、だんだんと家族と心を通わせていく。しかし、ある日、病院で岡田、和子と医師の話を聞いてしまう。マリアの病気は肝臓の移植が必要で、結婚の目的は芹菜の臓器をあてにしての事だったのだと気づいてしまう。失意の中、一年ぶりに実家へ戻ると母は男と暮らしていた。帰る場所もなくセンター街をぶらつくうち、元彼に見つかり追われる事に。しかし、それを助けたのは岡田だった。岡田家に帰ると、待っていた和子が芹菜のために温かい味噌汁を差し出す。「いらねーし…」といいながらも、岡田に促され一口飲む芹菜。岡田と和子の暖かさを感じた芹菜は、岡田や和子、そしてマリアのため、肝臓を提供することを決意する。
長年取りたかった賞なので、佳作を受賞できて本当にうれしいです。今回、僕の作品が放送されるわけではないので、これから自分の作品が映像化されるように頑張っていきたいと思います。
ストーリーに起伏を持たせ、読み手を飽きさせないエンターテイメント性ある作品に仕上がっている。セリフ運びや展開に安定感があり、即戦力としても期待が持てる。
週刊誌の記者・飛城(35)は、「世の中の98%は金で解決できる」を持論にスクープを取りまくる“ミスター週刊誌”。手段を選ばず汚れ仕事を続けているのは、離婚した妻との間の娘・真実の養育費、つまりは金のため。飛城が後輩とともに担当した幼女殺害事件の取材で犯人の家族の独占インタビューに成功、しかし、その家族は自殺してしまう。加害者家族を追い詰めてしまった自責の念から後輩は記者を辞めてしまう。マスコミの業を痛感し激しく落ち込みながらも記者を続けていたある日、以前取材で出会った小学生のアイドル・愛里から助けを求めるメールが入る。メディアの帝王・神永にヌード撮影を強要されたという。自分の娘と同年代ゆえに娘を重ね合わせ、怒った飛島は神永の会社に乗り込むが、週刊誌のスポンサーである神永の圧力で記者の職をクビになってしまう。しかし、金をつかませた情報屋から神永のスキャンダルの決定的証拠を手に入れた飛島はマスコミに暴露して反撃。飛島はジャーナリストとして名を売り週刊誌に復帰した。結局は金で解決、そしてこのスクープは愛里のためでも正義のためでもなく、あくまでも自分の名を売るためにやったこと。ほとんどのことが金で解決できる、しかし、金でも解決できない何かを記者の仕事を通して見つけたいと思う飛島だった。
目標とした賞で佳作をいただき大変光栄に思っております。ずっとドラマ、映画、お芝居が好きでひとつのものを大勢でつくりあげていくというモノづくりの世界に参加したいと思い続けてきました。役者さんがぜひ演じてみたいと思うようなシーン作りをできるように書き続けていきたいと思います。
主人公・明海の気持ちを丁寧に描き、セリフだけでなくセリフ間の描写も細やかで、読み手の共感を誘う。舞台となる戦時中の日本の独特の雰囲気を出している。
第二次世界大戦時下、女学生・寺内明海は国のため兵器製造工場で過酷な労働を強いられている。明海は、姉がかつて活動家の林と交際していたために、周囲からは白い目で見られている。ある日、姉のもとに届いた林からの手紙を見つけ、それを隠してしまう。「林とは別れた」という姉の言葉が信じられなくなった明海。工場の責任者・湯坂にほのかな思いを抱くが、姉の一件で人を思うことへの嫌悪感からその気持ちを封印してしまう。
そんな折、明海は一度あきらめた進学を教師に相談するが、姉の件で進学をあきらめるべきだと言われてしまい、姉を責めてしまう。自己嫌悪に陥った明海は、湯坂に自分の混乱した気持ちを打ち明け、少しだけ心が軽くなる。
しかし、2人の仲をねたんだ友人らに「姉と同類だ」と責められ傷つく明海。それを見ていた友人の初枝は「湯坂が好きなくせに」と明海の湯坂への気持ちを指摘する。初枝の言葉で湯坂への気持ちを自覚した明海は、ようやく姉の気持ちを理解する。姉に謝ろうと家に帰るが姉は荷物をまとめて出て行ってしまっていた。隠したはずの手紙もない。慌てて駅まで追いかけるが見つからない。そこへ米軍機の襲来。大混乱の中、再会した姉妹はしっかりと手をつなぐ。帰り道、林からの手紙は決定的な別れの合図だったと姉に打ち明けられる。その夜の安らかな姉の寝顔にほっとする明海。終戦後の闇市で、湯坂と再会し胸がいっぱいになる明海。今度は素直に自分の気持ちを受け入れることができるのだった。
2009年11月17日発行「パブペパNo.09-279」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。